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なぜ街に「保険の相談窓口」が急増しているのか

   最近、街角で「保険の無料相談」を掲げる店舗を見かけることが多くなった。自社の保険商品しか扱わないところもあるが、複数の保険会社の商品から自分にあったものを選ぶための情報を提供し、相談に乗ってくれる場合がほとんどだ。

   こういった「来店型保険ショップ」と呼ばれる店舗は、主要5社が開設するものだけでも2012年末時点で1300近くあり、同年春から約1.5倍に増えている。各社はさらに店舗を新設すると表明しているが、なぜこのようなことが急に起きているのだろうか。

規制緩和による「商品多様化」と「競争激化」が後押し

ここ1年で倍増の勢い? ショッピングモールの一角でも見かけるようになった
ここ1年で倍増の勢い? ショッピングモールの一角でも見かけるようになった

   生命保険業界の歴史に詳しいオリックス生命の商品開発部長・越川直毅氏によると、このようなショップが生まれる背景には、1996年の「金融ビッグバン」からの流れがあるという。それは、規制緩和による金融商品の多様化と、それに伴う競争激化だ。

   かつて保険商品といえば、長らくその会社が雇用する「生保レディ」が一社専属で販売しており、保険代理店も一社の保険しか扱えなかった。それが保険業法の改正により、代理店が複数の保険会社の商品を扱えるようになった。

   これにより、いわゆる「乗り合い代理店」が当たり前になった。保険会社は代理店に積極的に扱ってもらえるよう、商品開発に工夫を凝らすようになった。

   あわせて、損保会社が子会社を通じて生保に参入できるようになり、保険商品の多様化が一気に進んだ。これにより「どの商品も同じ」だった時代から、多様な商品を選べる時代となったが、その代わり「商品が多すぎて選べない」という人も現れた。

   そこで、複数の商品を比較して組み合わせるコンサルティングへのニーズが高まった。注目を集めたのが「来店型」のショップである。相談自体は代理店の生保レディでも可能だが、見込み客を探すコストがかかってしまう。

   しかし「来店型」であれば、見込み顧客は自分から足を運んでくれるので、ショップは顧客獲得のコストをかけずに済み、その分を取り扱い商品の拡充や相談サービスの強化にあてることができる。

   ショップは、人通りの多い繁華街や、家族連れの集まるショッピング施設の一角など、より足を運びやすい場所に設置されるケースが増えている。顧客層に合った場所選びが進んだために、目につく機会も増えているといえるだろう。

情報を基に自分で判断する「自己責任」が原則

   2005年に全面施行された個人情報保護法も、生保レディからショップへの移行を後押しした。企業のセキュリティが厳しくなり、生保レディのオフィスへの立ち入りを制限。名簿業者から入手した情報による電話営業やダイレクトメールもしにくくなった。

   保険会社が雇用した一社専属の生保レディから、乗り合い代理店による来店型ショップへ――。まるで電気製品の流通が特約店から量販店に移り、商品開発や価格設定に影響を与えたのと同じような「流通革命」が、保険の世界でも起こっている。

   そんな便利なショップだが、各社が掲げる「中立的な相談」には若干の注意が必要だ。コンサルティング料を得て総合的・中立的な視点からアドバイスするファイナンシャル・プランナーと違い、ショップの相談料は無料。収入源は、保険会社からの販売手数料だ。

   代理店に支払う手数料は、保険会社が自由に設定できるため、ショップは「自社に有利な商品」を勧める可能性も完全には否定できない。とはいえ、いいかげんな提案をしていれば顧客の信頼を失うことにもなるし、ネットで悪評が広まるリスクもある。

   ショップの提供する情報は、それなりに信用できるといえるが、最終的に保険商品を選ぶのは自分であり、他人任せにせず情報を確認し判断する必要がある――。これも「自由と自己責任」を原則とする金融ビッグバンの一側面ということだろう。