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「40歳定年制」の時代に求められる「自分の未来に投資する」働き方

   政府の国家戦略室フロンティア分科会が「40歳定年制」を提言して、1年あまりが経過した。新卒の正社員の無期雇用を40歳の時点でいちど見直し、新たな有期雇用を結びなおすというものだ。

   これによって多様な働き方を促し、社会の生産性を上げるという考え方だ。しかし提言の内容が十分理解される前に、各方面から「使い捨て反対!」などの声があがり、議論が立ち消えになってしまった。しかし40代の企業戦士たちからは、すでに会社からのプレッシャーが強まっているという声が聞かれる。

最初から「不惑」を節目に自分のキャリアを考える

中山マコト氏の「フリーで働く前に!読む本」(日本経済新聞出版社)
中山マコト氏の「フリーで働く前に!読む本」(日本経済新聞出版社)
「もういい歳なんだからさ、部下を率いて稼ぎを上げるマネジメントができないなら、給料を下げるか、どこか別の職場で仕事をしてもらうよ…」

   そんな感じで、肩を叩かれているというのだ。現実はすでに、「40歳でキャリアをひと区切り」「将来性ある若者からの搾取は許さない」という方向に動き始めているのだろう。

   いわゆる昭和的ヒエラルヒーに囚われず、のびのびと働く若手社員たちは、「年が上」とか「社歴が上」とかをあまり問題にしない。先輩社員は年齢を理由に、彼らに威張ることができなくなってしまった。

   若いころからそこそこの給料を得てきたバブル世代に至っては、「終身雇用は後払いだから」という言い訳が通用しなくなっている。

   そんな時代に「昔はよかった」と言っても始まらない。最初から「不惑」を節目とし、自分のキャリアをどう設計していくか、自分の頭で考えていくしかない。それが可能な選択肢をあらかじめ準備する会社が、今後は増えてもおかしくないだろう。

   いずれにしても、40過ぎれば「仕事は部下に任せて左ウチワ」という時代は終わってしまった。そんなことを許す会社は、いずれ生産性を落として傾くことになる。入社時の学歴で、いつまでも社内の序列を作っていても意味がない。

   そんな時代に、いまの20代から30代の働く人たちは、どんなことを意識すればよいのか。『フリーで働く前に!読む本』(日本経済新聞出版社)を執筆したフリーランスの中山マコト氏は、「自分の未来に投資する」ことを意識すべきだという。

「万一のための基礎体力づくり」をしながら働くこと

   中山氏の会社員時代は、全社売り上げの8割、利益の7割は彼が率いる部署が上げていたという。しかしいくら頑張っても、周囲は「みんな敵」と思える日が続いた。

   寝る間を惜しんで仕事をしているのに、社長は銀行との会食に呼び出し、部下は「報告書のチェック」や「クレーム処理への同行」を頼み、クライアントは飲み会に誘うなど足を引っ張るばかり――。そんな傲慢な思いに駆られていたこともあった。

   しかし独立した今では、すべての仕事を自分で抱え込み「人を育てなかった自分が100%悪かった」とか、「あの環境のおかげで力がついた」と思えるようになったそうだ。そして、過去の苦しい日々が「未来への投資」になったのだという。

「こんなに大変な思いをしているのに、自分への見返りは少ない。そのことは間違いではないし、そう思うのも当然という側面もあります。しかし、そのように一つひとつの課題を乗り越え、難局を突破していくことが、万一のための準備であり、基礎体力づくりになるのです」(中山氏)

   会社で生き残るにしても独立するにしても、「仕事の基礎体力」は欠かせない。任天堂の岩田聡社長は社長に必要な資質として「一番当事者意識が高い人」をあげ、「あらゆる事柄を『自分事』にできる人、『どうにかする』ということに執念があり、せっかちになれる人」が社長に適しているという。

   すべてを抱え込んで潰れてしまう人では困るが、「『会社のため』は『自分の未来のため』」(中山氏)という考え方で多くの仕事に立ち向かえる人が、結果的にいつか「会社で大きな裁量を持てる力」や「会社から自由になれる力」を得ることができるというわけだ。

「不確実で不安な時代」か、より「自由な時代」なのか

   仕事とは「給料と引き換えに、上司の指示に従うこと」という考え方もあるが、中山氏は「それは自分がいつまでも会社に雇われる保証がある時代の話」という。40になれば自分の進路は自分で決めなくてはならないとすると、自分の給料を自分で稼ぐための「体力」が欠かせない。

   考えてみれば小・中学校の間は、何も考えなくても進級や進学ができた。しかし高校から先は自分で努力し、自分の能力を踏まえて進路を決めたものだ。40歳とはいわば、そんな「進路の分かれ目」だったのかもしれない。

   とはいえ、「40歳で全員解雇」という時代が来るわけではない。会社に引き留められて組織のマネジメントを担う人もいるだろうし、専門性を生かして同じ仕事をさらに深める人もいることだろう。

   一方で「重責は引き受けたくない」「給料は下がっても、ハードワークも残業もしない」と宣言し、とにかく雇ってくれと頼むのも自由だ。会社の引き留めを断って独立し、古巣からの仕事を引き受けてもよい。いずれにせよ、中山氏のいう「未来の売り物をつくり上げるんだ!」という気持ちで残りの時間を過ごし、準備をしておく必要がありそうだ。

   そういう世の中を「不確実で不安な時代」と表現する人もいるかもしれないが、自分の人生を会社まかせにせず、自分の意思を交えて選択することができるという意味で、より「自由な時代」と考える人もいるのではないだろうか。