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「求ム 県庁の星!」公務員試験を簡単にする府県が続々 民間企業から人材を奪えるか?

   「求ム!チャレンジ精神あふれる『県庁の星』」――。ここ数年、府県の職員の採用試験で、公務員試験に必須だった一般教養や専門知識の試験をとりやめるところが出ている。

   その代わり、民間会社の採用試験でよく使われる、リクルートマネジメントソリューションズの適性試験「SPI3」だけを使い、受験しやすくして幅広い人材を集める試みだ。いわば大学受験の「一芸入試」のような試みだが、うまくいくのだろうか。

  • 県職員採用試験を改革する岡山県(岡山県庁提供)
    県職員採用試験を改革する岡山県(岡山県庁提供)
  • 県職員採用試験を改革する岡山県(岡山県庁提供)

大水害の教訓から「県庁の星」がほしい岡山県

   型破りの県庁職員を描いた小説・映画には、桂望実原作『県庁の星』(映画は織田裕二主演)や、有川浩原作『県庁おもてなし課』(同・錦戸亮主演)などがある。そんなバイタリティーあふれる県庁職員を求めるためか、採用試験の改革を進めるところが増えてきた。

   岡山県では、2019年3月1日から受験者を募集する2019年度県職員A(アピール型)採用試験では、1次試験はこれまであった「一般教養」と「専門試験」を取りやめ、「SPI3」だけで行なうことになった。A採用試験とは、「大学卒程度」が対象の行政職のことで、「高校卒程度」のB採用試験では、従来どおりの試験を行なう。もちろん、「SPI3」だけでは人物がわからないので、面接などほかにも試験を実施するが、具体的な内容は3月1日に発表する。

   同時に、求める人物像を次のように発表。こうした採用する人材の「条件」を発表したのは初めてという。

(1)過去に例がないことでも、新しい発想やチャレンジ精神を持って実現するバイタリティーのある人。
(2)積極的に人と関わり協働できるコミュニケーション能力の高い人。
(3)組織や人を動かして課題を解決できるリーダーシップのある人。

   J-CASTニュース会社ウォッチ編集部の取材に応じた、岡山県人事委員会事務局の藤原いずみさんはこう説明する。

「これまでの一般教養や専門試験は、法律や経済、人文、理科、数学、国語...と、非常に難しくて、かなりレベルが高い問題です。早くから受験対策をして準備しないと受かりにくいです。もっと、民間の会社を受ける人々も受けられるようにしないと、県庁は社会の変化についていけません。昨年(2018年)7月、倉敷市を中心に県内で大水害が起こった時に、バイタリティーと行動力のある県庁職員がもっと必要だと痛感しました。私も小説の『県庁の星』は読みました。あの主人公の野村聡のような人にぜひ来てほしいです」

一番早い大阪府は「社会人の逸材」を狙う

   じつは、いちばん早く職員採用の改革に取り組んだのは大阪府だった。2015年度から4種類ある職員試験(大学卒程度、高校卒程度、社会人、府警察職員)のうち、行政職の「大学卒程度」「社会人」の2つで、一般教養と専門知識をやめ、SPI3だけにした。その代わり、2次試験では面接を3回、3次試験では面接を2回と、みっちり人物を見極める。

   取材に応じた大阪府人事委員会事務局の担当者はこう語った。

「公務員試験の対策をしていない、民間会社を受ける人からも幅広い人材を集めるのが目的です。特に、これまでは社会人のハードルが高く、優秀な人材がなかなか来てくれませんでした。この試験を始めて4年ですが、いい人が入ってきてくれていると思います」

   京都府でも2017年から始めているが、大阪府と違って、一部だけの導入だ。導入したのは「大学卒程度」の行政職。「ⅠA」と「ⅠB」に分かれており、「ⅠA」は従来どおり1次試験で教養試験や専門試験を行なうが、「ⅠB」だけ教養試験に代えてSPI3を、専門試験に代えて「自己アピール試験」を行なう。自己アピール試験とは、学生時代の部活動などを文章に書いたり、面接で訴えたりする。受験者は、どちらでも好きなほうを選べる。

   2018年度の採用結果を見ると、「ⅠA」「ⅠB」を合わせ70人募集のところ、「ⅠA」では300人が受験、111人が合格したが(合格率37%)、「ⅠB」では88人が受験、6人が合格(同7%)という結果だった。「ⅠB」の方が試験は簡単そうだったが、合格率ははるかに低かったのだ。

   なぜ、これまでどおりの試験も残したのか。京都府人事委員会事務局の担当者は取材に、こう語った。

「幅広い人材を求める中で、これまでどおり公務員を目指す人の枠も残そうと考えました。民間のほうが公務員より採用が早いので、優秀な人材をとられているのが現状です。民間を目指す人で公務員に少しでも興味がある人が受けられるようにしたのです。従来型の公務員試験では、金太郎飴みたいな人ばかりになりますから、大学の一芸試験のやりかたを併用することにしました」

   しかし、せっかくの「ⅠB」の合格率は芳しくなかった。担当者は、

「まあ、そういうバイタリティーあふれる人がたくさんいるわけでもありませんし......」

と語るのだった。

鳥取県は「理系の学生」に活路を求める

   鳥取県は2018年から。京都府と同様に「併用型」だ。こちらは「大学卒程度」の行政職の1次試験を4つに分けている。

(1)一般コース=教養試験と専門試験を行なう。
(2)総合分野コース=教養試験はあるが専門試験がなく、代わりにエントリーシートに自己アピールを書く。
(3)キャリア総合コース=教養試験も専門試験もなく、代わりにエントリーシートに自己アピールを書く。
(4)環境コース=教養試験と専門試験を行なうが、専門試験の中に環境に関する問題を入れる(※環境行政の専門職向け)。

   小さな県で、全部で30人ほどしか採用しない行政職を、なぜこんなに細かく分けたのか。取材に応じた鳥取県人事委員会事務局の担当者は、

「うちも、民間志望の人も受けやすくして、幅広い人材を集めたいからです。そのため、キメ細かくコースを分けて募集することにしました。特に、(2)の総合分野コースをつくり、専門試験だけをなくしたのは、理系の学生にも来てもらうよう工夫したのです。公務員の行政職と言えば、文系の学生ばかり集まり、法律や経済の問題が多い専門試験は理系の学生に不利だからです」

   と話した。

   ちなみに(4)の環境コースは、地元に「公立鳥取環境大学」があることも影響しているが、残念ながら2018年度は合格者がいなかった。

   ところで、狙いどおりに「県庁の星」が入って来たかどうかだが――。

   「実際に仕事についてもらうのは今年4月からですが、楽しみにしています」(鳥取県担当者)とのことだった。

(福田和郎)