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うまくいかないM&A 弱気な社長が見つけた「異文化融合」法

   3年前に同業企業のT社を買収した中堅電子機器製造のG社。組織統制がしっかりしている大企業でさえ難しいのは、統合における企業風土の違いをいかにすり合わせるかです。

   G社のオーナー社長であるK氏にお目にかかったのは、この買収から1年を経たとき。当時は「統合の難しさをひしひしと感じている。白紙に戻すかもしれない」と、かなり弱気でした。

  • 「褒める」効果はテキメンだった
    「褒める」効果はテキメンだった
  • 「褒める」効果はテキメンだった

自社が別の会社に支配される屈辱がわかるか!

   社長が最初に面食らったのは、買収される側であるT社の社員たちの強い反発だったと言います。確かに吸収される側には、自社が別の会社に支配されるという、ある意味で屈辱的な思いがあろうことも想像に難くありません。

   社長は、「そこをいかに懐柔していくかには、かなり気を遣ったつもり」だったようですが結果はうまく運ばず、T社の社員の批判的な態度はG社の社員たちの神経を逆なでするに至り、お互い譲らず各部門で衝突が続発。統合による相乗効果はおろか、むしろマイナスにすら働きかねない状況に陥っていたのです。

   それがちょうど2年ほど前に聞いた状況でした。その後どうしただろうかと気にとめていたのですが、先日ある会合で久しぶりにK社長にお目にかかったのでお話を聞いてみると、なんとも意外な答えが返ってきました。

「紆余曲折あったM&Aでしたが、おかげさまで今は至って順調です。統合後落ち着くまでの間は、各々事業部として実質別組織管理をせざるを得なかったのですが、ようやくここ1年ほどで組織融合に動ける体制ができてきました。人事異動による人の融合も軌道に乗り始めました。遅ればせではありますが、当初予定していた事業面での相乗効果も今季から徐々に目に見えるようになると思います」

   2年前とはうって変わった社長の回答に、私はびっくりして返しました。

「以前お目にかかった際はだいぶ組織融合にご苦労され、白紙撤回もありうるぐらいのお話だったと記憶していますが、何か転機になるようなきっかけがあったのでしょうか」

はじめの一歩は「相手を知る」こと

   社長は、少しばかり神妙な顔つきになって説明してくれました。

「自社は私で三代目。祖父、そして父が磐石な土台をつくってくれた会社で、社員がついてくることを当たり前のように思っていましたが、人様の会社と人を引き受けてはじめて、まとめるということの大変さ、難しさを痛感させられました。当初は、私も社員もどこかで、統合する側の上から目線があったのだと思います。社長として、反発を繰り返す元T社の社員たちの話を直接聞いてみて初めて、気づかされたのです」

   では、いかにしてそれを解決に導いたのか、関心は尽きません。


「上から目線、あるいは統合される側の被害者目線をどうしたら解消できるのか、随分と悩みました。あれこれ考えをめぐらせる中でヒントになったのは、私が師と仰ぐ大経営者が口癖のように言っている『営業も教育も、うまくやりたいならば相手を褒めて対話しろ』でした。褒めることの大切さはわかっていながらなかなかできない。これは上司だけの問題ではなく、同じ会社で働く社員すべてに言えることです。相互に褒めることをすればずれている目線も等しくなるに違いない、そう考えました」

   K社長は幹部を集めて議論しました。具体的にどうやって相互に褒める文化を共有したらよいか。何よりお互いをよく知らないことには褒めることもできない。議論の末に出た結論は、T社、元G社それぞれの事業部をいくつかのグループに分けて、T社グループは元G社を、元G社グループはT社を徹底的に調べたり、グループ同士での対話を通じてヒアリングしたりして、お互いの強みを知り、それを発表するという一風変わったQCサークル活動(製品・サービスの品質管理、品質改善のための活動)でした。

   自己の職場ではなく、相手の職場のいい点から学びそれを伸ばそうという試みです。

起死回生となった「古臭い」活動

「たまたま、うちはものづくり企業だったので、古臭いと言われながらも代々QC活動が脈々と続いていましたから、それをうまく使えないかと。部長たちの発案でした。果たしてうまくいくものか、はじめは疑心暗鬼でしたが、やってみて、続けてみて、驚いたことに効果はテキメンだったのです」

   お互いをよく知ることで、相手に対する誤解は解け、相手の立場でモノが考えられるようになる。かつ、相手の強みを認識することで、それをどのように相互協力したら最大限に活かすことができるのか。そんな発想に移行していく中で、T社、元G社それぞれの社員は、徐々に打ち解け一体感を増していったと言います。

「元G社の社員が自ら希望して、自分の経験をもっと活かすためにT社の既存事業部に異動したいという申し出があったときには、本当にうれしかった。『褒める』ことの効用は素晴らしい、と改めて実感した次第です」

   T社のこのケースはM&Aという、本当に難しい異文化融合の局面での起死回生策でしたが、このやり方は社内でもよくある技術と営業、あるいは企画と現場のような対立構造になりやすい組織内不協和音の解消にもってこいなのではないかと思いました。

   それと同時に、そんなお悩みが絶えない企業も複数頭に浮かんだので、さっそく話してみようと思います。(大関暁夫)