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「世界貿易戦争」に日本企業はのん気過ぎ! 対策をとっている企業が0.5%とは......

   中国への貿易制裁や、欧州連合(EU)や日本を含む鉄鋼製品の関税引き上げなど、トランプ米大統領が仕掛ける貿易戦争をきっかけに、保護貿易主義的な政策が世界的な広がりをみせはじめている。

   こうしたなか、日本企業の約6割が「自由貿易」が望ましいと考えており、約3割が保護貿易の高まりによって自社に「マイナスの影響」があると心配していることがわかった。

   しかし、具体的な対応策をとっているところは、わずか0.5%に過ぎないことも判明。帝国データバンクが2018年7月12日に発表した緊急調査でわかった。

  • 貿易戦争を仕掛けたトランプ米大統領((C)FAMOUS)
    貿易戦争を仕掛けたトランプ米大統領((C)FAMOUS)
  • 貿易戦争を仕掛けたトランプ米大統領((C)FAMOUS)

自由貿易の維持で建材を安く入手がいい

   調査によると、全企業の56.9%が日本全体にとって「自由貿易」が望ましいと考えており、国内産業保護を含む「保護貿易」が望ましいとする企業は9.9%しかいなかった。

   「保護貿易主義」の政策が世界的な広がりをみせた場合、自社の業績に「マイナスの影響」があると答えたのは28.7%で、「プラスの影響」は2.5%にとどまった。また「どちらともいえない」が38.5%、「影響はない」が12.7%だった。

   業界別にみると、「自由貿易が望ましい」と答えた企業は、「卸売」(60.0%) が最も高く、次いで「製造」(59.7%)が続く。ともに海外進出が進む業界で、自由貿易のほうが自社に有利と考えていることが明らかとなった。

   一方、「保護貿易が望ましい」と答えた割合が1割を超え、比較的高かったのは「農・林・水産」(13.5%)「建設」(12.5%)「小売」(10.5%)などの内需型産業だ。ただし、いずれの業界でも自由貿易を望む割合が、保護貿易をすべて上回っている。

   これについて、調査を担当した帝国データバンク情報企画課の窪田剛士さんは、J-CASTニュース会社ウォッチ編集部の取材に、

「たとえば、建設業は国ごとに建築のルールが異なりますから、典型的な内需中心の産業です。特に日本は、耐震基準が世界でもっとも厳しく定められています。そこに自由化によって海外から安いコストで請け負う企業が入ってこられてはたまりません。しかし、それでも建設資材を海外から輸入しているので、自由貿易を維持して安く手に入るほうがいいのです。日本経済にとって自由貿易を堅持することが、ほとんどの業界で極めて重要であることを示しています」

と、説明する。

   自由回答では、個々の企業からこんな自由貿易に賛成の声があがった。

「自由貿易を維持しなければ日本経済は成り立たない」(冷凍調理食品製造、神奈川県)
「自由貿易により打撃を受ける産業もあるが、少子高齢化と人口減少が進む国内事情を考えれば必要だ」(自動車小売、栃木県)
「基本的には自由貿易は重要と考えるが、自然環境への影響や民族の文化・ 歴史を互いに尊重する関係がなければならない」(森林組合、茨城県)

   一方、保護貿易に賛成の声はほとんどない。

大企業は海外を強化、中小は国内で勝負を賭ける

   ところで、3割近くの企業が保護貿易主義によって「マイナスの影響」を受けると答えているが、具体的にはこんな被害が考えられるという。

「国内市場が縮小するなか、海外市場への活路(輸出でも現地生産でも)しかない」(化学品製造、福島県)
「半導体サプライチェーンの商流が滞った場合、製品の製造が難しくなる」(化学機械製造、新潟県)
「世界中の荷動きが悪くなると、外航船の需要が減り、造船業に影響が出る」(沿海貨物海運、長崎県)

   では、どんな対応策をとっているのか聞くと、驚いたことにほとんどの企業が何の手も打っていなかった。「対応している」と答えた企業は0.5%だけで、「対応を検討中」(4.4%)と合わせても、何らかの対応を進めている企業は4.9%にとどまる。

   さらに、「対応する予定はない」が59.7%にのぼったほか、「わからない」(35.5%)と戸惑っている企業が3社に1社となるありさまだ。

   これらは企業全体の数字であり、自社の業績に「マイナスの影響」が出ると回答した企業の中でも「対応している」と「対応を検討中」を合わせて10.4%にとどまる。業績の悪化に危機感を抱きながら、何らかの手を打とうとしている企業は1割にとどまる。では、その1割の企業はどんな手を打とうとしているのか。

   具体的な対応方法(複数回答)を聞くと、「情報収集・分析の強化」が 57.0%で最も高かった。まずは様子見で、情報を集めるところから始めようというわけだ。次いで「仕入先企業の見直し」(32.0%)「販売計画の見直し」(28.8%)「自社の商品やサービスの種類・内容の見直し」(26.9%)「生産計画の見直し」(20.8%)が続いた。

   この中で、中小企業と大企業で対応策が大きく分かれたのが「生産計画の見直し」の中身。具体的に生産計画の何を見直すのかを聞くと、中小企業では「国内生産の拡大」が33.4%にのぼり、大企業20.0%を約13ポイント上回った。一方、大企業では「現地(海外)生産の拡大」が40.0%ともっとも多く、中小企業の15.4%を約25ポイントも上回った。

   資金と従業員の豊富な大企業は、海外の生産拠点を強化する傾向が強く、一方、資金も従業員も少ない中小企業は、国内に残り、何とか必死に生き残りの道を探ろうとする。その中小企業の決め手が「販売計画の見直し」の中で半数近くを占めた「国内向け販売の拡大」(46.3%)だ。

   大企業が、「販売計画の見直し」の内容については「未定」(42.3%)と答えた割合が最も高く、販売面での対応について迷いがみられるのに対し、中小企業は国内の需要の新たな掘り起こしに勝負を賭けていることがわかる。

   それにしても、米中貿易戦争勃発が迫っているというのに、対策を考えている企業が5%以下とは、のんびりしすぎていないだろうか。窪田剛士さんはこう語った。

「まだ現状では、トランプ大統領が保護政策の影響を直接受けていない面が大きいと思います。また、各国がどういう保護政策をとるのか、その中身がまだ見えていないこともあり、危機感が薄いのでしょう。直接的な影響を受ければ対応せざるをえなくなるでしょう。自由貿易は日本の命綱で、過去、恩恵を受け続けてきましたから、何としても国を挙げて堅持する方向に努める必要があります」

   なお調査は、2018年6月18~30日に全国の2万3149社を対象に行なわれ、9694社から回答を得た(回答率41.9%)。