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職場の「言い訳文化」 元凶は「社内恐怖政治」かも

   「叱る」ことよりも「ほめる」事が大切という話は、あちこちの経営者や管理者向けのセミナーやビジネス書籍でしつこいぐらいに言われていることですが、どうもその真意がお分かりいただけていないケースも多いようです。

   ある立食の席で知り合いになったD社長が、「うちの社員、特に営業スタッフは言い訳が多くて参ってます。この手の営業社員教育はどうしたらいいのでしょうか」と愚痴まじりに尋ねてこられました。

「セルフ・ハンデキャッピング」とは

雷が・・・
雷が・・・

   社内にあまりに言い訳文化が蔓延しているようなら、行き過ぎた成果主義等での評価偏重による恐怖政治傾向に陥っていないか疑ってみた方がいい、と私は常々申し上げています。

   そんな話をしようとした矢先、D社長の携帯電話が鳴りました。「ちょっと失礼」と言って電話に出た社長。その話ぶりを聞いて、お悩みの実態がもう少し具体的に見えてきました。

「この間議論した方針で先に進めろと話しただろ。言った通りに早くやらんか!」
「え、何?今から、失敗した時の言い訳なんかしてんじゃない!」

   D社長、電話を切ると開口一番こう言い放ちました。

「言い訳の話をしているそばから、これですよ。今も営業課長が新規営業の方針確認で電話をしてきたのだけど、課長のくせして動く前からなんだかんだ理由をつけて攻略は難しいみたいな予防線をはっているのだから、ホント困りもんですよ」

   社長が問題視する社員の「言い訳」は、事前の予防線的「言い訳」だったのです。

   前もって失敗の言い訳をしてしまうことを、「セルフ・ハンデキャッピング」と言います。人は心理学的にみて、自分の行動が失敗する可能性があるという不安を感じると、時としてその失敗の理由を外に求めてあらかじめ作ろうとする傾向があるのです。一種の防御反応で、失敗による自尊心へのダメージの大きさが大きく予測されればされるほど、事前に言い訳する傾向は強く出ると言われています。

   学生時代の中間試験や期末試験で、朝登校するなり「昨夜は寝ちゃって、全然勉強できなかったんだ」などと試験が始まる前から言い訳をしているクラスメートが、たいていどこの学校にもいたと思うのですが、それと同じ現象と言えるでしょう。

   今回のケースでも、課長が社長に対して事前に言い訳をした理由は、失敗時の自尊心へのダメージが大きいと予測されるが故のことであると推測することができるのです。

なぜ「叱る」ではなく「ほめる」なのか

   事前に失敗を予測しその言い訳をして、果たしていい結果に結び付くでしょうか。それは土台無理というもの。ならば、事前の言い訳が出る原因を作っていると思しき、失敗時に想定される大きなダメージを軽減してやる必要があるのです。この課長が想定している失敗時の大きなダメージとは何なのでしょう。

   D社長は創業者で、見るからにコワモテのいかにもなワンマン経営者タイプ。きっと社長自身がナンバーワン営業マンで、実績の上がらない部下たちを日々厳しく指導しすぎているのではないかと、私はあたりをつけました。そのことが「失敗したらまた社長にドヤされる。それは嫌だ」という社員たちのダメージ回避行動が、事前言い訳につながっているのではないかと思ったのです。

   最近の人たちは、我々の時代と違ってちょっとしたことでひどく落ち込み、またトラウマになって精神的に病んでしまうことも間々あるのです。それが、仕事の上でそれまでに経験のない怒られ方をしたことが原因であるというケースもまた、よく耳にする話です。

   ならば対応策はどうすればよいのか。簡単なことです。「叱る」を「ほめる」に替えればいいのです。たとえ結果が失敗であってもその過程なり、がんばりなりをほめてあげることです。なぜ「叱る」ではなく「ほめる」なのか。

   「ほめる」の効用は、一般的にモチベーションアップばかりが言われていますが、実はそれだけではありません。「叱る」ことは次回に向けて失敗イメージを必要以上に植え付け、「ほめる」ことは逆に次回の成功イメージを描かせるのです。モチベーションアップ以上に大きな効果が「ほめる」にはあるのです。これが本当の「ほめる」の効用なのです。

   初対面のD社長に、こちらの推測であまり不躾なことを申し上げるのは気が引けたので、「社員をほめること、してますか」とだけ尋ねてみました。すると、「ほめるような材料なんて何もありゃしないさ」とにべもありません。それでも「ほめる」の効用を聞くと、「社員のいい点を探すことに欠けていたかもしれないな」と話してくれました。できることから少しずつやっていただけたら、きっと変わると思います。(大関暁夫)