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有休の「退職時取得」がコワイ… お盆にまとめて取らせていいか

   日本は、労働者の権利である「年次有給休暇」の取得率が最も低い国である。政府の調査では、「みんなに迷惑がかかる」が取得にためらいを感じる理由の1位だったが、お互いの迷惑をカバーし合ってこそ「和の国」ではないのか。

   ある会社では、退職時の有休取得をめぐって、退職者と上司との間でトラブルになった。上司は再発防止のために、人事に「会社がまとめて取らせて残さない」方法を提案したという。

「会社が勝手に使わせるなんて」と反発されそうだが

――製造業の人事です。先月、中堅営業社員の退職者が出たのですが、有給休暇の取得について、ちょっとした揉めごとがありました。

   彼は在職中、ほとんど有給休暇を取得したことがなかったのですが、有効期限が残っている有休を、退職時にまとめて取ると言い出しました。

   しかし営業部長が「そんなことできるはずがないだろ!」と、申請を頭ごなしに拒否したものですから、彼は激怒してしまいました。

「これまで有休の権利を行使できないほど働いてきたのに、どういうことですか? 会社を辞めたら、もう使えないんですよ。今度ばかりは絶対に休みますから」

   そして、その月は1日しか出社せず、月末で辞めてしまいました。部長は「完璧な引継ぎもせず辞めるなんて無責任だ」と納得いかない様子でした。

   しかし社内には、「部長の言いなりだったら、一日も休めなかったな」「部下のことなんてまったく考えていない人だと分かったよ」「私も辞めるときはまとめて取ってやる」と反発する声も。それを聞いた部長は、

「有休の退職時取得は、本当にコワイよな。どうにかして阻止する方法はないものか…。そうだ、お盆休みを有休で取らせて、未消化が残らないようにしちゃえばいいのか!」

と提案してきました。しかし、そんなことをしたら「社員が自由に使えるはずの有給休暇を、会社が勝手に使うとは」と反発を招きそうな気もします。実際、こんなことは可能なのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
年次有給休暇の「計画的付与」なら問題はない

   有給休暇の申請に対し、会社は「時季変更権」を行使することができますが、退職日が決まっている場合、有休を取得しきれない形での変更はできません。したがって、会社が有休取得を促進しないと、退職時にまとめて取得されて引継ぎなどに影響が出るリスクが高くなります。その意味でも、有休の消化率をある程度高めておくことは必要なことです。「誕生日休暇」や「記念日休暇の名目」で、分散して消化させることも考えられます。

   なお、会社がお盆にまとめて有休を取得させることは、「計画的付与」といって法的には問題ありません。実施するためには、就業規則に定め、従業員代表と労使協定を結ぶ必要があります。ただし、すべての有休取得日を会社が指定することはできず、病気など個人的な事由で取得できるように、少なくとも5日間は社員が自由に使えるようにする必要があります。新入社員など労働日数が少ないために有休が付与されていない社員には、特別休暇を与えるか、休業手当として平均賃金の6割を支払うことになります。

臨床心理士・尾崎健一の視点
退職時の「有休の買取制度」をルール化するのも手

   未消化の有休があるのにもかかわらず、退職者に残務や引継ぎなどをさせなければならない場合、会社は有休の買い取りを提案することが考えられます。有休の趣旨は労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持を図ることですから、それをお金で買い取ることは法に違反する行為です。しかし、退職で権利を行使できなかった分を買い上げることまでは、違法と考えられていないのです。これと同じ考え方で、会社が法定以上の日数を付与している場合の未消化分や、行使できずに有効期限が切れてしまった分の日数を買い上げることも許容されており、実際に行っている会社もあります。

   とはいえ、未消化の有休は会社が買い上げなければならない、と義務づけているわけではないので、必ずしなければならないというわけではありません。また、いくらで買い上げるかの相場が決まっているわけではありません。今回のように「有休の退職時取得は、本当にコワイ。どうにかして阻止したい」と思えば、社内ルールとしてきちんと決めておくといいでしょう。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。