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企業を悩ます「ネット炎上」 発生から消火まで「防災訓練」プログラムを体験取材

   コンビニエンスストアで店員が商品の上に乗り棚卸しをしている写真を流されたり、ホテル従業員が有名人の情報をつぶやいたり...... インターネット上では、企業の知らないところで投稿された記事によって、「炎上騒ぎ」が起こることがある。放置しておくと「風評被害」で打撃を受けることが多い。

   「炎上」はどのように発生し、どう広がるか。そして、どう「消火」すればよいのか――。ビッグデータの活用を支援するホットリンクが、2018年2月下旬から企業が炎上を疑似体験できるプログラム「1時間だけ炎上防災訓練」の無償提供を開始した。

   J-CASTニュース会社ウォッチ編集部の記者が、このプログラムを体験取材した。

  • じわじわと「露出」が広がっていく
    じわじわと「露出」が広がっていく
  • じわじわと「露出」が広がっていく

投稿で発火! メディアの「報道」までの4段階

   ふだんは、炎上した企業を取材する立場の記者としては、炎上の火消し側に回るのは、少々面はゆい気分だ。パソコンでプログラム指導をしてくれたのはホットリンクRS事業本部サポート営業部コンサルタントの別井孝士さん。

   プログラムは第1から第4ステージまで4段階。投稿で火がつく「露出」、それが燃え広がる「拡散」、さらに広がった情報をまとめサイトなどが整理してニュースに仕立てる「集約」、それをメディアがキャッチする「報道」と進んでいく。

   それぞれの段階の最後に質問項目があり、その回答によって企業(記者)の危機対応力がわかる仕組みだ。

   まずは、第1ステージの「露出」。炎上騒ぎの発端は、大手メーカー社員が自分の会社名を暴露した、こんなボヤキのツイートから。

社員「うちの会社、ブラック企業認定だ。こっちの能力をまったく考慮せず、プレッシャーだけかけてきやがる。昨日なんか人格否定された上に外見までディスられた。我慢ならないので重要な情報を暴露してやる」

   この投稿は、インターネット上で炎上の煙のニオイを嗅ぎ回っているウォッチャーの目にとまる。

ウォッチャー「企業名ばればれの暴露ツイート発見!」

   ウォッチャーはさっそくパタパタと炎をあおりにかかる。

発端となったツイート(画像は、デモ画面)
発端となったツイート(画像は、デモ画面)
ウォッチャー「うわ~、たまってますね~。あぶない、あぶない」
社員「ブラックぶりをアピールするには、やっぱり残業時間リストの写真を撮るのが手っ取り早いか。うちのブラックぶりを公開する。どーーーん!」

   社員は、従業員の氏名入り残業時間リストの写真を投稿に貼りつけた。

ウォッチャー「うわ~、残業時間はんぱないじゃん。ブラック企業認定ですな」

   別井さんは「ウォッチャーは、この時を待っていたのです。『シッポをつかんだ!』と、喜んで残業時間リストの写真を拡散します」と説明する。

   どんどん書き込みが増えていく。

「そんなものを公開しちゃうなんて、情報漏えいじゃない」
「根が深そうだな。今ごろ広報部大変だろうな」

.........

   第1ステージの質問は、リスク感知と警報発令体制ができているか、を聞かれる。

   一方、こういう炎上の初期段階を会社側はどうやって察知するのか――。

   別井さんは、「この段階では大半の企業は気づきません。ただ、こうしたリスクをモニタリングするツールを入れている企業では、初期段階で知ることができます」と説明。たとえば、同社が開発した「e・mining」(イーマイニング)というツールは、ツイッターやブログ、ネットニュースなどインターネット上にあふれる情報の中から自社の風評や口コミ、評判を検索し、一定の情報量を超えると警告する仕組みだ。

怖い「まとめサイト」と「プロのブロガー」が登場すると......

