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「小学生レベルの学力」どころではない 難関大の学生も驚愕の「常識崩壊」

   企業が新卒採用にあたって、学力を重視する姿勢が濃くなっている。背景には、学生の基礎学力の深刻な低下が挙げられる。

   学生はキャンパスライフを謳歌し、勉強は二の次という風潮はかねてからあった。だが「勉強をサボる」を超えて最近は「常識すら身についていない」に悪化しているようだ。

基礎的な国語力、計算力を問う「適性試験」を重視

勉強以前の問題が…
勉強以前の問題が…

   学生の学力低下は、大学側の悩みでもある。リクルートマーケティングパートナーズが2014年1月7日に発表した「入試制度に関する学長調査(2013)」では、回答した全国452校の大学学長のうち85.3%が、自校の学生の学力に課題があるとした。私大では9割を超え、そのうち3割強が「大きな課題」との答えだった。

   「サンケイビズ」2013年9月17日付の記事で、就活指導を行う「内定塾」講師の阪口良平氏が、詳しい実態を書いている。関西圏の大学を中心に筆記試験講座を実施している講師の話として、「極端な例だと、分数の通分ができなかったり、方程式の概念が分からなかったりと、正直、小学生の算数レベルから指導する場合もある」というのだ。数年前、学生の英語の授業でアルファベットの書き方から指導する大学が話題になったが、義務教育の段階でクリアされているはずの学力が身についていなければ、社会人としては厳しいだろう。

   一方の採用側は近年、就活生の基礎学力を重視する傾向が強まっている。厚生労働省がまとめた2013年版「労働経済の分析」には、「新規学卒採用において企業が求める人材」との項目がある。企業が採用で最も重視するのは、1999年の調査以降「面接」というのは変わりない。だが2番目は、以前は企業が独自で実施する「筆記試験」だったが、2008年以降、国語力や計算力などを問う「適性試験」がこれに変わった。より基礎的な学力を問うためで、厚労省は「応募する学生の学力が全体的に低下していることへの対応」と考える。適性試験は、面接の前段階で応募者の絞り込みの役目を果たす。就活生としては、基礎学力の欠如は次のステップに進めないことを意味し、まさに致命的となる。

難関大卒の新人記者「山の下腹部で木々も紅葉」

「大学生は勉強しないというのは、今に始まった話ではありません。ただここ数年、難関校とされる大学の学生でも社会常識や一般教養が欠如していると強く感じます」

と話すのは、『就活のコノヤロー』(光文社新書)などの著書がある大学ジャーナリストの石渡嶺司氏。実際に、自身が驚いたというエピソードを披露した。

   石渡氏が関西の有名大学で、学生に家庭品メーカーのP&Gについて話したところ、ひとりの女子学生が「P&Gって何ですか」と聞いてきた。化粧品も製造しているメーカーで、「女性にはなじみがあるはずでは」と不思議に思いつつも「プロクター・アンド・ギャンブルという会社だよ」と教えた、すると今度は「えっ、ギャンブルを事業としている会社?」と真顔で質問してきたという。

   もうひとつは、就活をクリアして晴れて新聞社に入社した、これまた難関大学出身者の話。入社1年目で配属された支局で原稿を書き、デスクに渡した。そこにはこう書かれていたという。

「山の下腹部で木々も紅葉」

   デスクは目を丸くして、「おい、下腹部ってなんだよ」と1年生記者を叱った。「山のふもと」と書くべき個所だ。だが新人は納得いかない表情でこう返答したという。「山の中腹との言い回しがあるので、『中腹』の下は『下腹部』だと思いまして…」。

「偏差値の高い難関校」が目安にならない時代

   かつては「偏差値の高い難関校」はそれ自体がひとつの目安となり、たとえ「グータラ学生」だったとしても常識や一般教養は身についていると期待できた。そのため企業側も、採用時には学力よりもサークル活動など学生生活の充実ぶりに注目した。ところが昨今は大学のレベルを問わず、「勉強しない」の意味が「常識を知らない」と同義になりつつあるようだ。興味のある分野には徹底して関心を寄せるが、逆にそうでない分野は一切知ろうとしない若者が増えたと石渡氏はみる。

   ただ今日でも、大学でまじめに授業に出席し、勉強に励んでいる学生は就活に必要な社会常識や一般教養が身についているという。逆に基礎学力がない学生は、徹底して欠けている。言わば二極化が進行しているようだ。

   「今、採用担当の最前線に立つ世代は、自分たちが学生時代には『勉強していない』と言われながらもある程度の常識が備わっていました。その感覚で現代の就活生と対したとき、『勉強不足』というより『常識知らず』という事実に驚かされることでしょう」(石橋氏)。

   企業側も困っているが、学力重視のムードが採用活動でさらに広がれば状況は変わっていくかもしれない。「大学側も、就職指導で面接対策やエントリーシートの書き方ばかり注力せず、学生の本分として『もっと勉強しなさい』と促した方が事態の改善につながるのではないでしょうか」と提案した。