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「もうすぐあがり」の「ぬるま湯」部長ら 「定年まで塩漬け」か、辞めてもらうべきか

   少し前の話ですが、40代後半のOA機器販売代理店C社社長からこんな依頼がありました。

「営業所長クラスに活力がない。そろそろ彼らを抜擢しての引退間近の部長連中との世代交代の時期も近いと思っているのだが、このままではそれもままならない。管理者としての自覚と主体性を促す研修をやってくれないか」

   C社は、もともと先代が電話機の内部部品商社として創業。その後電話機販売自由化を機に、オフィス向け電話機やコピー機・FAX機販売に転じて成長し、二代目現社長の下ではIT関連のOA機器全般に主要取扱製品領域を移しつつ社内の若返りも進めてきました。部長クラスは先代の時代から勤める50代後半ですが、営業所長クラスはほぼ全員現社長が採用したアフター・バブル世代です。

「前例にとらわれた、ことなかれ主義ばかり」

組織が「ぬるま湯」の理由とは?
組織が「ぬるま湯」の理由とは?

   管理者に主体性が足りないという相談はよくあるのですが、その多くは社長が細々と口うるさく言いすぎて、結果現場リーダーが意見を言わなくなり主体性を失っているというケースです。しかしC社の場合には、社長はメーカーサイドとの折衝・調整事を全面的に担っている関係で、営業所管理は主に部長クラス経由で指示が出されており、社長の口出しすぎは見受けられない様子でした。

   私は社長の要望に従い、所長クラスを集めたリーダー研修を実施しました。併せて、彼らが会社や社長のことをどう捉えているのかを詳しく知りたく思ったので、研修終了後に食事をしながらの雑談的意見交換会という名目の現場ヒアリングをさせてもらうことにしました。

   30代後半から40代前半の10人ほどのメンバーと話すうちに、言いたいことがたまっていたのか、多少アルコールが入ったこともあり予想以上に本音の話が出てきました。

「当社は社長以下、本社が保守的すぎるんじゃないかと思う。それが現場のやる気をそぐという流れを作っているように思う」
「社長は会社の将来のことをどれぐらい考えてくれているのか。部長経由で聞こえてくるのは前例にとらわれた、ことなかれ主義ばかり」

   私が知るC社社長は確かにメーカー折衝に追われてはいるものの、その意向をいかに現場に反映させ業績を進展させるかについてまじめに考え悩みに悩むタイプの経営者で、思慮深くもあり保守的な印象も全くありません。したがって、所長たちの意見は、私からすると現実の社長がおよそ見えているとは思えない意外なものだったのです。なぜそんなにも所長たちから社長の姿が見えていないのか、すぐには理由が思い浮かびませんでした。

特別慰労金を払っての早期退職を決め、現場から新部長を抜擢

   すると最年少34歳のS所長から決定的な一言がありました。

「社長がなぜあそこまで先の見えた守り姿勢のロートル部長方に気を遣っているのか分からない。社長が活気のない彼らをすっとばして現場にものを言ってくれなきゃ、僕らの士気はあがりません」

   それを聞いたほかの所長も各々深々とうなずいていたのでした。

   現在の部長は、C社が電話機やコピー機の販売が中心だった先代の時代からの3人。それぞれ名目上は総務部長、人事部長、営業部長を務めているのですが、所長たちの話では、先代の死後は緊張感もなくマイペースで「我が世の春」を謳歌しているのだとか。どうやらこのロートル部長の存在にC社の問題の核心がありそうに思えました。

   社長にそのあたりを問いただしてみると、3人は先代の側近でかつ社内的には先輩という遠慮もあり、またいろいろと仕事の勘所を握ってこともあって、主力製品が変わったからといってそう簡単には冷遇できずそのままに据えざるを得ないのだと。「発展性はないものの、担当業務には精通しているのでこちらも楽だし、当面は任せておいて害はないと思っていた」と、社長は彼らを安易に「定年まで塩漬け」にする考えでいたようでした。

   しかし実際には「あがり人生」の部長たちを生きながらえさせていることで、社長の指示さえもロートル三部長の保守的フィルターを通して現場に伝えられ、結果社長までが同じ存在として捉えられ社内の活力を奪ってしまっていたのです。先代がいつまでも「院政」をひいてあれこれ口出しするのも二代目には辛いものですが、その側近が先代亡き後、緊張の糸が解けたまま「あがり人生」を謳歌しつつ幅をきかせているなら、それはさらに始末が悪いと言えるでしょう。

   事態を理解した社長。どうするべきか随分悩んだ様子でしたが、その後、三部長に特別慰労金を払っての早期退職を決め、現場から新部長を抜擢したと連絡がありました。長く同じポジションを務めさせることは、必ずしもプロフェッショナルを作るといういい面ばかりではありません。重要ポジションであればあるほど、「あがり人生」の謳歌という守りの姿勢が経営と現場の距離を遠ざけることにもなりかねないので要注意であると言えるでしょう。(大関暁夫)