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下々を勇気づける文豪の言い訳 『〆切本』は締め切りの参考書

   会議にかける企画書や取引先に提出する資料の作成、新サイトのコーディング......いろいろな仕事に「締め切り」は付き物だ。間際になって慌てて準備し始めるのは夏休みの宿題に苦しんだ子供の頃と寸分変わらない、などと自嘲しながら時計と競争するビジネスパーソンも、そこらじゅうにいるに違いない。

   締め切りに悩まされるのは、歴史に名を残すような文豪も、当代の売れっ子作家も同じ。彼らが締め切り直前に漏らした苦悩や言い訳を拾い集めた書籍が今、話題になっている。

「今夜、やる。今夜こそやる」

書影からも作家らの苦悶が
書影からも作家らの苦悶が

   『〆切本』(左右社、2016年8月30日発売)は、夏目漱石、谷崎潤一郎、江戸川乱歩、村上春樹、藤子不二雄Aら90人の、締め切りにまつわるエッセー、手紙、日記、対談など94篇を収録。書肆自ら「しめきり症例集」とうたい、読者に向けての「しめきり参考書」でもあるという。

   例えば、田山花袋の「机」。

「『今夜、やる。今夜こそやる。......』 こう言って、日当たりのいい縁側を歩いたり、庭の木立の中を歩いたりする。懐手をして絶えず興の湧くのを待ちながら......」

   また、坂口安吾の「人生三つの愉しみ」。

「仕事の〆切に間があって、まだ睡眠をとってもかまわぬという時に、かえって眠れない。ところが、忙しい時には、ねむい。多分に精神的な問題であろうけれども、どうしてもここ二三日徹夜しなければ雑誌社が困るという最後の瀬戸際へきて、ねむたさが目立って自覚されるのである。」

思わず「そりゃ仕方ないよなあ」と情けをかけたくなるような逃げ口上も多数。

「比較するのも恐縮ながら」

   収録された作家らのファンをはじめ、締め切りに追われる勤め人、自営業者、創作に携わる人々らを中心に人気を呼び、Amazon.co.jpではすでに品薄状態。「通常1~2か月以内に発送します」との表示だ(2016年9月12日現在)。

   ツイッターでは、読んだ人からの感想・報告も。

「文豪でもいやいや書いてたりするのか、と思うと少し慰められる。これ読んで、次の〆切間に合わせられるよう頑張ります」
「偉大な作家方が、一投稿者の私と同じ苦悩を抱え、同じ解放感に浸るさまを知れるのはとても嬉しい」
「名だたる文豪も追い詰められ、絞り出し、逃げ、納得いかずとも何とか形にする。比較するのも恐縮ながら、安心」

   締め切り前に毎度、悶絶している皆さん、是非ご一読を。と言いつつ、締め切り前に仕事を放っぽって読みふけってしまうことのないよう、注意されたし。

   9個の設問に答えれば、自分の「先延ばし度」がわかる「締切意識度チェック」が途中に挟まれているのも楽しい。本体2300円+税。(MM)