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ええっ、「就職氷河期」が再び来る!「新卒採用の2021年問題」とは何か?

   「新卒採用の2021年問題」という言葉があるのをご存じだろうか。深刻な人手不足のなか、大学を卒業して企業で働き始める新卒人口は、2022年から減少傾向に転じる。22年春卒の就職活動は2021年から始まるから、企業にとっては採用内定者を確保するのがさらに難しくなるわけだ。

   ところが、学生にとっては「超売り手市場」が到来するから就活が楽になるかというと、そう単純ではない。むしろ、今以上に難しくなるというレポートが発表された。内定を手にしにくい、「就職氷河期」が再来するのだろうか――。研究者に聞いた。

  • 「氷河期」は本当にくるの?
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人手不足と大卒人口減少のダブルパンチが来る

   このレポートは、横浜銀行グループのシンクタンク「浜銀総合研究所」調査部の主任エコノミスト遠藤裕基さんが2019年2月19日、同研究所の「Economic View」に「人手不足に拍車をかける『新卒採用の2021年問題』」と題して発表した。

   レポートによると、人手不足の指標となる「雇用人員判断DI」(企業が雇用者数の過不足をどう感じているか表す指数)は、2009年からどんどん下がり続け、ついに直近の2018年12月時点には「マイナス35」と、バブルが崩壊した1991年以来の低水準になった。

   一方、「新卒人口」にあたる22歳の人口をみると、2000年代を通じて減少傾向で推移したあと、2010年代は横バイが続いた。人口規模の大きい段階ジュニア世代の女性が出産期に入ったためだ。しかし、2021年には122万8000人と、前年より1万6000人減る見込み。そして、2022年にはさらに1000人減り、その後どんどん減少カーブを描いて、2030年には110万9000人と、2020年より13万4000人も減ってしまう=図表1参照

22歳人口は2020年代初めに再び減少トレンドへ(図表1:22歳人口の推移 浜銀総合研究所が提供)
22歳人口は2020年代初めに再び減少トレンドへ(図表1:22歳人口の推移 浜銀総合研究所が提供)

   こうした深刻な状況が迫るなかで、企業側は内定採用者を確保するために、どんな対策をとるだろうか。J-CASTニュース会社ウォッチ編集部の取材に応じた遠藤さんはこう説明する。

「大きく分けて三つあります。一つ目が長時間労働の是正や働きやすい環境を整備して、ワーク・ライフ・バランスの徹底を図ることです。リクルートキャリア『就職白書2018』を見ると、学生が入社の決める時に何を重視しているかわかります。内定を辞退した理由に『勤務時間・休暇が志望と合わなかった』が上位に上がっているのです。働き方改革を実現できている会社だと、学生に認知されていることが大切になります。

二つ目は、新しい新卒確保の方法を模索するでしょう。昨年(2018年)、日本経済団体連合会(経団連)が2021年春入社の学生から、『就活ルール』を廃止すると表明しました。それ以降は政府主導で現行ルールが維持される見込みですが、すでに従来のような新卒一括採用の流れが変わってきています」

「相棒採用」「コンビ採用」「麻雀採用」...... ユニーク採用続々

   背景には世界的な人材獲得競争があるという。IT関連業界では、優秀な人材を中国企業などが好待遇で囲い込んでいるため、就活ルールに縛られては有能な人材の採用に遅れをとると、危機感を募らせる日本企業が増えている。通年採用する企業も多くなっており、たとえば、「ユニクロ」のファーストリテイリングは海外戦略を加速するため、2011年から通年採用を始めたが、優秀な大学1、2年生にも「内定」を出している。

   就職情報サイト「キャリマガ」(2018年9月12日)によると、2019年卒で通年採用を導入している企業は26.3%に達する。4社に1社の割合だ。主な企業として、楽天、ソニー、ソフトバンク、星野リゾート、ネスレ日本、ヤフー、メルカリ、コロプラなどの名を連ねている。

「学生の注目を引くように、ユニークな採用方法を取っている会社が増えています。たとえば、ゲームの上手さなどをみる一芸採用とか、自社でどのようなスキルが必要で、それをどのように測定するかをしっかり練っている企業が増えています」(遠藤さん)

   中小企業を支援するメディアHR Force Incの採用情報サイト「採用G」(2018年11月20日)によると、こんなユニークな採用方法をとっている企業が紹介されている。

