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街を歩き回るのもコンサルタントの大切な仕事

   ベトナムの首都、ハノイ――。喧騒に包まれた土曜の夜が始まる。家族4人がぴったりとくっつき、1台のスクーターにまたがって、僕のすぐ横を通り過ぎっていた。道路は無秩序に運転するバイクであふれている。ところかまわず、自動車がクラクションを鳴らして警告する。それでも、バイクは自由な軌跡を描いていく。

   地元の人は、少し進んでは数台のバイクを見送り、また進んでは見送り、そうして混沌とした道路を横断していく。僕は、とてもそんなことはできない。だから、バイクが途切れるのをまって、小走りに道を横断する。信号機がある交差点は本当に少ない。

   ホテルにもどって、バーに入る。西洋人の女性ピアニストがビートルズの「Yesterday」を奏でている。客の反応をいま一つと見たのか、もう1曲弾いただけで、引き上げてしまった。僕はもっと聴きたかったのに。やっぱり、社会主義の国なのかと、そんな思いが僕の頭の中をよぎっていった。

年長者の仕事から、若者でもできる仕事へ

(カット:長友啓典)
(カット:長友啓典)

   現代的なコンサルティングは、1926年に生まれた。今年で86年目になる。それは、ファクト・ベースド・コンサルティングだ。データや分析結果など、事実にもとづいてアドバイスを仕事である。

   ファクト・ベースド・コンサルティングの誕生は、コンサルティング業界を一変させることになる。

   実は、それまではコンサルティングという仕事は、経験者が経験にもとづきクライアントにアドバイスを行うものであった。だから、たいていはグレー・ヘアー(つまり白髪)のコンサルタントだったわけである。

   それが、ファクト・ベースド・コンサルティングの登場によって、若くてもコンサルタントになることができるようになった。レコメンデーションを主張するのは、コンサルタントその人ではなく、ファクトが主張しているという、位置づけになったからだ。

   その結果、コンサルタントは情報を収集し、分析し、分析結果の意味合いを考えることが仕事になった。だから、コンサルタントは明晰な能力が求められる。一気に、知恵のプロフェッションになった。

   私も、こうしたコンサルティング業界のパラダイム転換の恩恵を受けた人間である。よわい22歳にしてコンサルタントになった。そして、それから四半世紀以上も、僕は数値にまみれた日々を送っている。数値分析こそ、クライアント・サービスの基本になる。

数値化できないファクトもある

   ただ、すべてのファクトが数値データによるものではない。数値化できないものもたくさんある。それを集めて、レコメンデーションに反映させる。そうした情報を集めるには、泥臭く歩いて体で感じることが一番大事だ。百聞は一見にしかず、ということでもある。

   集める範囲も、日本だけではなく、世界中に広がる。僕はクライアントのために海外出張に出るたびに、必ず街を歩くことにしている。

   だから、僕は今日、一日かけてハノイの街を歩いてみた。街ゆく人を観察する。楽しそうか、幸せそうか。オペラ座近くで記念写真を撮る、たくさんの新郎・新婦を見た。ビルはどんな建物か。結構、コロニアルな建物が残っている。

   ハノイに高層ビルは少ない。ホーチミン・シティとは対照的だ。テナントはどこが入っているか。ほとんどのブランドを見つけた。街頭で食事をする人たちが多い。住居にキッチンがない証拠である。まだまだ、豊かとは言えない。でも、家族がぴったり寄り添いバイクで駆け抜けて行く姿は、この上なく幸せそうに見える。

   そして、僕が観た風景を、現地の同僚たちにフィードバックする。それにより、背景となる事実をしることになる。より正確なファクトへと高めていく。

   プロフェッショナルは、一見、頭脳労働に見えるかもしれない。でも、そうではない。泥臭く、歩き回ることも、大切な仕事なのである。

大庫 直樹