J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

「職場のいじめ」は本当に増えているのだろうか?

   全国の労働局に寄せられた個別労働紛争(労働者個人と会社の間で起きたトラブル)の相談件数は、2011年度で約25万6000件にのぼり、過去最多となった。「いじめ・嫌がらせ」が16.6%増えたことが、全体を押し上げたと見られる。

   千葉労働局のまとめでは、職場いじめの例として「上司に無視され続けて体調を崩し、退職を余儀なくされた」「上司から罵声を浴びせられ続け、退職せざるを得なくなった」といった相談をあげている。

いじめの被害者が「加害者」の場合も

本人と会社側の言い分が食い違うことも
本人と会社側の言い分が食い違うことも

   厚生労働省は、「企業を取り巻く環境が厳しくなり余裕が失われ、職場の雰囲気が悪くなっていることが背景にあるのでは」とコメントしている。業績の伸び悩みでリストラが必要になり、嫌がらせで自主退社に追い込むケースもある。

   一方、トラブルの中には、本当に「被害者」だけを救うべきなのかと首を傾げたくなるものもある。個別労働紛争のあっせん事例を集めた『日本の雇用終了』(労働政策研究・研修機構編)にも、「これは本当にいじめなの?」という事例が散見される。

   たとえばAさんという女性が、職場トラブルの解決あっせんを労働局に申請した。工場長からいじめを受け、専務からもたびたび「会社の悪口を言っている、他の人をいじめている」と身に覚えのないことで注意されたため、苦痛で体調を崩して退職せざるをえなくなったという。

   しかし会社側は、同僚であるBさんから「Aさんからひどいいじめを受けて仕事にならない」と泣きながらの相談を受けていた。そこで周囲に聴き取りをしたところ、「Bさんが可哀そうなくらい」という声があがり、「Aさんは新人が入ってくると必ずこういう問題を起こす」と指摘する人もいたという。

   本書ではこのようなケースを「相互被害者意識型」と呼ぶが、あっせん事例としてはAさんだけが「申請人」(被害者)にカウントされてしまう。どちらかというと、Aさんがいじめているようにも思えるのだが…。

   また、工場長や上司から「お前には他にやれる仕事がないじゃないか」と叱責され、退職せざるを得なかったと訴える男性に対し、会社側はこう主張している。

「仕事を教えても覚えず、自己判断でミスが多く、注意しても聞いていない等、上司や同僚、関係部署から苦情が殺到したが、『教え方が悪いから覚えない』と反省の意思がなく、(上司の)主任は精神衰弱で休職に至った」

「被害妄想?」と疑いたくなる事例もある

   また本書には、「コミュニケーション不全」ともいうべき事例も目につく。ある男性は社長から朝礼で「あなたは小学生以下だよ」等の暴言を受け、出勤できなくなって退社したと訴えている。

   一方、会社側の言い分は、高熱でインフルエンザの疑いもあるのに出社したので「小学校でも登校禁止だ」と言ったことを誤解しているというものだ。

   「会社は若返りを図り、シルバーを辞めさせようとしている」と訴えるものの、具体的な店長の発言が示されない事例もあった。本書には「主観的認識の乖離」「被害妄想的」という言い回しも見られる。

   ある社会保険労務士によると、職場いじめのトラブルには、本人が周囲に一方的に迷惑をかけ、注意されると「自分はいじめられている!」と訴えるケースも少なくないそうだ。

「ある程度の規模の会社になれば、必ず何人かいるんですよ。前の会社で同じトラブルを起こして辞めている人もいて、まさに『ブラック社員』なんです。怪しい社員とのやりとりは記録を残し、理不尽な言いがかりにも感情的に反応しないのがポイントなんですが…」

   悪質なハラスメントは根絶すべきだが、一方的に「悪いのは会社だ」「不況下で弱い労働者がいじめられている」と訴えても解決しない問題もあるのではないか。