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「女子アナ内定取り消し」騒動を読む 「勝敗」のポイントはココだ

   就活のテーマで、「内定取り消し」はたまに話題になります。普段は、会社ウォッチで「シューカツ異種格闘技戦」を連載している私、石渡嶺司ですが、今回は、日本テレビ放送網という超メジャー企業で、内定取り消しをめぐる騒動が報じられたことを受け、「番外編」として寄稿します。

「銀座のクラブでホステスとしてアルバイト」との関係

   首都圏の書店などに本日(2014年11月10日)並んだ週刊現代(11月22日号)に、「独占スクープ ミス東洋英和が日テレの『女子アナ内定』を取り消された理由 顔出し実名告白」が4ページにわたって掲載されています。

   詳細は同記事などに譲るとして、筆者がみるところ、ポイントは、

・銀座のクラブのアルバイトが理由で内定取り消しが可能か

   この1点にあります。

   内定を取り消された女性からその旨の申告がなかったことが、「虚偽申告」に当たるかどうか、という論点もありますが、これは先のポイントに付随するものだ、と考えます。

   記事によると、日テレ側が女性に出した手紙のなかでは、女性が銀座のクラブでホステスとして働いていたことに対し、

「アナウンサーに求められる清廉性に相応しくない」
「仮にこの事実が公になれば、アナウンサーとして業務付与や配置に著しい支障が生じることは明らか」

といった趣旨の言葉が書かれていたという。

   これに対して女性は、

「銀座のクラブというよりも、小ぢんまりとしたスナックのようなもの」

などと話し、女性側弁護士も複数の理由を示しながら、虚偽申告にあたらないと主張しています。日テレ側は同誌の取材に対し、「民事裁判で係争中の事案であり、当社の主張は裁判の過程で明らかに(略)」などと回答したそうです。

内定取り消しは理由が必要~企業都合の場合

   就活においても、特に氷河期でよく話題になる内定取り消し、これは法的に有効なのでしょうか?

   内定取り消しには、企業側の都合、内定学生側の都合の2種類あります。

   企業側の都合だと、内定学生は労働者と同じ扱いで、整理解雇の4条件(労働契約法16条など)を満たしているかどうかがポイントです。

1:整理解雇の必要性があること
2:整理解雇回避のための努力を尽くしたこと
3:解雇の対象者選定について、客観的・合理的な基準を作成し、適正にこれを運用したこと
4:使用者が整理解雇を行うにあたって、当該労働者、労働組合と誠実かつ十分に協議しなければならないこと

   たとえば、会社や工場が津波で流されて事業継続がそもそもできない、ということであれば、内定取り消しは有効です。

   あるいは、急に景気が悪くなって人員が余剰しそうだ、というときだと、それでも内定学生を受け入れるための努力をしたかどうかが問われます。

   単に「景気が悪くなったから、内定取り消し」では、整理解雇の条件を満たしていることにはなりません。今回の日テレのケースでは関係なさそうですが。

学生側の理由で内定取り消しも

   一方、学生の都合による内定取り消しの場合はどうでしょうか。この場合は、内定取り消しが客観的に合理的、かつ、社会通念上相当として認められるものに限られます。

1:提出書類に虚偽の記載を行っていたことが発覚
2:内定者の健康状態が悪い
3:採用内定後、内定者が傷害容疑などで逮捕
4:卒業予定であった高校または大学等を卒業できなかった

   今回のケースでは、「1」が問題となっているようですが、筆者が記事を読む限りでは、両者の主張にはそれぞれ弱点があり、どちらの主張に分があるかは即断できません。

過去の内定取り消し事件はどうなった?

   ここで日テレ事件から少し離れて、過去の著名な内定取り消し事件がどうだったかをいくつかまとめてみました。

・大日本印刷事件(1979年最高裁判決)...面接時の学生へのマイナスイメージを打ち消す材料がその後も出なかった、との理由で内定取り消し/学生側勝訴
・電電公社近畿電通局事件(1980年最高裁判決)...公安条例違反で逮捕、起訴猶予処分を理由として内定取り消し/学生側敗訴
・日立製作所事件(1974年地裁判決、確定)...在日朝鮮人であることを隠して内定、入寮手続き時に申し出たため内定取り消し/学生側勝訴

   このほか、2008年~2009年に起きた内定取り消し事件をみると、内定取り消しに対する慰謝料を求めた学生に対して、慰謝料を支払うことで和解した事案が多い印象です。

日テレ事件裁判のポイントは?

   それでは日テレ事件の行方はどうなるのか。『問題社員の取扱説明書』『叱って感謝される人、逆ギレされる人』などの著書がある社会保険労務士の田北由樹子さんにお伺いしました。田北さんは、採用前に情報を提示したかどうかがポイント、と話します。

「もし、日テレ側がセミナーなど採用活動中に『ふさわしくない人材』として、銀座のクラブを含め採用しないアルバイト等を提示していれば、裁判は日テレ側有利です。事前にふさわしくない理由などを説明しているのに学生がそれを隠してあとから申告すれば、内定取り消しは合理性があると認められる可能性が高いでしょう。しかし、日本の企業が採用活動でそこまでリスク管理をしているところは多くありません。入れ墨なんかも同じです」

   入れ墨?学生などがファッション感覚で入れて、内定後にバレて内定取り消しというのはたまに聞きます。それと同じ、とは?一般的な感覚では、入れ墨を隠してバレたら内定取り消しになって当たり前のような気もしますが・・・。

「入れ墨もクラブなどと同じように、どうして内定を出せないのか、採用前にその理由を説明していれば問題ありません。しかし、説明していなければ、いくら企業側が『そんなの言わなくても分かるじゃないか』と主張しても通りません。内定取り消しをしても、合理性が認められず、基本的には企業側が不利です」

   2014年11月14日開始の裁判の行方がどうなるかは、もちろん不明です。しかし、どのような判決が出るにせよ、後世の労働法制史において「日テレ事件」として語り継がれることになるのは間違いないのではないでしょうか。今後に注目です。(石渡嶺司)