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部屋に来たのは18歳「派遣の仲居さん」 その時、旅行中の女子大生が「しんみり」した理由

   学生時代、女友達数人で、兵庫の城崎温泉へ出かけました。古くて趣きのある旅館に着くなり、私たちは「いい感じだね~」「早くカニが食べたい!」などと、キャッキャわいわい、女子大生らしく(?)はしゃいでいた・・・のですが、作務衣(さむえ)に身を包んだ「仲居さん」が顔を出した瞬間、何だか、複雑な気持ちになったのです。

   やや九州地方のイントネーションを感じさせる、その仲居さんは、「お夕飯は何時になさいますか」と、柔らかい調子で尋ねました。あどけない笑顔が印象的な彼女は、熊本県出身の18歳(名前は仮に、恵さんとします)。聞けば、地元ではなかなか求人がなく、「それなら県外でお金を貯めよう」と、兵庫県の温泉街へやってきたそうです。

「リゾートバイト」とは事情が異なり・・・

いらっしゃいませ
いらっしゃいませ

   女友達のF子が尋ねます。「じゃあ、住み込みで働いてるの?」「いえ、自分は『派遣』です。住み込みというか、近所のアパートに住んでます」

   「仲居さん」といえば、旅館に住み込みの「正社員」で、年齢層も、もう少し上だと思っていた私たちは、ちょっと驚きました。学生の勝手な思い込みなのですが、まさか「18歳、遠い地方からやってきた、派遣社員の仲居さん」がいるとは、思ってもいなかったのです。大学生などが、長期休暇を利用してペンションや旅館で働く「リゾートバイト(リゾバ)」の存在は知っていましたが、恵さんの場合は少々、事情が異なるようです。

「自分は熊本出身なんですけど、働く場所がないんですよ。時給も安いし。だから派遣で、ここに来たんです」(恵さん)

   屈託ない笑顔で話す恵さんが、可愛らしく、もの珍しいと感じたのか、F子は立て続けに質問します。

「よく『リゾートバイト』とかって聞くけど、恵さんも、温泉は『入り放題』だったりするの? だったら、ちょっと羨ましいかも!」

時給は「1000円」

   恵さんは、F子の質問攻撃にも、にこやかに答えます。「最初は私も、『温泉、いろいろ入りたいな』って思ってたんですけど、仕事で疲れるので、全然入る時間がないです」「この辺は、コンビニはありますけど、遊ぶところもないし、仕事して寝るだけなんですよ。でも、地元にいるより、楽しいですよ。毎日あっという間に過ぎていく感じです」

   そうかぁ~・・・と、私たち一同は、なんだかしんみりしてしまいました。旅館の仕事は、客室の整理に、布団敷き・布団上げ、料理の提供や片付けなど、重労働です。朝早くから体力仕事をこなせば、疲れてバタンキュー、になるのも当然でしょう。恵さんは、休日は「ほとんど外出しない」と言っていました。派遣社員同士で仲良くなることは、(恵さんの場合)ないそうです。

   往々にして、旅館のようなサービス業の賃金は、低く抑えられがちです。それが「ハケン」となると、時給はどのくらいだろう、などと下世話なことを考えていたら、恵さんが(サービス精神からか)教えてくれました。「1000円とかですけど、地元よりは、全然いいですよ」

   学生旅行ではしゃぐ私たちのお世話を、地方出身で年若い「派遣社員」の仲居さんがしてくれる。なんだか、ちょっと申し訳ない気持ちになりました。

   大手の旅館では、昨今、寮や保育施設を完備するなどして、福利厚生を充実させているところもあります。が、今や「おもてなし」も『ハケン』の時代かぁ・・・と、複雑な気持ちで、旅館を後にしました。恵さんは今、何をしているでしょうか。時々、思い出します。(北条かや)