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過労死するのは「有能で思いやりのあるタイプ」 時短勤務者の肩代わりが危ない

   非常識な長時間労働や激務が原因で過労死に追い込まれる不幸なケースが後を絶たない。厚生労働省によると、過労死など脳・心臓疾患に関する労災補償の請求件数は、2011年度が898件で2年連続増となった。

   なぜこのような悲劇が繰り返されるのか。フリーの麻酔科医である筒井冨美氏は2013年9月18日付の「東洋経済オンライン」で、小児科勤務医だった中原利郎医師の「過労自殺」を取り上げ、その一因を「時短勤務の正社員」の存在と絡めて論じている。

「出産・育児をする同僚」のしわ寄せが過重労働を生む

責任感が強く有能な医師の「過労状態」は続く
責任感が強く有能な医師の「過労状態」は続く

   中原医師が自殺する直前、勤務医が6人から4人に減ったうえ、中原医師以外の3人の女医は「育児や介護を理由にフルに働けなかった」という。ただでさえ多忙な日常業務に月8回の当直まで強いられた末、精神を病んで1999年に投身自殺をしたとの内容だ。

   筒井氏はこのケースを含め、勤務医の過労死について、

「有能で思いやりのあるタイプが死んでしまい、『そもそも他人の仕事をカバーできるだけの能力がない』『他人に自分の仕事を押し付けることを躊躇しない』タイプは過労死しない」

とやりきれなさを隠さない。

   矛先は「カバーしてもらう側」に向く。筒井氏が焦点を当てたのは、時短勤務者だ。2012年7月1日施行の改正育児・介護休業法では、短時間勤務制度が義務化された。3歳未満の子どもを育てる従業員に対して、1日の労働時間を原則6時間とする。

   その場合の賃金は75%というが、ホワイトカラー系の場合「仕事の生産性は単純に労働時間に比例するものではなく、往々にして仕事の難度も労働時間に比例」する。時短勤務者の「コストパフォーマンス」は、2時間残業する社員の36%程度にとどまると分析する。

   時短勤務者の代わりをするのは、結局は現場の同僚たちだ。もちろん産休を取得する女性社員は以前から存在したが、現在より少なかったので「支える人」が「支えられる人」を上回り切り盛りできた。

   しかし今日では「上」に多くの高齢社員、「下」は非正規社員が増えたため以前のように代替人材が賄えず、「支えられる人」の方が多い逆転現象が起きているところもあるという。結局、頼りになる「支える人」が何人分もの代役を担わされる羽目になるのだ。

「パフォーマンス低下」の責任を誰が取るのか

   筒井氏は、自殺した中原医師の遺書の中に「わが病院でも女性医師の結婚・出産の際には、他の医師に過重な負担がかかっているのが現状です」との記述があったと説明したうえで、こう主張している。

「『女性がいつ妊娠・出産するかは本人の自由』ではあるが、同時に『出産・育児によるスキルやパフォーマンスの低下は、あくまで本人が責任を負うべき事柄』とも私は考える」

   出産・育児中の女性の働き方については、作家の曽野綾子さんが週刊誌上で「出産したらお辞めなさい」と題した持論を展開し、大論争になったのが記憶に新しい。

「赤ちゃんが発熱したのを理由に、母親社員が早退するのを毎度快く送り出せる会社ばかりではない」

とする一方で、育児が終わった女性のために再就職先の確保を拡充すべきとの意見だった。

   ふたりの主張は別の次元の内容だが、産休や育児休暇、時短制度を利用する人が出てきたら、それを現場が埋め合わせしなければならないという事実の指摘は共通している。行き過ぎれば、特定の人に過重な負担がのしかかり、その結果過労死に至っては悲劇の極みだ。

   全日本トラック協会が発行する「健康障害・過労死等を防ごう」の中にも「過労死等を起こしやすいタイプ」として、「我慢強さを必要以上に大切にしたり、ものごとを悲観的に考えたり、犠牲精神に富んだ性格」を挙げている。職場内での「お互い様」は大切だが、現場での支え合いだけで乗り切ろうとするのは禁物だ。