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「悪質すぎるブラック企業」の告発本から、何を読み取るか

   ブラック企業のリアルな実態を告発した本が、立て続けに出版されている。ひとつは神奈川県内にある中堅不動産会社に勤める社員が、モンスター級に迷惑な社員や取引先、客の実態を明かしたものである。

   もうひとつは、就職アドバイザーを名乗る人物が、各種業界における恐るべき職場の様子を取材したものだ。いずれも匿名で書かれており、信頼性が保証された内容ではないが、このような形でしか告発できない話もあるということだろう。

逮捕経験もある法務部員が不動産会社の実態を活写

このような形でしか告発できない話もある
このような形でしか告発できない話もある

   『ブラック会社で出会ったモンスター社員たち』の著者は、ある不動産会社の法務部に勤務する高橋咲太郎氏。「一人法務」の高橋氏のもとには、会社をめぐるさまざまなトラブルの相談が日々持ち込まれている。

   高橋氏によると、ブラック企業の特徴のひとつは「働いている社員に厄介な人が多いこと」。ある社員は、お客から預かった申込金10万円を自分のポケットに入れて横領したうえ、後輩にその罪をなすりつけようとする。別の社員は、仕事が終わらないからと書類を机の引き出しに隠し、会社に8000万円もの損害を出したりする。

   ある営業マンは、マンション買い替えの客に「買い手がついた」とウソを言って二重ローンに追い込んでいる。それどころかトラブルが大きくならないよう、奥さんを誘惑して関係を持つ。この営業マンの被害にあった家族は、その後3組が離婚し、2組が破産したそうだ。

   高橋氏自身も、法務部員にもかかわらず「チラシ投函」要員に駆り出され、住居不法侵入で現行犯逮捕された経験がある。

   モンスターは、社員にとどまらない。取引先の会社は印鑑を偽造して架空口座を作り4000万円もの大金を騙し取ろうとするし、客だって円満に進んでいた契約を一方的に破棄し、払うべき手付金も払わないよう工作する。ブラック企業の周りに集まる人たちも、また厄介である。

サラリーマンに取材した「本当に恐るべき18の職場」の実態

   一方、就職アドバイザー・恵比須半蔵氏の『就職先はブラック企業』は、18人のサラリーマンの実体験を取材し、「こんな会社と知っていたら就職していなかったのに」という残酷物語を描いている。

   ある先物取引会社の社員は、避難訓練のように机の下にもぐりこみ、朝8時から夜10時過ぎまで毎日電話をかけまくっている。一度アポが取れれば、電話口で相場が高騰している芝居を打って客を騙し、泣き落としで成約を獲得する。

   お客の中には相場にのめりこみ、消費者金融の借金が膨らんで自殺した人も出た。初年度のボーナスは40万円を超えたが、精神的に耐えられなくなって退職。いまでも電話をかけるときにはドキドキする「後遺症」がある。

   リゾート会社に採用されたある新人は、入社当日に販売子会社への出向を命じられる。出向先の職場では部長の口癖が「ぶっ殺すぞ!てめえ、この野郎」で、すぐに平手打ちをする。入社1か月目に、先輩社員が過労の末に交通事故を起こして死亡した。お客に基礎工事費用を400万円と説明していたのに、会社が勝手に800万円の工事を済ませ、お客への説明を押し付けてきたという。

   そのほか、「パソコン教室」や「シロアリ駆除会社」、「催眠商法会社」や「浄水器の訪問販売」「零細出版社」「英会話学校」などの中小企業、大手の「メガバンク」「製薬会社」「自動車メーカー」や「IT企業」「広告代理店」なども例に挙がっている。

キレイごとしか書かれていない本より役に立つ

   筆者の恵比須氏は、本書で取り上げたらかといって「その業界全体がブラックであるとは言えない」と念を押している。しかし、長引く不況の中で生き延びるために、危ないブラック企業が増えているのは事実だ。

   魅力やメリットなどキレイごとしか書かれていないお仕事紹介本で、ありもしないホワイト企業を探すより、ブラック企業の紹介本を読んで「本当に危ない会社」を避けておく方が現実的かもしれない。

   もしもブラックっぽい会社に入ってしまったら、法務部員の高橋氏の本が役に立ちそうだ。彼の仕事は、モンスターたちが会社に与える損害を最小限にとどめ、会社が潰れないように法律を武器に戦うこと。

   ブラック企業を辞めない理由について、彼は「袖触れ合うも他生の縁」という言葉を使い、

「会社を守るために戦い、優良企業へ多少なりとも変えていくその一助になりたい」

と心境を説明している。ブラック会社の中には、こんな人も働いているのだ。