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就活ベンチャーの「徹夜」が心配 あの企業の二の舞にならないか

   今回のテーマは「成長企業とブラック企業」です。電通過労死事件などで再び、ブラック企業に注目が集まっています。採用支援などを行う就活ベンチャー企業の関係者の中にも、事件に批判的な人が少なくありません。

  • 理念を理解し、残業・徹夜を厭わず
    理念を理解し、残業・徹夜を厭わず
  • 理念を理解し、残業・徹夜を厭わず

大きくなりすぎて問題が

   では、そうした就活ベンチャー企業を含めた成長企業は、優良企業なのでしょうか。私は、成長企業だから優良企業とは言い切れないと思います。

   かつて業績が絶好調で、その後、ブラック企業批判を浴びて現在は低迷しているワタミ。実は一時期、マスコミから成長企業として絶賛されていました。そのことを学生に話すと、それはそれは驚かれます。まあ、そのあたりから過重な労働、過労死が問題にもなっていました。

   「マスコミから絶賛されていて、一方で過労死も問題になりつつあった時点で就活をしていたとしたら、ワタミを選んだ?」

   そう学生に聞くと、ほぼ全員が、「NO」と答えます。

   現在のように、これだけバッシングされていて、しかも売上げが低迷していれば、選びたくはないでしょう。

   ですが、2000年代から2010年代前半までワタミは、学生からもある程度(年によっては相当)支持を集め、いい学生を採用できていたのです。ワタミを選んだ学生の真意は不明ですが、その相当数は「成長企業だから」という理由だったに違いありません。

   ワタミについては、興味深い指摘を複数聞いています。話してくれたのは採用コンサルタントやキャリアセンター職員などです。それぞれの人同士につながりはありませんが、内容はほぼ同じでした。すなわち、

「ワタミは大きくなりすぎた。仮に従業員数300人程度(ある人は「500人程度」)の中小規模のままなら、ブラック企業批判が出ることもなかっただろう」

   私が、知名度の高さゆえか、と聞いたところ、これもほぼ同じ回答でした。

「知名度が高いから批判されやすかったこともある。が、一番大きいのは企業規模だ。中小規模なら、入社する前から企業理念やオーナーの情熱を理解できる。そのうえで入社するから、いくら残業や徹夜が続いても本人は気にもしない。それに、先行者利益のリターン(ポストの昇進、昇給、株式配分など)もある」

   なるほど、確かにその通りです。

「ところが従業員数が1000人を超え、2000人を超えてくると、もう企業理念や情熱は共有されない。仮に企業理念は共有されたとしても、小規模だった時期に比べればリターンは大きくない。それで情熱を共有しろ、残業や徹夜は当然だ、とオーナーや古参幹部が言っても無理がある。企業規模がある程度、大きくなった後に入社した社員からすれば、普通の働き方を優先させて当然だ。それをワタミの創業者や古参幹部は理解していなかった。だから問題になった」

   この企業理念・情熱を共有できる規模が300人か、500人か、それとも1000人か、という議論はあるでしょう。数はともかく、一定の規模を超えると企業理念・情熱が共有されなくなるという指摘、すなわち「理念・情熱共有限界説」は、その通りだと考えます。

一発当てると仕事が増え

   実は、ワタミと同じことが就活・採用周りで繰り返されているのです。

   採用支援のベンチャー企業やNGOは、30代どころか20代で起業する例がたくさんあります。もちろん、就活を変えたい、採用を変えたい、学生のためになることをしたい、という理念を掲げての創業です。その理念には私も一部、共感するところがあります。

   創業者が一生懸命働くのはいいでしょう。そうでないと、企業として成立しません。採用支援のベンチャーやNGOは、ちょっとしたアイデアがあれば、それなりに当たる世界でもあります。

   問題は一発当てた後です。仕事が増えるので人を雇います。正社員採用はもちろんのこと、学生のアルバイトや、インターンシップという名目による無償奉仕も、結構多くあります。そして、正社員だけでなく、学生のアルバイトやインターンシップ生にも、理念と情熱を共有させます。

   学生も、小規模だから、理念・情熱はわかったうえで入ってきます。創業者と同じように残業や徹夜を厭いません。ある採用ベンチャーでは、アルバイトもインターンシップ生も忙しすぎて、寝袋を持ち込んで事務所の床に寝る日々だそうです。付言すれば男女問いません。

   本人たちが好きでやっているのだからいいだろう、と突き放すこともできます。が、これはワタミとどう違うのでしょうか。

   まだ規模が小さいからどうにか回っているだけであって、どこかのタイミングで、ワタミと同じような事件となり、批判されることにならないとはかぎりません。

   これまでにも採用ベンチャー・NGOを取材し、この話をしたことがあります。心なしか、ワタミ批判が強烈なところほど、

「うちとワタミごときを同列視するなんて無礼だ」

と怒り出しました。怒りはしなくても、軽く流す企業・関係者は多数。

   私としては洪水が来る前のノアのような気分です。せめて溺れないようにと祈りたいところです。(石渡嶺司)