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70歳定年延長は「職場の大迷惑」!? アラセブンの働き方を専門家に聞いた

   高年齢者雇用安定法では、希望者に対し原則65歳まで働けるようにすることを企業に義務付けているが、政府は2019年度を目標に70歳に引き上げようとしている。いよいよ「70歳定年時代」がやってきそうだ。

   ところがこのニュースが広がるや、

「やめて! 職場の大迷惑」
「いや、元気な人なら貴重な戦力」

   と、インターネットで賛否両論が起こっている。

   「職場のお荷物」と猛反対する意見が多いが、「アラセブン」(70歳前後)が生き生きと働くにはどうしたらいいのか――。J-CASTニュース会社ウォッチ編集部が専門家に聞いた。

  • 「アラセブン」が気持ちよく働くには……(写真はイメージ)
    「アラセブン」が気持ちよく働くには……(写真はイメージ)
  • 「アラセブン」が気持ちよく働くには……(写真はイメージ)

「やめて!毎日が職場で介護状態ですから」

   話題のきっかけは女性向けサイト「発言小町」に載った「70歳まで雇用促進なんて無理じゃない?」(2018年10月25日付)という、こんな内容の投稿だ。

「中学の時の先生とバッタリ街で会いました。『今年、古希なのよー』と盛り上がり、互いに近況報告しましたが、その20分の間に『お子さんは男の子?』と3回も聞かれました。3回目の後に『あら、やだ。私同じことを2回聞いたわね。やーね、歳をとるって』。私は『3回ですが』とは言えませんでした」

   投稿者によると、「先生」は若い時から非常にしっかりしており、そんな人でも70歳になるとこうなるのかと衝撃を受けた。そして、自分には70歳までシャキシャキ働く自信がないし、企業に70歳雇用を義務付けると、逆に「70歳なんか雇えない」と、50~60代のうちからリストラを始めるのではないか、と危惧するのだった。

   この投稿には「70歳で働くのはもともと無理」と共感する人が8割。「いや70歳でもバリバリ働いている人もいる。個人差だ」と反発する声が2割あった。「70歳無理」派の意見はこうだ。

「毎日職場で前期高齢者の人と接していますが、皆さんもう、ホント滅茶苦茶なんです。良くも悪くも楽観的というか、『大体でいいのよ』『最後につじつまが合えばいいから』みたいな言動が目立ちます。真摯に仕事に向き合うようにと注意されても、『年を取ると若い人みたいにはできない』が常套句。反省したり、改めたりする姿勢が見られません」
「60代の人と働いています。何度も仕事のことで確認してくるので、最初は私を信用していないのかと不快でしたが、確認したことを本人が忘れていることに気づきました。今日もあることで、日を2、3日勘違いしていました。物品の購入もネットでできないので私に頼ってくるし、一緒に働く若い世代はフォローがとても大変です」
「70歳代の人と一緒に働く環境にいる私は、ニュースを聞いた時、『えっ、やめて!』と思いました。ある種の『介護状態』だと思っている日々ですから」

   また、こんな反対理由の意見も少なくなかった。

「私はニュースを聞いた時に、別の角度からゲンナリしました。いつまで高齢者を働かせるの?と。私の両親はともに70代前半で亡くなりました。70歳まで会社勤めであくせく働き、ようやくリタイアしたら、身体がいうことをきかなくなり、疲弊したまま人生を終えたのです」

   仕事から解放され、人生をゆっくり楽しむべきだというわけだ。

「年を重ねてもスキルを上げようと精進している人は多い」

   一方、「70歳オッケー」派は自分もバリバリ働いている人に多い。

「71歳の生命保険のオバアチャンです。仕事にパソコンやタブレットを使っているし、5年に一度更新する損害保険業の試験にも合格しています。仕事は実力主義だから契約がもらえないと残れません。年金受給資格はあるけれど、満額もらったことはありません。年金の財源に貢献していると思っています。年を重ねてもスキルを上げようと精進している人は沢山いますよ」
「介護の職場ですが、60代後半~70代前半の方が多く働いています。『無理すれば 明日は自分が要介護』なんて標語が貼ってあり、実際、ちょっとしたことで利用者側になってしまう仕事です。皆さん、やること早いし、器用だし、若い子よりよほど気が利いて快活です」

   J-CAST会社ウォッチ編集部記者(68)もアラセブンだ。「職場のお荷物」にならないよう働いているつもりだが、時折、パソコンの操作で若い同僚に教えを乞う。同僚から「介護状態」と思われているとしたら......。同年代の仲間を見ても、がん、心臓病、関節痛、腰痛、白内障、高血圧...と、多かれ少なかれ病気を抱えており、何の問題もなくピンピンしている者などいやしない。

