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日本人選手のために「ショウジキルーム」を作った外国人コーチ

   毎年、春になると「今年の新人は」「今どきの若者は」という話題が盛んになる。礼儀を知らない、敬語が使えない、タメ口にイラつくなど、上司や先輩、クライアントとの上下関係をわきまえないことへの不満を耳にする。

   ただ、このような日本組織のヒエラルキーは、かつての強みから弱みのひとつとなったという指摘もある。特に外国人から見ると、必ずしも望ましい特質に映らないようだ。ラグビー日本代表の前コーチ、マイケル・バーン氏は、自分の意見を言わない日本人選手のために「ショウジキルーム」という場を設けたという。

上下関係のために自由に発言できないことに驚き

外国人特集を掲げた『Works』の目次
外国人特集を掲げた『Works』の目次

   リクルートのワークス研究所が発行する隔月刊『Works』111号に、バーン氏へ取材記事が掲載されている。特集「201X年、隣の席は外国人」の一記事だ。バーン氏が代表チームで指導を始めたとき、初めに壁にぶつかったのが「自分の意見を口にしようとしない」日本人の姿だった。

   「質問はあるか」と尋ねても手を挙げず、「分かったか」と聞けば分かったと返事をする。しかし実際にフィールドに出てみると、分かっていない選手もいる。

   経験のある選手よりない選手が正しいことを言う場面を見てきたバーン氏は、若手であっても積極的に意見を言って欲しかったが、なぜか発言が出なかった。

   見かねたバーン氏は、先輩も後輩もなく誰もが恐れずに意見を言える、自由で安全な「ショウジキ(正直)ルーム」という場をわざわざ設けて、発言を促さざるをえなかった。最初は戸惑った選手たちも、だんだん意見を言うようになった。フィールドで言いたいことを言わずにいる選手には、「ショウジキルームを思い出して」と声をかけたという。

   言いたいことを黙り、周りの空気に従うことは、多くの日本人なら経験したことがあるだろう。しかし、外国人のコーチに「ショウジキルーム」を作ってもらわなければ、自分の考えも言えないのかと思うと、謙譲の精神は美徳にならないようにも思えてくる。

   なお、記事からはショウジキルームが議論専用のスペースであるかどうかは分からなかった。通常のミーティングルームで「今日はショウジキルームをやるぞ」と宣言したのかもしれない。

外国人が増えれば「日本人の問題」があぶりだされる

   このようなアプローチを採用した背景には、バーン氏の選手育成方針があるようだ。

   あるゴールを目指すとき、最適な方法についての考えを持ちつつ、「やれ」と言って方法を教える方が、一見すると早いように思える。しかし、納得せずに行ったことは身につかず、かえって時間がかかるというのだ。

   最適な解を見つけるためにアイデアを出し合ってやり方を決める方が、結局は近道だという。この方法を採るためには、一人ひとりが自分の意見を表明することが欠かせない。

   現時点では、一部上場企業の本社で外国人を活用している企業は、約半数にすぎないが、ビジネスのグローバル化が進むにつれて、外国人スタッフの割合が増えていくと予想される。その際、「謙譲の美徳」「暗黙の了解」を守っているだけでは、ストレスが溜まるだけだろう。

   外国人に対して「郷に入っては郷に従え」と言いたくなる部分も生じる一方で、日本人が「自分の意見を言わず、正直な気持ちが分からない」という問題があらわになることもありそうだ。