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「歩合給の導入」に一部の社員が大反対 押し切っても大丈夫?

   ユニクロ(ファーストリテイリング)の柳井会長は、テレビ番組のインタビューに「サラリーマンの社会は終わった」「理想の店長は自営業者」と語っている。要は「一定以上の給料をもらうからには、それなりに自分で稼いでくれ」ということだろう。

   不透明な事業環境の中で、柳井氏の考えに共感する経営者も多いのではないか。ある会社では会社の課題達成に向けて、経営者が「歩合給」の要素を導入しようとしたところ、一部の社員から強い反発を受けて頭を抱えている。

同意書の提出を拒否した社員は解雇したい

――ここ数年業績が悪化している広告代理店の経営者です。業界の構造的な問題があり、来年度はボーナスカットだけでは乗り切れそうにありません。

   そこで、給与体系を根本的に見直し、基本給を下げて、歩合制の要素を入れたいと考えています。新規開拓が営業の課題になっているのにもかかわらず、決まった取引先としかやり取りしない社員がいるからです。

   制度説明をかねて社員と個別面談をしたところ、一部の社員から「基本給が下がるなんてひどい」「いきなりそんなことを言われても困る」と大反対の声があがりました。

「新規営業する余裕はないです。新しい人をつけてください!」
「いまさら仕事のやり方を変えろって、暗に辞めろと言っているんですか?」

   結局、1人は退職を決めましたが、多くの社員は「会社の現状を考えたらそうするしかない」と納得してくれ、同意書も提出してくれました。

   しかし、数人が断固反対として、同意書の提出を拒否しています。この場合、反対者がいても押し切って制度変更はできるのでしょうか。同意書を出さない社員にも新制度を適用してよいのでしょうか。

   また、同意書を出さない社員は、会社の秩序を乱していると言うこともできると思いますが、懲戒処分や解雇をしてもいいものでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
労働組合のない会社では同意書なしに改定できる

   給与体系の変更には、賃金規程の改定が必要です。これを行うためには、労働組合のある会社では「労働協約」の見直しが必要になります。労働組合のない会社では、労働協約を締結する必要はありませんが、社員に説明して個別の同意書をもらえるように努める必要があります。全員に同意をもらうのが理想ですが、今回のように同意しない社員もいると思います。このような場合でも新しい規程は、同意書を提出しない社員にも適用することができます。

   ただし、経営上の必要性や、社員が受ける不利益の程度、社員にきちんと説明したかといった点が不十分であれば、不利益変更について民事訴訟を起こされ、規程改定が無効となるリスクが生じます。同意書を出さなかったという理由だけで解雇することも、不当解雇で訴えられるおそれがあります。経営者は、会社に労働組合がないからといって強引に規程を変えることはせず、経営上の必要性などについてきちんと社員に説明するステップを踏むことが大事です。

臨床心理士・尾崎健一の視点
役員報酬のカットなどの姿勢を見せた方がよい

   社員にモチベーションを保って働いてもらうためには、給与のような生活に直結した制度の見直しは急激な変化とならないよう、移行期間を設けて段階的に減額する配慮が必要です。また、会社として社員に痛みを強いる変更であれば、まずは経営者から条件変更を始めないと納得性が薄いものです。「会社存続のために、労使が痛みを共有して乗り越えよう。役員報酬を1年間20%カットするので、社員は新しい制度の見直しを受け入れて欲しい」といった姿勢を見せることで、受け入れてもらいやすくなると思います。

   歩合制を導入する際には、「基本給は下がるが、高い業績を上げた人には今までより高い報酬になる」といったメリットのある制度設計をし、分かりやすく説明して実行に移すことが大切です。約束を守れなければ、一時的に経営危機は回避できても、優秀な社員の定着やモチベーション維持を図ることはできなくなります。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。