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見えてきた、米金融政策の転換点 年末年始の円高ドル安に注意(志摩力男)

   2018年12月18日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)は、過去3年続いた米金融引き締め政策の転換点になるかもしれないという思惑から、かつてなく注目度が高まりました。

   米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が現在の政策金利が中立金利の「Just Below」と表現したことや、米株式市場が乱高下していることも背景にあります。

   結果は予想どおり0.25%の利上げ。そして「ドットチャート」(米国の短期金利の指標となるフェデラル・ファンド=FFレート誘導目標の水準をトッドの分布で示したチャート図のこと)は下方向にシフト、2019年の利上げ回数は従来予想の3回から2回となりました。

  • 米ドルは、まだ下がるのか!?
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パウエル議長の「変身」のなぜ?

   しかし、為替市場はそれ以上に「ハト派」的な内容を織り込んでいました(2019年利上げ「ゼロ」まで下落)。

   記者会見に臨んだパウエル議長は、少し意外なほどにタカ派的でした。ハト派の顔は一切見せませんでした。FOMC前にトランプ大統領から何度もツィッターで「金融引き締めはやめろ」と攻撃されていたので、余計頑なになっていたのかもしれません。

   会見でもトランプ大統領からの「口撃」に対する質問が出ていましたが、パウエル議長は「政治の影響は完全に排除している」との模範解答だった。

   そもそも政治(家)からの影響を排除するために中央銀行は独立しています。しかし、もしトランプ大統領の経済認識のほうが正しかったとしたら、どうなるのでしょう。「政治からの影響排除」を示すことが優先され、正しい政策を採ることが妨げられてはいないでしょうか。

   パウエル議長は10月初めに、政策金利は「long way」 from a neutral level (中立金利から「ずいぶん離れている」)と言っていました。

   ところが、11月の終わりには、「just below」 broad estimates of a level considered neutral(中立と考えられているレベルを「わずかに下回る」)となりました。

   その間に、株価の乱高下はありましたが、なにか極端に悪化した経済指標が出てきたわけではありません。

   では、議長はどうして「変身」したのでしょうか――。

金融緩和に向け、最大の「障害」はトランプ大統領

   トランプ大統領は2018年8月21日、ロイターとのインタビューでFRBの利上げを「気に入らない(not thrilled」と痛烈に批判。「私はFRBからいくらかの助け(some help)を受けるべきだ。他の国々は(金融緩和の)恩恵を受けている」と、事実上の金融緩和を要請しました。

   パウエル議長のタカ派的発言は、この頃から加速しました。しかし、トランプ発言のほとぼりが冷め、人々が話題にしなくなったときに、議長は「just below」と市場に歩み寄る発言をしたのです。トランプ大統領のFRB批判がなければ、もっと早くパウエル議長も金融緩和の方向へ発言をシフトできたのかもしれません。

   要するに、金融緩和の最大の障害はトランプ大統領自身と言えるのです。大統領が静かになるまで、FRBは金融緩和方向にシフトできません。また不幸なことに、トランプ大統領は自身が最大の障害だということを理解できないでしょう。

   今年は同様のことがトルコでも起こりました。エルドアン大統領がトルコ中央銀行に金融緩和しろと、何回となく迫りました。その結果どうなったか。それは8月のトルコリラ暴落です。

   就任からこれまで、トランプ大統領はハチャメチャに見えながらも、米政権はなんとかうまく回っていました。周囲のサポートが厚かったからでしょう。しかし、マティス国防長官も辞任しました。ケリー大統領首席補佐官の後任人事はかなり困難を伴いました。大統領を手厚くサポートし、米国が間違った方向に行かないようにサポートしてきた人たちがどんどん離れていっています。

   また、今回のパウエル議長の頑な表情を見ると、本心で語っているのではないように感じました。トランプ大統領の発言の影響さえなくなれば、米国はもっと本格的に金融政策の転換に進みそうな感じがします。少なくとも、利上げは今のところあと2回、遅かれ早かれ、米国の金融政策の転換点はやってきます。

   そうであるならば、史上最高値近辺(BIS算出実質実効レートによる)にあるドルが反転する可能性も「時間の問題」でしょう。市場は未来を織り込んでいきます。ドルの反転が近いならば、以外にもこの年末年始の薄い時期こそドル急落に注意でしょう。(志摩力男)