「N本さん、このお客さまのクレームの件なんだけど、A田さんっていうオペレーターさんにちょっと確認してきてくれない?」
「わかりました、A田さんですね」
「あ、A田さんの『お母さん』の方だからね」
(えっ、お母さん!?) コールセンターに入社して間もないころ、私は先輩からちょっとした案件を預かり、こんな言付けをされました。ウチの職場にはA田さんが2人いるけど、そういえば顔が似てるかも。
「A田さんて、もしかして親子で働いているんですか!?」
「そうだよ。娘さんも、もう2年位になるかな~。他にもS木さんや、U野さんも親子で働いてくれてるよ」
なんと、私の働くコールセンターには親子2代で働くオペレーターさんが珍しくないとのことでした。親子でこんなキツイ仕事を選ぶなんて、世の中にはスゴイ人もいるんだなぁと、私はびっくりしてしまいました。
コールセンターでオペレーターとして働いているのは、ほとんどが女性です。彼女たちは朝8時から夜の9時までの間にシフトに入り、長い人では1日8時間、督促の電話をかけ続けています。
パートやアルバイトの契約で働いていますが、長い人では7~8年のベテランもいます。特に優秀な人の中には契約社員を経て、正社員になる人もいます。
コールセンターのお仕事は、肉体的にも精神的にも大変な仕事です。中でも督促はストレスも多く、業界でも離職率の高い仕事とされています。そんな中で長年続けてくれているだけでも、同じ職場で働くものとして本当にありがたいのに、母娘で働いてくれるなんて本当に頭が下がります。
同じ職場の女性には、シングルマザーの方もいます。一般の事務や飲食店のパートよりも時給が高く、長年働くと昇給もするので、女手ひとつでお子さんを学校に通わせている人もいました。
シフトを比較的自由に調節できるので、朝8時から正午まで働き、いったん家に戻って家事をして、夕方6時から夜9時までふたたび電話をする、といった働き方もできます。
それでもコールセンターで働きつつ主婦業を行うのは、並大抵の苦労ではないはずです。そんなお母さんの背中を見て育つから、娘さんも進んでお母さんと一緒に働こうと思うのかもしれません。
私が全然督促ができなくて、何度も会社を辞めようと思っていたころ、仕事を続けようと思いとどまらせてくれたのも、実は彼女たちオペレーターさんがいてくれたおかげでした。
お客さまに怒鳴られて休憩室で落ち込んでいると、まったく面識のない数人のオペレーターさんが近寄ってきて、私の前にお菓子を山もりで置いていってくれました。
「N本さんって、なんだか娘みたいでほっとけないのよねー」
「元気だしてね~」
そう言ってもらったお菓子を、私は涙ぐみながら食べました。
今でも、自分の母くらいのオペレーターさんが電話で怒鳴られているのを見ると、本当に胸が痛みます。
その光景を見るたびに、彼女たちが少しでも怒鳴られる事が減るように、ほんのちょっとでもいいから「督促」「債権回収」という仕事と、それをどんな人がしているのかということを、世の中に知ってもらいたいと思うのです。(N本=えぬもと)