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「そんな就業規則、知りませんよ!」は通用するのか?

   自社の就業規則を見たことがない――。そんな人は、結構多いのではないか。法律は「知らなかった」では済まされないが、就業規則は「知らされていなかった」で効力が変わってくる。

   ある会社では、社用パソコンの私的利用に対して注意を受けたが、新入社員が「そんな規則は知らない」と課長に反論している。

「始末書? 納得できませんね」

――保険代理店の総務人事です。当社では業務専念と機密保護のため、会社のパソコンを使った業務に関係のないウェブサイト閲覧や、私用メールの送受信を禁止しています。

   2年前に就業規則を次のように改正し、すでに社員のネット検索履歴を監視し始めています。

「第22条 会社に属するコンピュータ、電話、携帯電話の使用について
(1)電話、FAX、インターネット、電子メールを無断で私的使用してはならない。
(2)会社は従業員のインターネット、電子メール、携帯電話等の利用状況等を従業員の承諾なく、必要に応じて調べることができる。」

   違反が多い社員には上司を通じて注意を促し、著しい場合には始末書を出させようと思います。今月は営業部の新入社員A君が対象になったので、課長に連絡したところ、こう反論されたのだそうです。

「えー、人のメールを勝手に見たんですか!? 信じられないっすよ…。就業規則に書いてあると言っても、僕は見たことないですし。始末書? 納得できませんね」

   そこで課長は「就業規則って、どこに行けば見られるんだっけ?」と尋ねてきました。確かに人事のフロアにはありますが、営業のフロアには置いてありません。

   A君は「初犯」なので、処分を見送るのはいいとしても、「知らない」では済まされないと思うのですが。こういうとき、どういう指導をすればいいのでしょうか―

社会保険労務士・野崎大輔の視点
共有サーバーに格納されていないと十分とはいえない

   会社は従業員に、就業規則を周知させる義務があります。「周知」の方法は、オフィスに掲示・備え付けしたり、コピーを社員に配布したり、共有サーバーにPDFデータを格納したりして、誰でも閲覧できる状態になっている必要があります。各デスクにパソコンがあるオフィスであれば、そこから閲覧できるようにして、それを誰もが知っている状態にしておくべきでしょう。今回の場合、違法状態とはいえないかもしれませんが、周知は不十分と言えるかもしれません。実務では目にしたことはありませんが、周知義務違反には30万円以下の罰金が科せられます。

   なお、就業規則を周知していなかった場合でも、社会通念上問題のある行為であれば、注意指導はできます。しかし、懲戒処分を下すとなると話は別です。私用メールは常識で考えればよくないことですが、始末書を書かせるためには、やはり就業規則の周知が前提になると思います。懲戒免職された従業員が、就業規則が周知されていなかったとして勝訴したケースもあります。

臨床心理士・尾崎健一の視点
「前向きの周知徹底」が経営リスクを抑制してくれる

   就業規則は、従業員が働く上で必要なルールです。ルールに不備があれば、労使トラブルの際に従業員を処分したくてもできなかったり、そのことによって会社が大きな損害を受けたりするリスクがあります。これは会社経営の根幹にかかわることであり、だからこそ法律で作成が求められているのです。経営者として法律の「難しいことは分かんない」「細かいことはいいんだよ」では済まされません。

   したがって、従業員に対する周知も「雛形を流用しただけだし、できるだけ見せたくない」のではなく、「きちんと必要なルールを定め、きちんと徹底していく」という方向に切り替える必要があるでしょう。単に閲覧できるようになっているだけでなく、従業員向けの説明会を開くとか、就業規則の意味を解説するマニュアルを添えるとか、前向きな周知徹底をした方がリスクを低く抑えられます。ルール遵守も図られますし、従業員からの質問で思わぬ抜け穴が発見できるかもしれません。新入社員はもちろん、中途入社をした人も含めて、きちんと理解できるようにしておくべきだと思います。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。