   アラセブンが職場で気持ちよく働くには、本人も周囲も何に気を付けたらよいだろうか。広く働き方問題に意見提言し、主婦に特化した就労支援サービスを展開するビースタイルの調査機関「しゅふJOB総研」所長の川上敬太郎氏にアドバイスを求めた。

働いている60代の8割は70歳以上も働き続けたい

――若い世代に「70歳が働くなんて無理」という声が非常に多く、ショックです。そもそも70歳まで働こうという考えがおかしいのでしょうか。

「そんなことはありませんよ。私たちが今年(2018年)4月に働く主婦に『理想の引退年齢』を聞いた調査では、『65歳以上』が79%で、全回答者の平均が68.4歳でした。半数近い49%の女性が『70歳以上まで働きたい』と考えています。
また、内閣府が2014年に発表した『高齢者の意識調査』でも、全国の60歳以上の働いている男女に『何歳まで働きたいか』を聞いた結果、『70歳以上』と『働けるうちはいつまででも』を合わせると、実に80%の人が70歳以上まで働くことを希望しています。もちろん、『元気ならば』という条件付きですが」

――まさにそこです。「目が弱ってパソコン作業が続かない」「あちこちにガタがきて、病院通いをしなくてはならない」とトラブルを抱える人が多いです。それでもお荷物にならず、働き続けるには何が大事でしょうか。

「まず大前提として、もし若い世代が老いにフォーカスする中で否定的な意見を上げているとしたら、それは未来の自分に対して投げかけている言葉であることを忘れてはならないということです。70歳を超えても働きたいと考える人にとって働きやすい社会にするために、世代を超えて国民全員で知恵を出すことが大切だと考えます。
ただし、年齢にかかわらず、仕事の目的は最高の成果を出すことです。そのためにベストを尽くすという意味では、年齢の上下は全く関係がありません」

アラセブンは年齢に甘えず、仕事で最高の成果を目指せ

――つまり、「70歳だから」と仕事で甘えてはいけないということですね。

「そのとおりです。年齢は関係なく、自分なりに仕事の成果にどう貢献できるかを考えて行動することが大切です。未経験業務なら一日も早く仕事を覚えて戦力になることを目指す。逆に、長く経験している業務であれば、その経験をどう活かせば成果に貢献できるのかを考えて実行する。
『自分が若いころはこうやった』と年下の同僚に言う場合、若いころのやり方がより成果に結びつくのならばよいと思います。しかし、自分が経験したやり方と違うから気に入らない、というのであれば、それは仕事の成果とは関係のない押しつけです。純粋に、成果につながる言動に徹して仕事に向き合えば、そのスタンスはきっと周囲からも歓迎されるでしょう。また仕事仲間として必要とされることで、自らも生き生きと働けるようになっていくと考えます」

――なるほど。あくまで成果を上げられるかどうかに徹するわけですね。職場の若い同僚は70歳労働者にどう接したらよいでしょうか。

「大きくは2つ。1つは、戦力としてしっかり成果を求めること。もう1つは、人生の先輩に対して人としての敬意を払うことだと思います。年齢に関係なく仕事仲間に成果を求めることは当然のことです。逆に、シニアだからと遠慮して成果を求めないとしたら、それはその人の能力を軽視し戦力として認めていないわけで、そんな失礼な話はありません。
一方で、仕事上はシニア層が後輩となる場合にも、人生では先輩。人として軽んじる言動をしては、心地よく働く環境とはなりえません。自分だって、年下から横柄な態度をとられたら嫌な思いをするはず。仕事場でも人としての尊厳は絶対です。戦力として成果を求めることと、人としての敬意を払うことの2つは、シニア層にかぎらず、女性、障害者、外国人、すべての人と仕事する場合に留意すべきスタンスだと考えています」

――会社側や管理職は70歳労働者を迎えるうえで、どういう点に配慮すべきでしょうか。

「管理職であっても、基本的なスタンスはほかの同僚たちと同じです。ただ、もちろん体力面や健康面で配慮する必要はあります。年齢からくる違いも個性の一つと捉えて、どうすれば最も活躍して成果を発揮してくれるかを軸に、日々のマネジメントを考えることが大切です。個人的な話になりますが、私の母は公文式の指導者をしていますが、76歳で現役です。やる気と能力があれば年齢に関係なく戦力になることは可能だと思っています。採用難の時代、シニア層を上手に戦力化できる会社は、他社よりも確実に有利だと言えるのではないでしょうか」

(福田和郎)