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「働き方改革」の本質となにか!? 働く現場の捉え方は想像以上にひどい(大関暁夫)

   突然ですが、問題です!

   以下は、最近耳にした「働き方改革」に関する3人の経営者の話ですが、「働き方改革」の趣旨から考えて、正しい発言はどの経営者のものでしょう。

  • 残業時間、気になりますよね。
    残業時間、気になりますよね。
  • 残業時間、気になりますよね。

「業務の効率化」なくして、働き方改革はない!

   まずは、通信キャリア直契約携帯電話販売代理店を経営するA社長の話。

「携帯キャリアからの指示で、昨年(2018年)から強制的に夜間の営業時間短縮と最低月1回の定休日を設けなくてはいけなくなり、営業時間、営業日数の減少で売上がその分落ちてしまい困っています。店舗スタッフも時間外手当が減って、不満が出始めました」

   次に、大手電機メーカーの連結対象グループ会社のB社長。

「グループ企業全体の課題として、社員一人ひとりの残業を減らし有給休暇の消化促進を進めるために、若干の人員増によるコスト増は止むなしという考え方で取り組み、残業、有給休暇消化ともグループ統一の働き方改革対応目標は達成しています」

   最後に、某第二地方銀行のC取締役人事部長。

「本部、営業店問わず、原則夜8時以降の残業を全面禁止しました。銀行はお客様情報の持ち出しは当然できません。つまり仕事の持ち帰りは不可ですから仕事が回らなくなるとの声もあるので、夜残業を制限した分は朝の早出時間外勤務で埋めるように指示し、順調に回っています」

   答えは、どれも正しいとは言えない、「働き方改革」の趣旨に対して十分な理解ができているとは言い難い発言です。

   3人に共通して抜け落ちているのが、「業務の効率化と生産性」という観点なのです。海外と比べて、我が国の労働時間が長く「日本人は働きすぎ」ということは長年指摘を受けてきたところでもありますが、ただ単に時間外労働を減らしたり、休暇を増やしたりすることが「働き方改革」の趣旨ではなく、同じ労働価値をより短い労働時間で実現する「効率性の向上」というのが本来の目指すべき姿なのです。

夜がダメなら朝早くなんて、言語道断!

   「働き方改革」本来の趣旨が抜け落ちてしまっているのは、前出のお三方をばかりではありません。その手の発言を耳にするケースが、最近本当に増えているように感じています。

   念のため、お三方の発言を「働き方改革」の観点から、検証してみましょう。

   まずA社長は、総労働時間の短縮による売り上げ減少に対する恨み言と、時間外手当減少に対する従業員からの不満の声に同調的な発言でした。業務の効率化が目的であることを十分理解しているなら、もっと改善に前向きな言葉が出てくるはずです。

   通信キャリアの契約代理店という立場上、やむなく上から言われるままに、言うことを聞いているのだという意識が邪魔をしているのかもしれません。

   B社長は、人員増、有給消化に関する目標達成に胸を張っていましたが、それ自体は働き方改革の手段であり、目的ではないという点で大きく見誤っているように感じさせられます。

   大手企業グループのある意味で一部門であり、やはり主体性に欠けた親会社からの指示による目標達成意識が先行しているような印象です。

   C取締役人事部長ですが、これはもう論外。夜8時以降の残業を早朝に振り替えただけの話ですから、業務時間の短縮にならないばかりか、社員の睡眠時間が逆に減るぐらいの感じでもあり、本気で「働き方改革」に取り組む気があるのか、と言いたくなるレベルです。

   極端なことをいえば、一たん帰宅したあとに終電で再出勤して朝まで仕事をするなんてことになったらどうするのでしょう。効率化への意識以前に、冷血な銀行イメージを増幅するような、まったく社員への愛情を感じさせないやり方であると言わざるを得ません。

「働き方改革」なんて大企業の話でしょ......

   よくよく考えてみると、これらの話は携帯キャリアショップ、大手企業グループ、銀行の、すべてがいわゆる「大企業文化」の中にある企業たちです。

   では、「正真正銘」の中小企業経営者たちはどうなのかといえば、私がお考えを聞いてみた社長のほとんどが、「『働き方改革』なんて大企業の話でしょ。ウチらにそんな余裕はゼロです」(従業員20人の製造業社長)といった類いの、「我関せず」発言、「無関係者」発言なのです。

   ということは、片や大企業文化の中にある企業たちは「働き方改革」が本来の目的と、かけ離れた行動に終始し、片や一般的な中小企業経営者はこの問題に「我関せず」を決め込まざるを得ないという状況にある。どうも「働き方改革」が進んでいるという実感が得られないというのは、このような事情によるのだなと、実感させられるところです。

   「働き方改革」は、大企業だけでなく「下町ロケット」のような、中小企業を含めた多くの日本企業が国際的な観点からも胸を張れる経営効率化や生産性の向上を実現し、さまざまな国際化の流れの中で勝ち抜いていくために大切な問題であるわけです。

   毎月の最終金曜日をプレミアムフライデーと称して「働き方改革」の旗印にしようなどという、出足段階での政府の現場感のないバカげた施策に失望はしてはいましたが、現場における「働き方改革」の捉え方はこのように想像以上にひどいのです。

   政府、厚労省には、世界レベルでの「効率化と生産性向上の遅れ」というキーワードを、もっとしっかり前面に押し出して、企業規模を問わず経営者が「働き方改革」において何を考え、何をするべきなのか、もう少し明確な指針を示してほしいと、切に望みます。(大関暁夫)