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お菓子といっても甘くはない 【知っておいてもいい企業5】

   「知っておいてもいい企業」シリーズ5回目は、製菓メーカーです。皆さんもこのお正月休み、好きなお菓子・スイーツをいろいろと食べていることでしょう。業界の準大手以下でユニークなメーカーなどを紹介していきます。

就活学生に毎日のように情報更新

採用は甘くない
採用は甘くない

   「ジューC」や「さくさくぱんだ」などでお馴染みのカバヤ食品(岡山市)は、採用Twitter・Facebookが充実していることで有名です。Twitter・Facebookは一時期、採用のツールとして流行りましたが、撤退する企業が多数です。採用担当者一人ではネタに詰まりますし、手間がかかる割にどの程度、採用に効果があるのか測定不能だからです。

   その点カバヤ食品は、ほぼ毎日のように更新。工場から就活イベントの模様まで何かしら記事が掲載されています。更新を担当するのが一人ではないあたりが勝因でしょうか。

   SNSだけでなくネットを活用するのも得意。合同説明会では、後方で立ち見するしかない学生にツイキャス(ツイットキャスティング)で同時配信をしています。合同説明会は、通路まで参加学生があふれた場合(人気企業だとかなりの確率で起こります)、企業の担当者が何を話しているのか、聞こえないということがあり得ます。しかも、騒音対策からマイク使用を認めない合同説明会がほとんど。

   そこで動画配信。ツイキャスだと、スマホは学生の大半が標準装備をしており、それで話を聞けます。本来は遠隔地への配信に用いられる動画配信を目と鼻の先にいる学生に向けて配信する、という発想はなかなかのものです。

   当コラムでも以前にご紹介した「日本一短いエントリーシート」を導入しているのが、新潟市本社の三幸製菓。米菓で有名です。

   エントリーシートで記入を求められるのはメールアドレスのみ。工夫のしようもありません。エントリー後に、適性検査を受検。その結果でいくつかの選考に振り分けます。

   この制度を始めた仕掛け人は退職してしまいましたが、制度そのものは健在。2月までは、学生が集まれば採用担当者が出張して会社説明会を開く「出前説明会」も実施中とのことです。

エッセイ漫画に企画協力も

   チロルチョコは、コンビニのレジ横などで売られている「チロルチョコ」が主力商品です。親会社の松尾製菓(福岡県田川市)が製造し、東京に本社を置くチロルチョコが企画・営業などを担当しています。

   2016年卒採用はなく、関連のページも確認できなかったため、2018年卒以降があるかどうかは不明です。親会社の松尾製菓は、2017年卒の採用は実施していました。

   このチロルチョコ、2015年刊行のエッセイ漫画『チロルチョコで働いています』(著者:伊東フミ、メディアファクトリー)に企画協力をしています。

   新卒入社2年目で商品企画を担当という(通常だとまずありえないような)設定とはいえ、チロルチョコの歴史が盛り込まれていたり、鹿児島名物・白熊アイスを再現した白熊チロルの企画から実現までを描くなど、読み物としてもなかなか面白い一冊です。ラーメンチロル、キムチチロル、かば焼きチロルがボツになった、という小ネタも興味深いところ。

   チロルチョコの新卒採用がなかったとしても、菓子メーカー志望者なら読んでおくと勉強になるはずです。

   製菓業界には、全国区の企業だけではなく、地域に根差したメーカーも多数あります。北海道だと、六花亭製菓(帯広市=「マルセイバターサンド」)、石屋製菓(札幌市=「白い恋人」)、北菓楼(砂川市=「北海道開拓おかき」)など。

   宮城県は菓匠三全(仙台市=「萩の月」)、岡山県は廣榮堂(岡山市=「きびだんご」)、源吉兆庵(岡山市=定番菓子、季節菓子、果実菓子)、山口県は豆子郎(山口市=「豆子郎」)など。

   地方の菓子メーカーは、小規模であり、かつ採用といえば販売職が主流でした。しかし、近年はそれが変わりつつあります。

   たとえば、源吉兆庵。岡山市の企業ですが、東京にも宗家源吉兆庵の本社を置いており、

「今や、ニューヨーク、ロンドン、上海、台北、ハワイなど海外の店舗数は28店舗」(リクナビ2017より)

とあるほど。そこまで規模が拡大すれば、製造を担当できる理工系出身者や、販売職以外の文系総合職も必要です。実際、宗家源吉兆庵は、リクナビ2017によると「今年度予定(注:2017年卒) 36~40名、昨年度実績(見込/注:2016年卒)11~15名」とあります。

   海外まで行かずとも、東京や大阪など都市部の百貨店などで物産展を開くこともあれば、場合によってはテナントとして出店を要請されることもあるでしょう。それらをマネジメントできる人材を増やすには、短期的には転職者の受け入れでどうにかなります。が、長期的には新卒採用を拡大するしかありません。

観光資源という発想も必要

   また、総合職には、製菓というくくりだけではなく、観光資源という発想も必要でしょう。単に商品を売るだけでなく、観光資源として観光客を集めるにはどうすればいいか、という視点です。

   廣榮堂は、築150年の古民家を岡山市内に移築し、店舗として再生しました。豆子郎は、山口市にある本店に「豆子郎の里 茶蔵庵」を併設しています。落ち着いた雰囲気の喫茶スペースには所蔵品が展示され、窓外に庭園をながめることができます。

   廣榮堂や豆子郎は、ともに、和菓子を売るという商売だけではなく、観光資源としても地域に寄与したいという発想があるからこそ、このように力を入れているのではないでしょうか。

   新聞の株価欄を開いてみてください。東証1部の食品カテゴリーは、知っている企業が多数、掲載されているはず。

   就活講演などで学生に企業チェックをやらせてみて、ほぼノーマークとなるのが、イートアンド、わらべや日洋、寿スピリッツです。

   イートアンドは大阪王将の運営企業。冷凍食品の製造・販売もビジネスなので食品カテゴリーになっています。わらべや日洋はすでにご紹介したセブン‐イレブンのコンビニベンダー。

   そして、寿スピリッツは、米子市が本社の「お菓子の総合プロデューサー」(同社サイトより)です。「九十九島せんぺい」(長崎)、「神戸白いチーズロール」などを製造する傘下企業を北海道から九州まで、17社(台湾を含めると18社)擁しています。

   製菓メーカーとは違いますが、こういう企業もあるのです。

   お菓子のプロデューサーということでは、卸流通事業の山星屋も紹介しておきましょう。丸紅系で、菓子メーカー1000社と流通500社以上をつなげるパイプ役です。ここで、

「単なる問屋でしょ」

と、考えた学生は東京湾にでも沈んでいただきましょう。なぜ、東京湾か、といえば、同社はディズニー関連のお菓子の権利を持っています。つまり、製菓大手がディズニー関連のお菓子を出そうとしても同社を通す必要があります。あるいは、山星屋が企画をすることもあります。

   同社では、1~2月に営業業務を体験するインターンシップを実施するとのこと。

   2017年は、大手から中小まで1日インターンを展開するようになってきます。製菓関連も同じで、今回ご紹介した企業では、チロルチョコ以外は廣榮堂、宗家源吉兆庵、豆子郎などの地方企業を含め、その大半が実施しています(一部は2日間ないし3日間)。小さな企業も同様で、従業員数30人規模の大橋珍味堂(滋賀県近江市=柿の種など)も1日インターンを実施予定とのこと。

   製菓業界志望の方はいろいろと探してみるといいでしょう。(石渡嶺司)