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「バースデー休暇」の廃止って、労働条件の不利益変更になるの?

   業績悪化を受けて、手厚すぎた福利厚生を見直す企業が増えている。仕事に関係のない諸手当を廃止し、仕事に応じた賃金にシフトしているところが目につく。

   ある会社では、業績好調時に作った「バースデー休暇」を廃止しようと考えたところ、社員から猛反発を受けたという。しかし会社としては、社員の稼働率を上げるという課題があり、人事担当者が頭を抱えている。

「元々なかったものを元に戻すだけ」と言えないのか

――ソフト開発会社の人事です。「社員が会社を支えている」という創業者の考えに基づき、3年前から通常の有休のほかに、有給の特別休暇を設けています。

   しかし、業界の競争が激しくなり、コストを抑制しながら開発スピードを上げる必要が出てきました。稼働率を改善するために槍玉にあがったのが、この特別休暇です。

   会社としては、年1回の「バースデー休暇」と、入社3年目・5年目に付与される「永年勤続休暇」を取りやめようと考えていますが、社員からは不満が続出。

「いつも楽しみにしてたのに!」
「家族もそれを当てにして予定を立てているし」

と猛反発を受けてしまいました。永年勤続については「来年ようやく対象になるのに不公平だ」という声もあがっています。

   しかし、もともと法律に定められていないものを、会社が社員に配慮して作った制度を元に戻すだけのこと。既得権として守るべきというのも図々しい気がします。

   特別休暇は就業規則で定めているので、もちろん変更の手続きはします。しかしこのままでは労働者代表から反対意見は出そうなので、会社の事情を説明して突っぱねようと思っています。何か問題はあるでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
「突っぱねる」こと自体は手続き上問題とならないが

   確かに就業規則の変更にあたっては、「使用者は事業場の過半数代表の意見を聴取しなければならない」とされています。この意味は、意見を聴取して書面として添えればいいということであり、賛成多数でなければならないわけではありません。したがって、ご相談のように「突っぱねる」こと自体は違法とはいえません。

   ただし、不利益変更が妥当と判断されるためには、それが合理的なものでなくてはなりません。「労働者が受ける不利益の程度が大きすぎないか」「労働条件の変更の必要性が確かにあるのか」「労使間で十分に交渉したのか」「不利益変更に対する代償措置はあるのか」などによって判断されます。もしも労働者から訴えを起こされ、裁判で合理的とはいえないと判断された場合には、不利益変更が取り消される可能性があるので、会社はリスクを認識すべきです。実際、ご相談内容に近い裁判が昨年あり、休日カットは不当という労働組合の主張が認められています。

臨床心理士・尾崎健一の視点
「代償措置」を設けるなど納得できる条件とセットで

   労働条件の不利益変更を行うことによって、社員の反発を受けることは十分に予想されることです。できるだけ円滑に合意を得たいと思うのであれば、手続きの正当性を主張するだけでなく、社員が納得できる条件面の内容を揃えておくべきです。「社員が会社を支えている」という創業者の考えを尊重することも、企業経営においては重要でしょう。

   納得性を高める方法のひとつは、野崎さんのコメントにもあった「代償措置」を設けることです。例えば、バースデー休暇を廃止する代わりに記念品を贈るとか、有給休暇の取得率をあげたり休日出勤の日数を減らしたり、特別休暇を減らした分を給与に反映させるなどの制度を組み合わせることが考えられます。変更が大きな場合には、移行措置を設けることも社員の納得を得やすいでしょう。また、稼働時間を増やすことが目的であれば、特別休暇は変更せず、休日出勤を増やしたり、残業手当を割増したりする方法もあるかもしれません。