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その51 国民栄誉賞 「こんなものいらない!?」(岩城元)

   「国民栄誉賞」というものがある。1977年、当時の福田赳夫首相が設けたもので、最近では2018年2月13日に将棋棋士の羽生善治氏と囲碁棋士の井山裕太氏が同時に受賞し、安倍晋三首相から表彰状や記念品を手渡されている。

   羽生氏は将棋の名人など7つのタイトルで前人未到の「永世七冠」を達成したこと、井山氏は囲碁史上初の7大タイトル独占を2度にわたって果たしたことが評価された。

  • 国民栄誉賞の第1回の受賞者である王貞治氏の肖像レリーフ(東京・後楽の野球殿堂博物館で)
    国民栄誉賞の第1回の受賞者である王貞治氏の肖像レリーフ(東京・後楽の野球殿堂博物館で)
  • 国民栄誉賞の第1回の受賞者である王貞治氏の肖像レリーフ(東京・後楽の野球殿堂博物館で)

時の首相の人気取りでしかない

   国民栄誉賞の目的は、その表彰規程によると「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについて、その栄誉をたたえる」ことで、表彰の対象は「内閣総理大臣が本表彰の目的に照らして表彰することを適当と認めるもの」となっている。

   前置きが長くなったが、僕はこの「表彰規程」がどうも気に食わない。

   まず、これは時の首相がその人気取りのために使える制度である。もちろん、誰を表彰するかに当たっては、有識者とやらの意見も聞くのだろうけど、首相の意向が最大限尊重されることは、目に見えている。

   しかも、受賞者は広く「国民」に敬愛されている人とのことである。僕もあなたも、受賞者を敬愛する「国民」の中に含まれている。

   羽生さんや井山さんが成し遂げたことは立派かもしれない。だが、お二人を敬愛していない人もいるはずだ。将棋や囲碁に無関心の人もいるだろう。それなのに、その時の権力者の意向で、勝手に二人を敬愛させられてしまうのである。

国民は受賞者を敬愛するよう、首相に押しつけられている

   国民栄誉賞に似た制度に、1966年に当時の佐藤栄作首相が作った「内閣総理大臣顕彰」というのがある。

   ただ、これは表彰対象が「国の重要施策の遂行」「災害の防止及び災害救助」「道義の高揚」「学術及び文化の振興」「社会の福祉増進」「公共的な事業の完成」に貢献したものとなっていて、国民栄誉賞に比べると、範囲が限られている。

   このため、通算本塁打数で世界新記録を達成した王貞治氏を表彰したかった福田赳夫首相が、対象を広げた国民栄誉賞を作ったのだと言われている。当然、第1回の受賞者はその王氏だった。

   以来、歴史の古い内閣総理大臣顕彰はすっかり影が薄くなり、事実上、国民栄誉賞の下位に位置づけられている。

   でも、僕ら国民の立場からすると、内閣総理大臣顕彰はその名前からして「首相が人気取りで勝手にやっていることだ。どうぞ、ご自由に」と傍観していられるから、まだ許せる。

   だが、受賞者を国民そろって敬愛するよう、首相から押しつけられる感じの国民栄誉賞は、どうも困ったものである。(岩城元)