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混乱する「5年ルール」の適用、原因は労使双方の「早とちり」? まずは自身の働き方を知ろう!

   労働契約法の改正で2018年4月1日以降、有期雇用契約の勤続年数が5年を超えたときに、雇用期間に定めのない労働契約(無期労働契約)への変更が会社に申し込める、いわゆる「5年(無期転換)ルール」の適用がはじまっている。

   ところが、これが大混乱しているという。原因は、労使双方が変更点を正しく理解していないことにある。多くのケースは、単なる「早とちり」だ。

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「5年ルール」適用でも「正社員」ではない!

   この「早とちり」。どうして起こるのかというと、「無期雇用=正社員」という認識が、一般的であるからだ。

   「5年ルール」をめぐる報道では、「会社側が5年を超えて勤めるパートタイマーを、5年を超える前に雇止めして人件費を抑えた」ケースなどが報じられ、問題化。5年を超えると「正社員」として雇わなければならなくなると、会社側、労働者側の双方を勘違いさせた。

   労働契約法には、「有期雇用契約の勤続年数が5年を超えたときに、雇用期間に定めのない労働契約(無期労働契約)への変更の申し込みができる」とある。

   法律が会社に義務付けているのは、「申し込みがあった人に対して、無期雇用契約に変更する」ことだけだ。

   つまり、たとえば「1日6時間、週3日勤務の時給1000円で1年契約を結んでいた」パート社員が5年ルールを申し込んだ場合、1日6時間、週3日勤務の時給1000円で、「契約期間の定めがなくなる」雇用契約に変わることになる。

   労働契約を「無期雇用」に変更しても、休日が増えたり、ボーナスがもらえたりするわけではない(会社の就業規制に基づく)のだ。

   そのため、パート社員が契約更新時に時給が下がったり、勤務時間が延びたりするなど労働条件が下がるようなことはない。逆に、そのようなことがあれば大問題!

   5年(無期転換)ルールのメリットは、「雇止めリスクがなくなった」ことにある。

「フルタイム勤務で無期雇用のパート社員」の誕生

   一方、職場で働く人は、

(1)正社員(無期雇用)
(2)フルタイム(8時間勤務)で勤務している無期雇用の非正規労働者
(3)所定労働時間(日数)がフルタイムよりも少ない無期雇用の非正規労働者
(4)所定労働時間(日数)がフルタイムよりも少ない有期雇用契約を結んでいる非正規労働者
(5)フルタイムで勤務する有期雇用の非正規労働者

   が、混在することになる。

   そこで問題になるのが、政府が掲げる「同一労働同一賃金」の働き方だ。

   そもそも、「パートタイマー」はその名のとおり、フルタイム(8時間)の一部の短時間を「切り売り」して勤務する人のことをいう。それが最近は、パート(非正規雇用)といっても、「1日8時間週5日勤務」のフルタイム勤務する、働き方の人が増えている。

   4月以降の無期雇用に転換する「5年ルール」で、パート(非正規雇用)で契約しているけれど、フルタイムの無期雇用で勤務している人(2に該当する人)が現れたわけだ。

   フルタイムで勤務して、同じように働いているのに、パート社員という身分なので給与も正社員とは別。「低い賃金で働かされている」という、「同一賃金同一労働」に反する働き方をしている人たちだ。

パートは逃げろ! 「営業事務」「営業支援」の仕事に落とし穴

   ところが、じつは「5年ルール」で新たに生まれた、フルタイムで勤務している無期雇用のパート社員は、この「同一賃金同一労働」の対象外になっている。 社会保険労務士でジャーナリストの稲毛由佳さんは、「雇用契約と働き方は別問題」としたうえで、「給与は『責任に応じて支払われるもの』という考え方に基づきます」と話す。

   「たとえば、正社員はノルマあり。パートにはノルマがないとしましょう。ノルマには達成するという『責任』が課せられています。パートはノルマ達成という責任がない分、給料が安いというのであれば、同一労働同一賃金に反しません。ところが、会社側はそのあたりをはき違えていて、正社員と同様のノルマ達成の責任を課しながら、パートと正社員という社内身分の違いだけで正社員よりも、安い給料でパートを働かせようとするところに問題があります」と指摘する。

   それでも、現実には働いているうちにキャリア(勤続年数)がある人にはノルマがかかったり、正社員から仕事を押し付けられたりする。たとえば、小売りの店頭販売でクレジットカードの獲得にノルマを課したり、本来は営業事務の仕事なのに売り込みや顧客対応まで担当をさせられたり、そんなケースがみられるようになった。

   増えるのは仕事ばかりで、給料はちっとも増えない――。
そんなとき、どうしたらよいのか。

   「できる仕事や責任が増えても給料が上がらないことがわかっているならば、パートはできてもできないふりをして自己防衛するしかありません。けれども、そんな後ろ向きの努力をするくらいなら、正社員、非正規社員にかかわらずスキルや責任に応じて昇給する会社への転職を考えたほうがいいでしょう。転職は給与アップの大きなチャンスです。

   パートが会社にいいように使われるのは、『この会社で長く働きたい』『スキルアップしたい』と望みながらも、関心があるのは入社時の給料水準だけだったり、昇給に無頓着だったり、端からあきらめてしまう人が多すぎることも原因です」。稲毛さんはパート社員に、そう苦言を呈す。