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「共働き」に理解がある男性の全国ランク(後編)
都会男性に告ぐ!働き方改革で女性への理解深めて

   女性の社会進出が進み、いまや「専業主婦」世帯よりも「共働き」世帯のほうが多い時代。とはいえ、「妻は専業主婦が理想」という、昔ながらの保守的な考えの男性はまだ存在する。

   ニッセイ基礎研究所の天野馨南子(かなこ)研究員は、妻が働くことに理解がある男性にも地域差があることを、全国47都道府県を分析してリポート。意外にも、妻が働くことに「抵抗」がある保守派が「都会に多い」と指摘した。

   J‐CASTニュースは2017年12月21日、調査をまとめた天野さんに、さらに詳しく話を聞いた。

  • 天野馨南子さんは、「若い女性は『幻想』で判断しないで」と語る
    天野馨南子さんは、「若い女性は『幻想』で判断しないで」と語る
  • 天野馨南子さんは、「若い女性は『幻想』で判断しないで」と語る

「都会の男性は忙しすぎる。メイドがほしい」

   ――「妻は家庭に」と考える男性が西日本、特に九州に多いのは『男尊女卑』の風土が強いからとわかります。しかし、妻が働くことに理解を示す男性が、東北などの農業県に多いのはどういうことですか?

天野馨南子さん「農村部では江戸時代から女性が働くのは日常風景ですから、共働きが当然なのです。政治の話にたとえ、女性が働くことを認める考えを『革新』、認めない考えを『保守』とすると、東北が『革新』で、西日本と都会が『保守』ということになります」

   ――しかし、都会に保守的な男が多いのは不思議です。政治と逆じゃないですか?」

天野さん「都会の男性は、とにかく忙しすぎるのです。単純に、忙しいから妻には家にいてほしい。自分は忙しくてとても手伝う時間がないから、メイドのように家のことを何でもやってくれれば、そのほうがラクなんですよ。その分、おカネも稼いでいるし。しかし、地方の女性は東京に比べればのんびりとした環境の社会から来るわけですから、このことについて想像があまりついていっていません。
『都会の男性は、高学歴で所得が高い、さらに女性が働くことに理解がありそう』と思い込み、都会に来ます。そして、都会男性の保守理想割合の高さの壁に跳ね返され、失望する人が多いのです」

東京は若い女性を吸いこんでは失望させる「ブラックシティー」

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【図1】自分の家庭の理想は「夫が外で働き、妻が家を守る」ことだ:男女比率(多い順)
(資料)ニッセイ基礎研究所 利用データ:内閣府「地域における女性の活躍に関する意識調査」2015年

   ――そんな女性の抱きやすい幻想に警鐘を鳴らすためにリポートを書いたのですね。

天野さん「はい。たとえば愛知県は『20代から30代の若い女性が東京に流れ出すランキング』1位の県です。愛知県は図1の保守理想男性比率の5位に入っています。名古屋の男性は、三大都市(東京、大阪、名古屋)の中で最も保守な愛知エリアの男性ですから、働きたい女性は居心地の悪さを感じ、新幹線ですぐの東京に憧れて出てきます。
山梨県も東京に特急で2時間という近さと、革新男性への幻想から多くの若い女性が東京に流れてきます。私の懇意の美容業の20代女性も山梨県出身ですが、東京に憧れてくるものの、あっという間に『想像と違った』と帰っていく山梨の友人女性の話をしてくれました。山梨県は図2で見ても全国平均に近い程度の保守割合ですので、まだ若い女性も帰る決断ができるようです。しかし、保守男性割合の5強入りの愛知県に関しては、若い女性が一方通行で戻っていかない傾向があります。
いずれにしても東京は、『全国で最も革新的な考えの男性が多いのでは?』という勘違いをしてしまった若い女性を、吸いこんでは失望させやすい『ブラックシティー』化している一面があり、これは問題だと思います」
【図2】自分の家庭の理想は「夫が外で働き、妻が家を守る」ことだ:男女比率(少ない順)利用データ:内閣府「地域における女性の活躍に関する意識調査」2015年
【図2】自分の家庭の理想は「夫が外で働き、妻が家を守る」ことだ:男女比率(少ない順)

九州女性は「成功者」が多い そのスゴイ理由がわかった!

   ――同じ「保守」の風土でも、九州の女性は、たとえば銀座のママの半数以上は九州出身といわれるように、成功者が多いようですが。

天野さん「水商売もそうですが、IT業界でも九州の女性は活躍しています。熊本のIT企業経営者の話では、地元のITエンジニアの採用では女性はなくてはならない存在。一次産業優勢の熊本ですから、若い男性は実家の農業や林業を支えるためにIT産業にはあまり応募してこない。彼によればITエンジニアにはそれなりの学歴が必要ですが、若い男性は高学歴を必要としない家の後継者の感覚なので、学歴的にも要件を満たしにくいとのこと。女性の方がITエンジニアに適した学歴を持っているといいます。図1のランキングでも『妻は家庭を守ってほしい』という保守な男性割合の全国トップが福岡県ですが、この男性の理想の壁をあえてブレークスル―(突破)した女性こそが都会に出てきているから、成功しているのです。
ただ地元がイヤだと逃げ出して東京に来るのではなく、『生まれ育ったエリアに左右されない、揺るぎなき価値観と現状突破力をもった女性こそが、九州から東京に出てきている』といえるでしょう」

   ――相当に根性がすわっている方が出てきて成功しているわけですね。

天野さん「今回の内閣府調査では全国の男性の44%が専業主婦を望んでいます。一方、国立社会保障・人口問題研究所の調査では、全国的には34歳までの若い女性の7割が家庭を持ちつつ働くことを望んでいます。今の日本の男性の理想から考えると、特に若い女性にとって、不幸なミスマッチが起こりやすい社会だと指摘できるでしょう。
もし、生まれた場所を離れて他のエリアで男性と出逢いたい、と考えているのならば、飛び出す前に、『大都市で働くオシャレな妻計画』の実現は容易ではないことを、どうしても幻想を抱きやすい若い女性の皆さんに、よく考えてほしいと思います。
本当に地元では出逢えないのか、また、『ここの男性が革新っぽい』と印象だけで出てくるのではなく、きちんとしたデータを元に考えて、あなたの考えに本当に合いそうなところへ覚悟して出てくることが大切です。今回のレポートで、後でこんなはずではなかった、と後悔に泣く若い女性が少しでも減らせればと思います」

プロフィール

天野 馨南子(あまの・かなこ)
ニッセイ基礎研究所・生活研究部研究員
1995年日本生命保険入社、99年にニッセイ基礎研究所に出向。2016年内閣府の「地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査」企画・分析会議委員、翌17年からは内閣府「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員。愛媛県法人会と松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会 結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバーなどを歴任。真の日本の女性活躍推進・少子化対策のあり方を考察・提言を発信している。