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「1日インターン」解禁により とばっちりを食うのはだれか

   今回のテーマは「1日インターン解禁」です。2016年12月に入り、経団連が2019年卒(現在の大学2年生)からインターンシップ、通称インターンについて、これまで5日以上としていた方針を変え、1日開催のものを容認する姿勢に転じました。

   この変更でどのような影響があるのでしょうか。

  • 多くの学生を1日インターンに招きたいのは山々だが
    多くの学生を1日インターンに招きたいのは山々だが
  • 多くの学生を1日インターンに招きたいのは山々だが

そもそも守られていなかった

   当連載でも何度か取り上げたインターン。日本語に直せば「就業体験」です。が、就活市場において1日インターンとは、すなわち会社説明会か、よく言っても業界セミナーや営業体験などを指します。どう転んでも就業体験とはほど遠い内容のものが大半です。

   なぜ、日本では本格的な、というより本来の意味合いである就業体験のインターンが根付かないのでしょうか。

   まず、企業からすれば「就業体験」の学生を受け入れることが負担であること。苦労して学生を受け入れても、その学生が入社する保証はどこにもありません。労多くして益なし。であればシビアな日本企業の大半は「じゃあ、やめようか」となります。

   その点、1日インターンであれば企業名をしっかり告知できるうえ、期間が長いインターンほど苦にはなりません。

   企業側だけではなく、学生・大学にも問題があります。1970年代ごろから就業体験を教育に組み込んでいる理工系学部の一部を除けば、ほとんどの大学はそういう取り組みをしていません。長期間、学生が学外で活動することを想定していません。インターンが日本に定着した2000年代になっても、うまく制度設計をできる文系大学・学部はそれほど多くないのが実情です。

   欧米とのキャリア設計の違いもあります。欧米の大学は休学がしやすく、しかも新卒就職でもしっかりした専門知識を持っていることが大前提。そのため、就業体験やボランティアが盛んなのです。

   日本では、新卒就職において専門知識はそれほど問われません(特に文系学部)。その上、大学が長期の休学を想定していないため、学生は長期にわたるインターンに参加しづらい、という事情もあります。

   こうして日本では長期のインターンは根づかず、1日インターンという企業イベントが定着して現在に至っています。

どうせ1年で解禁になるのなら

   こうした認識は、企業の大小、知名度の有無とは無関係に、採用担当者ならだれもが持っていました。「インターンというからには5日以上」と喧伝する文部科学省や経団連を、それはそれは冷ややかな目で見ていました。

   一方、経団連加盟の、それも知名度の高い企業には、この「5日以上」を口実にインターンを実施しないところが多数ありました。ホンネは、

「1日インターンならできなくはない。でも、それをやると学生が殺到して大変だ。だったらやめておこう」

という次第。

   ただ、同じ経団連加盟でも知名度がやや低い企業には、ジレンマがありました。1日インターンをやるほうが採用戦略上、有利になります。それだけ学生の認知度が上がり、志望学生が増えるからです。しかし、経団連の「5日以上」を順守すれば、1日インターンに踏み切るわけにはいきません。

   それが2019年卒から1日インターン解禁となると、事情は変わります。

   一応、「就業体験ができる」「選考とは結び付けない」という条件付きです。後者はまだしも、前者は、厳密に解釈すればどう考えても無理。まあ、それでも、「営業を体験する」「ビジネスマナーを実践する」などと謳えば、企業側は「就業体験をさせた」と言い張れます。

   かくて、現2年生から1日インターンが急増......とはなりません。どうせ1年で解禁となるのであれば、今年から実施したほうが企業側はノウハウを蓄積できます。

   今年は「インターンではない、セミナーだ」と逃げ、同じイベントを来年は「インターンだ、就業体験もできる」と言い張る企業が増えそうです。

   そうなると、たまらないのが現在、すでに1日インターンを実施している経団連非加盟の企業です。これまでは実施する企業が少ないことから、学生集めという点で優位性を保つことができました。

   それが今後、1日インターンを導入する企業が増えれば、それだけ優位性を失います。実際、今年は導入企業が増えたために、各日程での参加者が減っている企業が続出しています。

   減った分の参加者を取り戻そうと、1日インターンの開催を慌てて増やす企業、本来は休みの予定だった土日をあてる企業などが相次いでいます。

   その結果、採用担当者は休みたくても休めない、という事態になりつつある今日この頃です。(石渡嶺司)