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「正社員」という働き方を考える 東洋大・竹中教授は若者の将来を奪った「希代のワル」?(城繁幸)

   東洋大学の学生が、構内に「竹中平蔵教授の授業に反対する立て看板」(参考:「竹中平蔵教授を批判 東洋大4年生『退学』騒動の本人を直撃」日刊ゲンダイDIGITAL 2019年1月25日付)を設置し、大学側が撤去したことが波紋を呼んでいる。

   大学側の処置は正しかったのか、そもそも学生の言うように「竹中氏は若者の将来を奪った希代のワル」なのか、いい機会なのでまとめておこう。

  • 東洋大学の竹中平蔵教授は「若者の将来を奪ったのか」!?(2018年6月28日撮影)
    東洋大学の竹中平蔵教授は「若者の将来を奪ったのか」!?(2018年6月28日撮影)
  • 東洋大学の竹中平蔵教授は「若者の将来を奪ったのか」!?(2018年6月28日撮影)

「規制強化で正社員増」は机上の空論だった

   結論からいえば、グローバル化が進んだ以上、先進国の賃金水準が下がるのはやむを得ないことであり、雇用を国内に引きとめるために規制緩和を行うこと自体は正しい処方箋だ。

   といっても、感覚的に理解できないという人のために、日本人を使った「人体実験」も紹介しておこう。

   やはり「小泉改革が格差を拡大した」と批判して政権を取った民主党政権が(30日以内の短期派遣の禁止、専門26業務適正化といった)一連の派遣業に対する規制を強化した結果、何が起こったか――。

   5年前の数字と比較すると、派遣労働者を42万人減らすことに成功したものの、正規雇用も120万人減少。増えたのはパートなどの非正規雇用と失業者だった(総務省 2012年就業構造基本調査結果より)。

   要するに、「派遣は悪だから規制して正社員にさせよう」とやってみたら、より不安定なパートと無職が増えただけだったというオチだ。

   この結果は、実際に厚生労働省の労働政策審議会の一員として派遣法改正に携わった人のひとりが「(規制強化で正規雇用増は)机上の空論だった」と、認めるほどの惨澹たるものだった。

   その後、厚労省は自ら「近年、パートや契約社員を中心に非正規雇用労働者は増加を続けており、それにも関わらず派遣労働者のみを常用代替防止の対象とし続けることには十分な整合性はないと考えられる」という報告書まで出して、完全に白旗をあげている(今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会 報告書より)。

   というわけで、「規制緩和で格差拡大」も「規制強化でみんな正社員に」も、完全に間違いであり、その事実には厚労省もお墨付きを出しているということになる。

じつは竹中氏のスタンスはアンチ派遣業界

   もう一つ、よくある誤解も解いておこう。竹中平蔵氏がパソナの会長を務めていることから、「氏は派遣業界のロビー活動をしているんじゃないか」という声が、主にインターネットを中心に散見される。

   だが、実のところ、氏は派遣業界からみれば「業界全体の足を引っ張るやっかいな存在」でしかない。というのも、氏はかねてから「正社員制度そのものをなくすべき」(参考:「正社員廃止後の社会 残業減り、賃金上がりやすくなる」J‐CAST会社ウォッチ 2015年1月7日付)と、主張しているためだ。

   少なくとも大手企業で、派遣会社を使いたくて使っている企業はない。直接雇用にしてしまうと(期間5年で無期雇用に転換する「5年ルール」などで)柔軟な雇用調整ができないため、割高ではあるが仕方なく利用しているというのが実際のところだ。

   つまり、正規雇用のハードルの高さが派遣会社の利益の源泉となっているわけだ。

   竹中氏の言うように、正社員が解雇しやすくなれば、少なくとも大手企業は派遣会社の利用は最低限に抑えるはずだ。最初は派遣会社を利用しつつも、数か月経ったら直接雇用に切り替えて、派遣会社に払っていたフィーを労働者本人の時給に上乗せする企業が大半だろう。

悪いのはいつまでも失政を総括しない「無責任」政治家

   というわけで、いわれなき理由で個人を誹謗中傷する立て看板を撤去し、設置した学生を叱責するのは、大学としてはきわめて正しい処置だったと言えるだろう。

   安直な立て看板に同調しない東洋大学の他の学生たちも、なかなか骨があるように思う。

   当の学生もこれを機に「正しいファクト」を学び、残りの学生生活を前向きなことに使うといい。

   最後に。今は亡き民主党関係者は、いい加減に上記のような「事実」を受け入れてはどうか。下野してから、はや6年の月日が経つが、筆者は彼らの口から上記の失政に対する反省の弁を一度も聞いたことがない。

   「反省どころか、また同じ失敗をしでかす気満々でいる無責任政治家」がいくら党名を刷新したところで、次世代の支持が集まることはないだろう。(城繁幸)