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障害者水増しの官庁に怒り爆発? 企業の雇用率が大幅ダウンしたワケ

   障害者の雇用では、中央省庁が不正な手口で採用数を大幅に水増ししていたことが問題になっているが、企業側の採用状況はどうなっているのだろうか。法律で決まっている障害者の雇用率2.2%を達成している企業は39%にとどまり、昨年(2017年)よりも18ポイントもダウンしたことがわかった。

   2018年4月から、企業に義務付けられている障害者の法定雇用率がアップしたことも影響しているようだ。また、企業側から中央省庁に対する怒りや疑問の声も殺到した。改めて国の対応が問われている。人材採用支援のエン・ジャパンが10月23日に発表した調査でわかった。

  • 障害者の雇用には同僚の理解が一番課題に(写真はイメージ)
    障害者の雇用には同僚の理解が一番課題に(写真はイメージ)
  • 障害者の雇用には同僚の理解が一番課題に(写真はイメージ)

採用の基準を満たした企業は4割以下に

   2018年4月に施行された改正障害者雇用促進法では、障害者の就労機会をさらに増やすために次の3点が変更されている。

(1)障害者を受け入れる対象企業が、従業員50人以上から45.5人以上へ。(注:0.5人の端数は、週20時間以上~30時間未満の時短従業員を0.5人とカウントするため)
(2)法定雇用率(全従業員に対する障害者の割合)を2.0%から2.2%にアップ。
(3)主に身体障害者と知的障害者が対象だったが、精神障害者を追加。

   調査では、昨年と比較するため従業員50人以上の企業を対象にした。まず、法定雇用率2.2%の達成率を聞くと、「満たしている」のは39%で、昨年(=法定雇用率2.0%)の57%に比べ、18ポイントもダウンした。法定雇用率のアップを知っていた企業が92%だから周知されていたわけだが、0.2%の上昇でも企業には厳しかったようだ。

   また、「現在、障害者を雇用しているかどうか」を聞くと、71%が「雇用している」と答えた。雇用している理由を聞くと(複数回答)、1位は「法定雇用率を達成する」が70%と圧倒的に多く、「企業として社会的責任を果たす」(49%)、「既存社員が障害者になった」(34%)、「障害に関係なく、雇用条件や人材を見て採用した」(24%)などと続いた。

   そして、障害者を雇用してよかった点については(自由回答)、次のような意見があった。

「障害のある社員に仕事を覚えてもらうことを通して、社員たちの人間関係が改善した」(メーカー・従業員数50~99人)
「聴覚障害者を雇用することになり、手話を覚えたところ、日常でも役に立つ場面があった」(商社・100~299人)
「覚えた1つの仕事を一生懸命にしてくれる。貴重な戦力になっている」(建設・従業員数300~999名)
「障害者のための職種開発が、結果として健康上の問題が生じた既存社員の雇用の受け皿になった」(廃棄物処理業・1000人以上)

   一方、障害者を雇用していない企業(29)%)に、その理由を聞くと(複数回答)、1位は「障害者に適した職種ではない」(49%)で、次に「受け入れる施設が未整備」(36%)、「募集しているが採用できない」(27%)、「障害者の雇用に関する知識が不足」(23%)、「社内の理解や支援が得られない」(17%)などとなっている。

図表1 障害者雇用での悩みや不安
 図表1 障害者雇用での悩みや不安

   そして、すべての企業に障害者雇用に関する「悩みや不安」を聞くと(複数回答)、一番大きい問題は「周囲の社員の障害者への理解」(44%)で、続いて「障害者に適した仕事がない」(42%)、「設備や施設の安全面での配慮」(37%)、「障害者の特性の把握」(34%)などがあがった=図表1参照。職場の中で障害者をいかに安全にサポートしていくか、そのためには同僚社員の理解が欠かせない課題であることを示している。

「企業には罰金を科すのにくせに自らの罰金はどうする?」

   改正障害者雇用促進法では、2021年4月までに、法定雇用率が2.2%から2.3%に引き上げられ、対象企業も従業員45.5人以上から43.5人以上に拡大する。障害者の受け入れがさらに増えるわけだが、企業側はどう対応するのだろうか。「今後の障害者雇用の方針」を聞くと、「積極的に雇用したい」(5%)も含めて「法定基準を満たすよう雇用する」という企業は35%に留まった=図表2参照。これは、2016年より12ポイント下がり、2015年以降の調査では最低だ。

図表2 障害者雇用の今後の予定
図表2 障害者雇用の今後の予定

   経営者はどう考えているのか、生々しい意見を聞くと(自由回答)――。

「人手不足の企業が増えてきているため、働きたくても働き口がない障害者を積極的に受け入れて活用できればと思います。その上で成功事例や環境を作っていく上で、参考になる情報が増えていってほしい」(印刷業・50~99人)

といった、現状のまま積極的に雇用しようと意見は少数派だ。

   次のように、すべての業界で一律に雇用率を決めることに反対意見が多かった。

「男女雇用機会均等法の施行時と同じように、障害者雇用促進法の定着を図れるかは甚だ疑問。法定雇用率まで設定するのはいかがなものかと感じる。業種業態によって雇用が適さない会社もある。一律に決めるのは行政の押し付けだ」(メーカー・50~99人)
「業種によって、障害者雇用の難易度がかなり違う。労災保険料率のように、業種によって雇用率に傾斜をつけてほしい」(商社・50~99人)
「法定雇用率を満たすがために、極端な障害者の囲い込みをする企業もあり、本当に障害者のためになっているのか疑問だ」(マスコミ・300~999人)
「障害者側にニーズを得られにくい業種は、雇用したくても集まってもらえない。雇用率を上げるのなら、国側も求人に対する宣伝協力を積極的に行うべきだ」(IT関連・100~299人)

   また、中央省庁の水増し問題には怒りの声が殺到した。

「中央省庁の水増しには大変落胆した。雇用率が未達成の民間企業には罰金を科すのに、自らへの罰金はどうするのか。まずは障害者の立場に立ち、自らが雇用率を達成していただきたい」(IT関連・300~999人)
「わが社は5年間で2回、高障求機構(高齢・障害・求職者雇用支援機構)から業務監査を受けた。もちろん法定義務を果たしているが、自治体・官公庁には業務監査がなかったことを初めて知り、驚いている」(メーカー・300~999人)

   なお調査は、2018年8月29日~9月25日までインターネットを通じて実施。408社から回答があった。(福田和郎)