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労働基準監督署にうまく動いてもらうための3つのポイント

   テレビや本の世界では、ブラック企業のやり方に我慢できず、「労働基準監督署に駆け込んでやる!」と毒づく場面が出てくる。しかし残念ながらブラック企業の経営者たちは、労基署の腰が重いことを知っており、あまり恐れていないのが実態だ。

   労基署が思ったように動いてくれないのは、労働者側の使い方にも問題がある。彼らの役割を正しく理解し、彼らにうまく動いてもらうためのポイントを突くことが大切なのだ。

「労基法違反」を取り締まる役目と理解しよう

労基法違反の証拠もないのに労基署は動けない。あらゆるトラブルを解決できるわけではない
労基法違反の証拠もないのに労基署は動けない。あらゆるトラブルを解決できるわけではない

   労働基準監督署は労働基準法に規定された官庁であり、その中では労働基準監督官が働いている。彼らは労基法違反についての逮捕権を持った司法警察職員だ。

   労基署の動きが鈍いという声はよく聞かれるが、実は彼らに効果的に動いてもらうためには、これから述べる「3つのポイント」を押さえておかねばならない。ひとつめは、労基署には「労働基準法上の違法行為」を申告すべきだということだ。

   監督官はあくまでも労働基準法(最低賃金法や労働安全衛生法などを含む)の番人として事業所を取り締まることが仕事で、介入権限もその範囲に限られる。強制力を持つということは、それなりに慎重な対応が求められる、ということでもある。

   労基署には警察と同様に「民事不介入」の原則があり、会社や経営者などとトラブルになった個人の救済については、「社長ともっとじっくり話し合ったら」とか「裁判で訴えたらどうですか」などと助言されることもある。こういう反応に対し「労基署は労働者の利益を守ってくれないのか」と憤慨し、冷たい対応をされたと批判する人もいる。

   しかし労基署はあくまで「労基法違反の取締り」が仕事であり、残念ながら「労働者のお悩み相談所」ではない。事業所内で起こったことであっても、暴行などの刑法違反が明らかなものについては、警察に訴えた方が早道なのは言うまでもない。

労働審判など別の手段で解決した方がよい問題もある

   2つめのポイントも、これと密接な関係があるが、労基署には「違法行為の証拠を持って垂れ込もう」ということだ。違法行為が確認できる資料もないままに臨検(立ち入り調査)すれば、立ち入った会社から「事業活動が阻害された」などと批判を浴びるおそれもある。

   特に個々の会社の内情やそれまでの経緯によって判断が難しい「名ばかり管理職」や「不当解雇」といった問題は、労基署での解決は困難と考えてよいだろう。裁判より簡易な手続きで個別労働紛争を解決する労働審判の利用などをお勧めしたい。

   逆に監督官が得意な分野は「賃金不払い」で、証拠があれば対応も早い。タイムカードや給与明細書、就業規則、業務日報、業務指示のメール、経営者や上司との会話録音などを揃えて、ぜひ労基署に情報提供してもらいたい。

   なお、証拠を重視する労基署では、「匿名の情報提供」よりも「氏名と連絡先を明らかにした告発」が優先的に対応される。匿名メールを受け付ける体制もあるが、その場合も信憑性が感じられるもので、かつ悪質なものから対応することになる。

   3つ目のポイントは、緊急度や重要度の高い問題であることをアピールすることだ。逆に言うと、個人的に腹に据えかねることでも、違法行為の度合いが悪質でなかったり、緊急対応が必要でなかったりするものには、なかなか着手してもらえないと考えた方がいい。

「労基署は怠慢」と言いたい気持ちも分かるが

   理由は簡単で、労基署が抱えている案件が多すぎるためだ。彼らはひとつの案件を抱えるたびに、それにまつわる監督、指導、臨検、逮捕など、非常に多くの「やらねばならないこと」が出てくる。必然的に案件を抱えること自体に慎重にならざるを得ないのだ。

   限られたリソースで案件にあたるためには、当然ながら優先順位をつけなければならない。したがって、すべての案件にただちに時間を割いて対応する、というのはなかなか難しい。

   ブラック企業にまつわる議論にはしばしば、「労基署の怠慢がブラック企業をのさばらせている原因だ」という批判が出てくる。気持ちは分からなくもないが、まずはこのような現状であることを理解してから話を進めていきたいものだ。

   これを解決するためには労基署職員の数を増やすのが手っ取り早いのだが、なにぶんこのご時勢、公務員を大幅に増やすことは難しいだろう。

   民事上の問題では動いてくれないが、あらかじめ監督官が得意な労基法上の問題に絞込み、できるだけ証拠をそろえれば、緊急度、重要度の高いものであれば労基署だって動く。そんな特徴を正しく理解して活用したいものだ。(新田龍)