J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

飲食店が立ち上がった! 相次ぐ「ドタキャン被害」に常習者の電話番号をブラックリスト化

「あれ、予約の20人まだ来ていないの?」
「はい、幹事に電話しても出ないんです」

   青ざめる店長。宴会料理の仕込みは終わっているのに...... 「ドタキャン」は「人手不足」「顧客管理」と並ぶ飲食業界の3大問題のひとつで、経営の存続に関わる事態を招きかねない。

   そこで、個人飲食店のオーナーが集まって運営する全日本飲食店協会は、2018年2月19日から、相次ぐ団体予約の無断キャンセルによる被害を減らす新サービス「ドタキャン防止システム」の稼働を始める。過去にドタキャンをした人物の電話番号を登録、店側の事前の予防策に役立てるのが狙いだ。

  • ドタキャン防止漫画のひとコマ(全日本飲食店協会のサイトから)
    ドタキャン防止漫画のひとコマ(全日本飲食店協会のサイトから)
  • ドタキャン防止漫画のひとコマ(全日本飲食店協会のサイトから)

「まさに信じられない!」130人の団体予約がドタキャン...

   インターネットではここ数年、飲食店のドタキャン騒ぎの話題が絶えない。東京・下北沢の居酒屋で2017年10月21日、130人の貸し切り予約が突然キャンセルになる事態が発生した。この時は、店側が公式ツイッターに、

「今、まさに信じられない事が起こったのですが、貸し切りのお客様がドタキャンとなりまして...。130名という事でお席空いています!」

と投稿したため、

「130名ドタキャンとか許さない! 許さない!」

と、すぐに店に同情するリプライが相次ぎ、多くの客が食べに来た。その後、団体幹事と連絡が取れ、他の店と二重予約したことを忘れ、その店で飲んでいたという。130人中20人が「おわび」に、その居酒屋を2次会に利用した。

   この居酒屋のようなケースもあるが、初めからドタキャンを承知で行なう心無い客も少なくない。他の客を断って予約を入れているため、ドタキャンによって売り上げは減るし、さらには食材を破棄しなければならず生産者への罪悪感もある。また、仕込みにかけた時間と労力がムダに終わる無力感が加わり、精神的なダメージも大きい。

   今回の「ドタキャン防止システム」は、過去にドタキャン歴がある者の電話番号を登録。予約が入ったら会員がそれを参照し、ドタキャン常習者かどうかをチェックする仕組み。予防策に生かそうという試みだ。

大事な接待で4つの店を同時予約する超一流企業の社員

   J-CAST会社ウォッチ編集部は2018年2月15日、全日本飲食店協会理事長を務めている「洋食グリル天平」(兵庫県姫路市)のオーナー関良祐さんを取材した。

――今回の「ドタキャン防止システム」のアイデアはどこから生まれたのですか?

   関良祐さん「飲食店協会のメンバーが集まった時に『ドタキャン何とかしたいね』といつも話題になります。被害にあっている店はかなり多いです。予約客には前金制をとるといいのですが、それができない店が多い。過去にドタキャンをした要注意人物の、いわば『ブラックリストをつくろう』というのが出発点です」

全日本飲食店協会理事長で「洋食グリル天平」の関良祐さん
全日本飲食店協会理事長で「洋食グリル天平」の関良祐さん

――ドタキャンを何度も繰り返す人物がいるということですか。

   さん「はい。ある超一流企業の人が、私が飲食店主だと知らずに話したのですが、接待でどうしても大事な商談を成立させたい時は、いくつもの店の予約をとっておくそうです。中華、フレンチ、イタリアン、和食...... と。相手のさりげない会話でイタリアンが好みとわかると、ほかの店はドタキャンする。時間に余裕があれば店に連絡を入れますが、たいてい知らん顔だそうです。その人は頻繁にドタキャンしていますね」

――それはひどい話ですね。

   さん「若い人たちは居酒屋で同じようなことをしますし、ケーキ屋さんでもドタキャンがあります。若い男性が彼女の誕生日にバースデーケーキをいくつかの店に予約する。そして、彼女の好みがチーズケーキだとわかると、イチゴケーキの店はドタキャンするらしいです」

――バースデーケーキだと、名前や日にちが入るので、すべて無駄になりますね。

   さん「ドタキャンの被害はどの店でも深刻です。フランス料理店は仕込みに2~3日かかる料理が多く、予約が入ってから仕込みをするので、ドタキャンされると本当に悲しくなります。寿司店でもコース料理は特別な食材を使いますから単品では売れないため、すべてロスになります。回転寿司店でも持ち帰りの予約を受け、忙しい最中に時間とスタッフをやりくりして、ほかのお客様を待たせてつくったのに...... と悔しい思いをします」

――被害に遭った店が、相手にキャンセル料をとったり、損害補償を要求したりした例はないのですか。

   さん「ありません。みんな個人事業者ですから、裁判などに時間やカネをかける余裕はありません。本当に泣き寝入りです」

――過去にドタキャンをした人の電話番号を登録し、ブラックリストをつくるということですが、個人情報保護法にひっかかる問題はありませんか。

   さん「私たちがデータを収集して会員に提供するのは、ドタキャン歴のある電話番号とドタキャンがあった日時、それと予約人数だけです。消費生活センターの弁護士に問い合わせましたが、これだと個人が特定されないので個人情報保護法に抵触しないということでした」

怒! ドタキャン常習者には「予約お断り」か「前金制」で対抗

――実際にブラックリストの人物から予約が入ったら、店側ではどういう対応をとるのですか。

   さん「それは各店に任せます。ドタキャンの常習者には予約の断りを入れる場合もあるでしょう。私なら、コースの料理分の料金を予約日の前に支払うようメールし、振り込まれていない場合はキャンセルにする前金制にします」

――「ドタキャン防止システム」のスタート時には何件くらいのブラックリストのデータがあるのでしょうか。

   さん「約20の店のデータが出発点です。全国のできるだけ多くの店に参加してもらい、データを増やしたいです。そのためサイトの使用料は永久に無料としました。私も年に一度は心無いキャンセルで悔しい思いをしています。農家さんの思いが詰まった食材を破棄しなければならない申し訳なさ、足を運んでくれたお客様をお断りする罪悪感、目標に届かない売り上げ......
ホテルを予約するお客様は無断キャンセルなんかしないし、キャンセル料を支払います。しかし、飲食業界の予約となると、一気に軽くみられているのが現実です。飲食業界のイメージを変え、『自分の店、自分たちの業界は自分で守る』という信念を持って行動する仲間を募っています」

――盛り場には「暴力団排除の店」というワッペンを貼っている飲食店が多くあります。「ドタキャンお断りの店」というワッペンを店に貼ったり、グルメサイトの自分の店に付けたりするのはどうですか。

   さん「なるほど。いいかもしれませんね」