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女性の方が英語ができるのか 脳が違う?ベテラン通訳者に聞く

   新年度が始まり1か月ほどが過ぎた。新社会人やビジネスマンの中には「心機一転、英語の勉強でもするか」とテキストを買いそろえた人もいるのでは。

   日本人になじみの深い英語テストに、「TOEIC」がある。調査によると、最新の平均スコアでは女性が男性を140点上回ったという。「そういえば、学校で英語の成績が良かったのは女の子が多かったな」「テレビの同時通訳は女性ばかり」という気もする。男女間では、努力面以外に語学の習熟に差があるのだろうか。

  • 英語で口げんかできれば本物!?(写真はイメージ)
    英語で口げんかできれば本物!?(写真はイメージ)
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研究では「話すときに男は左脳、女は左右両方を使う」

   TOEICに関する調査結果を2017年3月16日に発表したのは、ソフトウエアメーカー「ソースネクスト」。有効回答数2764件のうち、TOEIC受験経験者は30%で、受験者の最新の平均点は男性が526点なのに対して女性は668点だった。限られたサンプル数だが、140点差とは大きな開きだ。

   外国語を含めた言語力に関する男女の違いについて、世界中でベストセラーとなり、日本では2000年に翻訳版が出版された「話を聞かない男、地図が読めない女」(主婦の友社)では、脳研究を交えた記述がある。まず、頭をけがした患者を対象とした研究で、人が脳の左側に損傷を受けると、男性は発話能力や語いのほとんどが失われるが、女性は影響が小さかった。1995年、米エール大の研究チームが、韻を踏むときに脳のどこが使われるかを調べる実験を行い、MRI(核磁気共鳴画像法)で血流のわずかな違いを測定すると、言葉を話すときに男性は左脳を、女性は左右両方を使っていることが分かった。

   この研究については、産業技術総合研究所による「短いエッセイを朗読してそれを男女に聞いてもらい、左右の脳の活動を調べる」という別の実験でも、「男性は左脳が主に活動するのに対し、女性は左右両方の脳が同じように活動していた」と同様の結果になった。

   産業技術総合研究所のウェブサイトでは「一般的に左脳は情報を分析的に、右脳は全体的に処理すると言われています。さらに近年のデータによると、右脳は時間的に離れた二つの刺激を結びつける働きをするらしいことも分かってきました。女性は男性よりも話の中で離れた部分同士を結びつける能力に優れている可能性があります」と説明している。

   「話を聞かない男、地図が読めない女」では、こんな説明もある。

   「女の子の左脳は、男の子より成長が速い。だからあとから生まれた妹も、兄さんより早く、じょうずに話せるようになる。女の子は字を覚えたり、外国語を習得するのも早い」

英語の処理つかさどる脳活動の大きさ、活動パターンに男女差

   日本人の英語学習を巡る脳の研究のひとつに、首都大学東京が2015年8月17日に発表したものがある。発表資料によると、6~10歳の小学生男女計484人に、光トポグラフィーという装置を用いて日英両言語の単語復唱時の脳活動(脳表面の血流における酸素化状態の変化)を調べた。

   男女間で顕著な差があったのは、音韻処理に深くかかわると考えられている頭頂葉の角回・縁上回と呼ばれる領域の活動だ。男子は英語復唱時、角回・縁上回を含む広範囲な脳領域を活動させていたが、女子は角回・縁上回の活動はほとんど見られず、言語にかかわる限局的な脳部位を使用していた。

   英語の学習時間に強く相関する習熟度と、脳活動の大きさとの関係も調べた。習熟度の向上と共に、男子は復唱のパフォーマンスが上がり、言語にかかわる広範な脳部位の活動を高めた。女子は同じくパフォーマンスが上がる半面、言語にかかわる限局的な脳部位の使用にとどまった。

   こうした結果から「英語課題のパフォーマンスは同等でも、英語の処理を司る脳活動の大きさや活動のパターンに男女差があることが明らかになりました」という。ただし、英語学習全般において男女差があるかどうかは、この研究からは明らかになっていない。

おしゃべりだと英語力は高まるか

   高い語学力が求められる仕事の現場の状況を知るため、J‐CASTヘルスケア編集部では国際会議の舞台で長年活躍している女性通訳者に取材したところ、匿名を条件に応じた。まずフリー会議通訳者は、本人の感覚的な男女の割合は「9対1ぐらいで女性」という。ただし男性が少ない理由は、フリーランスの場合需要に季節性が強いので収入が変動する点が大きいと考えている。それでも、「いずれにしても通訳者に関する限り、圧倒的に女性社会」。

   この通訳者の視点で日本人を見ると、女性はもともと言語面で「ベターコミュニケーター」、男性の場合は「黙って行動」タイプが多いと映る。

   先述の「話を聞かない男、地図が読めない女」には、女性はおしゃべり好きの人が多いとの指摘がある。女性は脳の左右両方を使って、たくさん話す。また女性は脳の発話ゾーンが決まっているので、外国語習得が楽だし速いという。同書は1998年の英国のデータを引用して、外国語教師の男女比を示している。例えばスペイン語教師は全体で2700人、うち女性は78%だ。フランス語は1万6200人中75%が女性、ドイツ語も8100人中75%が女性となっていた。

   この内容について女性通訳にたずねると、「話し好きの人の方がスピーキングの上達は早いかもしれません」としつつ、語学力を総合的に考えた場合、間違った内容をペラペラ話すだけでは相手とのコミュニケーションは成り立たず、習熟しているとは言えないと指摘。「おしゃべり」イコール「流暢」ではないと強調した。

   一方で、日本人の中にはあまり英会話をしなくても格調高い英文を書けたり、難しい論文を読んで理解できたりする人は多い。さらにビジネスの現場では、発音が美しいかどうかは問題にされず、社会常識や文化的な下地がある、ビジネス上の駆け引きができる、専門分野に精通している点が重要であり、「そういう意味では、(日本人)男性の優れたコミュニケーター、プレゼンターは数多くいます」と話した。

   冒頭のTOEICの男女差については、女性の方がまじめに勉強する、努力してテストで良い点数を取る人が多ければ結果として高くなるため、英語力に男女差があるかどうかは、何とも言えないとした。