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歌舞伎町はモノとヒトを売る街 スカウトマンはさみしげに笑い

   女だからこそ聞きやすい話と、そうでない話がある。

   デビュー作の『キャバ嬢の社会学』以来、今でも東京の繁華街で水商売関係者の話を聞くのをライフワーク(と胸を張って言えるほどのものではないが)としている筆者は、この夏、スカウトマンを中心に聞き取りをしていた。私は「女」なので、最初に接触しやすいのは圧倒的にホストやスカウトマンである。妙齢の女性とあらば誰にでも声をかける彼らは、向こうから寄ってきてくれるので話が早い。親しくなったらこちらの身分を明かし、「歌舞伎町の儲かる話」を教えてもらうというわけだ。

  • 歌舞伎町では薬も売れる
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「お仕事探してませんか?」

   スカウトマンとは、簡単に言ってしまえば、女性に声をかけて風俗の仕事を紹介する人たちである。繁華街を歩けば、「お仕事探してませんか?」とか「おきれいですね、これからお仕事ですか?」とか、ニコニコと声をかけてくる。

   運よく女性と合意がとれ、キャバクラや性風俗店に入店させることができると、店からは女の子を紹介した見返りに、「バック」といって女性の給料の約10%がスカウトマンの懐に入る。女性が働き続ける限りバックも入り続けるので、有能なスカウトマンは毎月数十万円~百万円以上の報酬を得ることも珍しくない。 

   完全歩合制なので、女性を店に紹介できなければ報酬はゼロ。厳しいノルマが課される場合もあるので、とにかく母数を稼ごうと、道行く女性に声をかけまくるのである。歌舞伎町には大手から中小までいくつものスカウト会社があり、多くのスカウトマンはそのどれかに所属している。「僕の会社は歌舞伎町で誰でいちばん大きい組織なのが売りですね。ガールズバーからAVまで、どの業種でもご紹介できますよ」「うちは小さい会社ですけど、全国の風俗を紹介できるのが強みなんで」

「何でも売れるんです。薬とか」

   福岡から出てきて、学費のためにスカウトをしているというある男性(21歳)は取材中、こんなことを言っていた。

「この女子大生、この前うちの紹介でヘルスに入ったんですけど、2週間で100万稼いだんです。風俗未経験なんで最初からヘルスは無理かと思いましたけど、やっぱりお金がもらえるのは大きいみたいで続けてくれています。本当にすごい世界ですよ」......話を聞いていると、確かにめまいがしそうなほど「儲かる話」のオンパレードだ。彼らはさも「簡単にお金が稼げる世界」にいる風をよそおう。

「歌舞伎町ってほんとに、儲かる話があふれているなって思いますよ。スカウトもそうですけど、何でも売れるんです。薬とか」「......えっ、薬って大麻とかそういうものですか?」思わず身構えると、彼は笑って「いや、普通に精神科で処方される抗不安薬ですよ」という。なぜそんなものまで売れるのか。

「歌舞伎町には病んでる人がいっぱいいますから」「メンタルが苦しい人は精神科に行って薬をもらうほうが安いし、安心なんじゃないですか?」「たぶんそういうのが面倒臭いんですよ。だからスカウトから買ったり......いや、僕は売ってないですけど、儲かるから手を出す奴はいっぱいいますね」

   さみしそうに笑って見せた彼の表情もまた、歌舞伎町で儲ける人ならではの演技かもしれない。誰かがモノやヒトを売ることがサービスで、そのサービスに群がる人たちがいる。そんな猥雑さに満ちた歌舞伎町が、変に魅力的にうつるのはなぜだろうか。その「魅力」に取り込まれないようにしながら、今日も取材を続けている。(北条かや)