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親せき・知人もターゲット 容赦ない「不正引き出し」は2014年も起きる

   2013年に銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫が公表した職員による横領事件は約50件に及んだ。人様のお金を日々大量に取り扱う金融機関は、他の業界に比べて横領発生のリスクが高い。当然、現金・預金に関する厳しい内部管理体制がつくられているが、それでも毎年50件前後の事件が公表されるのが実態だ。農協、漁協を含めればその数は倍近くになるだろう。

   毎年の事件を整理してみると、次のような共通の傾向が浮かび上がってくる。

   最も多いパターンは、渉外担当者が外回りをしてお客様から現金を預かり、入金処理をせずにそのままポケットに入れてしまうというものだ。商店の売上金や積立預金などの集金サービスに積極的な地域金融機関において特にリスクが高いといえるだろう。

集金専用かばんの支給、現金預り証発行の徹底……

お金の管理、一歩間違うと…
お金の管理、一歩間違うと…

   いかに内部管理を厳しくしても、一人で外に出て現金を預かり、集金しなかったことにしてポケットに入れられてはお手上げだ。そのため、このような不正は、被害にあった顧客から「この前預けたはずのお金が入金されてないんだけど……」という苦情があるまで明るみに出ないことが多い。さらに、顧客Aから盗んだカネを顧客Bから盗んだカネで穴埋めして不正が隠ぺいされ、何年も見つからないことも少なくない。

   親せきや知人などをターゲットにした横領も後を絶たない。よく知っている相手に対してはついついガードが甘くなり、「まさか悪いことはしないだろう」と思い込みがちだ。その心理を巧みに利用するのである。2013年に公表された事件の中には、支店に勤務する39歳の女性営業担当者が、何と18年の長きにわたって、3つの支店を渡り歩きながら、親せきや知人など18人の預金口座から100回以上、合計1億4000万円を不正に引き出すという驚くべきものもある。

   被害者を言葉巧みにだまして預金の払戻請求書を書かせ、それを使って自分の口座に不正送金をし、遊興費や生活費などに使っていたようだ。最後は、被害者の口座から犯人あての不審な送金記録に上司が気づいて発覚したが、あまりに遅すぎた。

   もちろん、金融機関も手をこまねいているわけではない。外回りをする担当者に対しては、集金専用かばんの支給、現金預り証発行の徹底、抜打ち点検などにより、特に厳しいチェックが行われる。また、日頃から顧客に対して「預り証を発行しないなど、少しでもおかしいと思うことがあればお客さま相談室に連絡を」と注意喚起をしたり、定期的に担当者の上司が直接顧客に連絡して、担当者の仕事ぶりを確認したりしている。また、親せきや知人は担当させないというルールを徹底している金融機関もある。

一人ひとりの意識と行動しだい

   それでも、悲しいかな、毎年同じような手口が繰り返されてしまう。その理由は、不正を犯すのも、被害にあうのも、チェックをするのもすべて人間だからだ。金銭欲や借金のプレッシャーに負けてしまう弱さ、相手を信用しきってしまったり、忙しさを言い訳にチェックを怠ってしまったりする甘さを完全に払拭することはできない。リスク管理の永遠の課題といえるだろう。

   金融機関には、すでに十分すぎるくらいのチェック体制が整っているはずだ。要は、それら一つひとつのチェックを形式に流されずに徹底的にやり続け、ルール違反には厳しく対処すること。それにより、「常に誰かに見られている」「横領は必ず見つかり、人生が台無しになる」という意識を職員一人ひとりに植え付けることである。

   究極の防止策は、そもそも横領しようという気持ちにさせないことだろう。そのためには、問題を抱え込ませないコミュニケーション、「相談窓口」の充実、お金に困った時に社内融資を受けられる制度の充実などが不可欠だ。これらの対策の必要性は、すでに「耳たこ」だろうが、掛け声倒れに終わっていないか。

   残念ながら、2014年も金融機関職員の横領が起きるのは間違いない。いや、今もどこかで人知れず横領が進行中と言ったほうがいいかもしれない。

   自分自身が「不正のトライアングル」を作ってしまわないように、そして、自分の周りで働く人たちが道を誤らないように何をすべきか。やるべきことはわかっている。あとは、経営者、管理職、担当者一人ひとりの意識と行動しだいだ。(甘粕潔)