   第2ステージの「拡散」に入ると、書き込みが洪水のように増える。フォロワーが多くいるブロガーたちが参加し、ネズミ算式に広めていく。文字どおりの「炎上」だ。

   問題投稿を発見した後に、その危険度をどう分析し、どう判断しますか――。第2ステージの、別井さんの質問に記者はこう答えた。

「まず、その内容が事実かどうか確かめます。そして投稿者は誰かを突きとめるべきだと思います」

   別井さんは、「そのとおりです。投稿内容がかなり事実なら、会社の不祥事になりますし、ウソ八百だったら、それはそれで危険な事態です。その内容を分析して、どのくらいの影響が出そうか判断しなくてはいけません」と説明。その判断のタイミングにも注意すべきと、付け加えた。

まとめサイトが登場(画像は、デモ画面)
まとめサイトが登場(画像は、デモ画面)

   第3ステージの「集約」では騒ぎを聞きつけて、「まとめサイト」と「プロのブロガー」といった「怖い存在」が参入してくる。

   まとめサイトは、炎上中の話題をグーグル上で検索上位にいくよう、テーマを決めて見出し風にまとめあげる。今回の騒ぎでは、社員の投稿を元に「『炎上中』膨大な残業時間のブラック企業社員」と紹介したり、「ブラック企業社員の愚痴がもたらす炎上 残業リスクを洗い出そう」と呼びかけたりする。

   一方、プロのブロガーは、自身のブログのアクセス数が多いほど稼ぎになるから、炎上騒ぎにはすぐ飛びつく。別井さんはこう語る。

「彼らは、自分のブログをトレンドブログと呼び、数多くのフォロワーを持っています。たとえば弁護士が『会社への不満からの『残業リスト漏洩』で問題になる守秘義務違反とは?』といった切り口で書き、アクセス数を増やして検索の上位にいくようにするのです」

ネットニュースと新聞記者の対応に違いがある?

   こうなると、もう手に負えない。「炎上ネタ」を暴露された大手メーカーの公式ホームページにメールが殺到してくる。

   まとめ記事の増加や、消費者からの問い合わせにどう行動したらよいか――。第3ステージの質問に、記者は「投稿が事実に反しているなら、顧問弁護士を通じてグーグルやツイッターに削除要求をします」と答えた。

   「もし事実なら、どうしますか?」と別井さん。

「う~ん。会社のホームページに謝罪文や、再発防止の説明文を出すでしょうね。社長の記者会見をすぐに開いたほうがいいかもしれません」

   「そのとおり。問題が起こってから1日以内に原因の分析や再発防止策を提示できないと、大変なことになります。実際の炎上時は、前日の晩からネット上では大騒ぎ。翌日出社した広報担当者が青ざめることになります。そして、やっと15時頃に緊急役員会が開かれて対応を協議しますが、その頃にはメディアがニュースをバンバン流している事態になります」と、別井さんは説明した。

   さらに、第4ステージの「報道」に進む。最初に駆けつけるのはネットニュースだ。「現在、ツイッターで御社についてネガティブな反応が拡散しています。原因となった投稿は御社の社員と思われますが、どうですか。投稿内容は事実ですか。見解文や謝罪文を出す予定はありますか」と、矢継ぎ早に聞かれる。

   しばらくすると、大手新聞社が「大手メーカー、個人情報漏洩で従業員解雇 会社への不満からツイッターに氏名入り残業時間リスト投稿」の見出しで報じた。新聞やテレビなど伝統メディアの登場で、「炎上」は最高潮に達することに。

炎上するようすがわかる(グラフはインターネットでの書き込み状況の推移)
炎上するようすがわかる(グラフは、インターネットでの書き込み状況の推移)

   別井さんは、「ネットニュースから取材が入った時と、新聞記者から取材が入った時の注意点は何かご存知ですか?」と聞く。これが第4ステージの質問だ。

   ん、ん、どういうことか? 

   別井さんはこう続ける。

「じつはネットニュースからの問い合わせは、ネットだから会社のホームページを作成する部門が対応すればよいと考えている企業が意外に多いのです。いずれも、広報部門がきちんと対応して情報を早く開示することが大切です」

模擬会見で、新聞記者役が質問

   別井さんによると、このプログラムは無料で1時間。インターネットにつながっているパソコンがあれば、企業の広報や危機管理の担当者が1人でもグループでも練習できる。 ただ、具体的にどう対応するかの実践的な「防災訓練」は有料。みっちり数時間から半日かけ、広報だけでなく役員会メンバーも集めて行なうコースもある。模擬会見を開き、新聞やテレビの記者役の質問に答えたり、ネットニュース記者役からの取材電話を受けたりするコースもあるという。

   RS事業本部本部長の四家(しけ)章裕さんが、こう説明した。

「このプログラムは、炎上の流れがどう広がり、次に何が起こるか、メディアが何を聞いてくるかを体験してもらうためのものです。SNSだけではなく、最後は大手メディアまでが取材に来るので大変な事態になります。ネットユーザーは1億人もいます。大地震の確率と炎上の確率はどちらかが高いか。ともに会社の危機ですから、対応を考えるには会社にどんな課題があるかを考えてもらいます」