(1)アサツーディ・ケイの「相棒採用」
相棒候補となる各社員が採用サイト上に登場、インスタグラムのアカウントを持ち、自分の趣味やプライベート情報を載せる。応募する学生は「この人と働きたい」と思う社員を指名する。指名された社員が学生の一次選考を行ない。通過すると、面接のフィードバックを行なう。面接では学生はリラックスした状態で自分を出すことができる。
(2)アソブロックの「コンビ採用」
2人1組でしか応募できず、内定も2人一緒に出す。コンビ採用の利点は相乗効果だ。優秀な人材なら、採用されようと優秀な友だちを誘って応募するため、一度に優秀な人材を2人採れる。
(3)東急エージェンシーの「留年採用」
留年はよくないとされているが、回り道をしてでも何かに挑戦した結果ならOKとポジティブに評価。
(4)メルカリの「スクショ(スクリーンショット)採用」
ホーム画面には本人のさまざまな個性やセンスが表れているため、履歴書の代わりにスマホのホーム画面のスクショを提出させる。
(5)スターティアの「麻雀採用」
応募学生と社員、プロ雀士が長時間対局を行ない、順位に応じて面接免除の特典がある。麻雀という遊びゲームを通じて、面接では表れない性格や人となりを見る。

欧米型の中途採用が広がると学生ピンチに

   遠藤さんが、学生の就活にいちばん影響を与えると指摘するのが、三つ目の「企業の中途採用拡大」だ。現在、中途採用市場は大きく盛り上がっている。転職した人の賃金を見ると、前職に比べて1割以上増加した人の割合が2018年には30.0%に達し、6年連続で上昇していることだ=図表2参照。この30%という数値は、リーマン・ショック(2008年)前の水準を大きく上回っている。企業が中途採用に力を入れて、待遇をかなり引き上げてでも優秀な人材を確保しようと必死になっていることがわかる。

前職と比べて賃金が1割以上増加した転職者の割合が上昇(図表2:賃金が1割以上増加した転職者の割合)
前職と比べて賃金が1割以上増加した転職者の割合が上昇(図表2:賃金が1割以上増加した転職者の割合)

   遠藤さんはこう語る。

「これは日本の労働市場が、新卒の一括採用、終身雇用、年功序列型賃金という従来型の慣行が崩れ、欧米型に近づいていることを示しています。欧米では、新卒が一般の労働者と同じ土俵で戦い、職を獲得する必要があります。当然、新卒は一部のエリート大学出身者を除き、職務経験の差から採用されないことが多く、これが欧米での若者の失業率の高さとなって表れています。だから、欧米の新卒者は、インターンシップなどを通じて技能を磨き、徐々に企業に雇われていくのです」

   欧米型の中途採用が広がると、どうなるか。企業は採用に当たって、より学生の持つ技能に注目するようになる。即戦力になる若者を求めるからだ。転職が一般化すれば、従業員を育てても転職されたら研修・教育費がムダになるので、新卒を一括採用して育成しようという企業側の意欲が弱まる。結局、企業は中途採用市場で優れた人材を確保するほうが効率的になり、新卒一括採用という慣行が崩れることになる。

「やりたいことを早く見つけ、スキルを伸ばして」

   こうしたことから、「これからの学生は大変」と、遠藤さんは言う。

「中途採用が一般化すれば、新卒が職を得るのは今よりも困難になります。高い技能を持ち、すぐに職を得られる者と、技能を持たずに職を得られない者との2極化が進むでしょう。
2020年の東京五輪後は景気が後退するとの見方もありますが、しばらくは景気の良し悪しが新卒採用に影響すると思います。2021年は、海外経済の動向などから考えると、今よりも景気の減速感が強くなっているかもしれません。実際、構造的に厳しい業界、たとえば銀行などはすでに採用を減らす方向に動いています。

   そのうえで、

これからは、自分が入りたい企業が成長産業と衰退産業のどちらに所属しているのかが圧倒的に重要になります。ここ数年の成長産業では、IT企業をはじめとして、スキル(技能)を非常に重視しています。『単に景気がよいから就職できる』『超売り手市場だから安心できる』という甘い状況ではなくなっていくでしょう。

やりたいことを早く見つけ、自分のできる範囲でスキルをきちんと伸ばしてほしいです。準備は早ければ早いほどよいです。自分の就きたい職から逆算して、今何をやるべきかをきちんと考えるべきです。一斉に就活を始めて、一斉に内定をもらうという時代は終わりがきますから」

   と、アドバイスする。

   では、本当に「就職氷河期」が再びやってくるのだろうか――。

「かつてのような氷河期は、現在の深刻な人手不足を前提とすると、来ないのではないでしょうか。ただ、今後温暖期が続くとしても、スキルを持っているかどうかの選抜がだんだんと厳しくなるので、一部の人が内定を多く取る一方で、まったく内定を取れないという人も増えてくると思います。今回の調査は、新卒採用に焦点を当てましたが、一番のポイントは、今後スキルが重視される労働市場が広がるという点です。単に勤続年数が長いから給料が高いという傾向はなくなっていきます。この点から考えると、むしろ本当に厳しい状況に陥るのは、今の30~40代の働き手かもしれません。自分の能力をどう伸ばしてくか、本気で考える時期にきています」

   遠藤さんは、そう話す。

(福田和郎)