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「令和」ブームに冷や水!? 10連休後の「魔の景気後退」説を専門家に聞いた

   新元号「令和」ブームが起こっている。出典の「万葉集」に関する本が増刷されたり、記念グッズやサービスが登場したり。2019年4月27日からは、新天皇即位に伴う「10連休」が控えており、娯楽、旅行、レジャー、外食分野などでの消費支出が期待される。このまま一気に景気上昇といきたいところだが、そうは問屋が卸さないようだ。

   ところが、「お祝いムードから一転、10連休後には『魔の景気後退』が始まる可能性が高い」とのレポートがまとまった。J-CASTニュース会社ウォッチ編集部が、調査をまとめたエコノミストに話を聞いた。

  • 新元号「令和」を発表した菅義偉官房長官(首相官邸ホームページより)
    新元号「令和」を発表した菅義偉官房長官(首相官邸ホームページより)
  • 新元号「令和」を発表した菅義偉官房長官(首相官邸ホームページより)

連休前に起こるネット通販、宅配の大混乱

   このレポート「改元がもたらす日本経済への影響~お祝いムードが一気に景気後退モードへ様変わりする可能性」をまとめたのは、第一生命経済研究所調査研究本部の首席エコノミスト、永濱利廣さん。2019年4月1日に、同研究所のウェブサイト「Economic Trends」に発表した。

   永濱さんはまず、今年のゴールデンウイーク(GW)10連休と、9月から始まるビッグスポーツイベントであるラグビーW杯日本大会の経済効果を分析した。これらを合わせてJTB総合研究所では、今年の旅行総消費額が前年に比べて2.8%増の15.3兆円と推計している。これは、前年より4156億円の増加で、約0.1%のGDP(国内総生産)押し上げ効果に相当する。

   それに加え、10連休でクルマによる帰省ラッシュなどが増えれば、給油や洗車、車両メンテナンスなどの需要も伸びる。一般に「宿泊業」の需要が1万円増えれば、ほかの運輸関連サービスの需要が489円(4.9%)増える関係にある。これらのことから、GW10連休の経済効果を楽観的に見る声があるのは事実だ。

   永濱さんは「しかし、今回の10連休に関しては、企業への影響を注意深く見る必要があります。意外に見落としている点がいくつかあるのです」と話し、こう続けた。

「第一に、例年4月下旬には上場企業の3月決算発表が本格化。特に例年、5月上旬をピークに多い日は一日に数百社が決算を発表します。10連休によって営業日が減り、GW前後の限られた日に決算発表が集中することになれば、会場を確保することが困難になるし、決算内容を読み解く投資家に対する悪影響も避けられなくなります」

   また10連休は、特に人手不足が続く業界に混乱を起こす可能性が高いという。まず、ネット通販や配送業関係などへの影響が深刻だ。永濱さんが語る。

「10連休にどこかに出かけて長期不在の世帯が増えると、連休前にネット通販の駆け込み注文をする人が多くなり、運転手が不足して配送面でさばききれなくなる恐れがあります。また、10連休中はイベントや小売、外食、引っ越し業界では大量の短期アルバイトが必要になります。時給をあげないと人手が集まりませんから、コストアップにつながります。

一方、保育園などが休みになり、子どもの預け先が見つからず、仕事を休まざるを得なくなる人も出てくるでしょう。特に非正規労働の人たちは10日間丸ごと仕事がなくなり、所得が減少することを考慮すれば、10連休が経済に与える影響は、差し引きマイナスになる可能性さえあります。このほか、銀行業務が10日間停止すれば、資金繰りへの影響も心配されます」

10連休前に投資家が売り出し 株価が大幅下落?

   しかし、新元号「令和」が発表されると、「ご祝儀相場」で株価も上がり、予想以上に盛り上がっているではないか。このブームはしばらく続くのではないかと聞くと、永濱さんはにべもなくこう語った。

「平成元年(1989年)1月に昭和から平成に代わった時も、お祝いムードで1~3月期のGDP成長率は前期より上昇しました。しかし、4~6月期にはすぐに下がりました。改元効果は一過性にすぎません。5月20日頃に出る今年1~3月期のGDP成長率が注目されますが、かなり悪いと予想するエコノミストが少なくありません。私自身は、昨年(2018年)秋から景気は山を越えて悪化していると考えており、1~3月期のGDP成長率はマイナス2%くらいと予想しています」

   1~3月期のGDP成長率が大幅マイナスとなれば、大騒ぎが起こるだろう。しかし、それより早く、10連休の前に株価の大幅下落が起こるかもしれないと永濱さんは心配するのだ。どういうことか。

「10日間も連休が続いて日本の株式市場が休んでいる間も、世界の市場は動いているのです。投資家は、海外で大きな材料が発生しても株式を売買できない恐れがあります。10連休中に何が起こるかわかりません。米中の貿易交渉の行方も不明だし、英国のEU離脱問題も混乱が続いている可能性があります。また、日米物品貿易協定(TAG)の交渉も4月中旬から始まりますから、連休中に相場が大きくぶれる心配があります。

また、10連休中に日本市場が閉鎖して円の取引量が減れば、通常より少ない規模の売買により、円レートの値動きが大きくなります。その場合、円高に振れる可能性が高く、それが株式市場に反映されるでしょう。このように海外で悪材料が出ても、投資家は損失回避に株を売りに出すことができなくなります。となると、10連休中に株式を保有するリスクを避けるために、連休前に株を売りに出す圧力が高まり、一気に下落する可能性が出てきます」

五輪特需も終わり、消費増税が無理な経済状況に

   こうして、お祝いムードから一転して、景気後退モードに入るというわけだ。さらに10連休でおカネを使い過ぎた消費者が節約モードに入るネガティブ心理も見逃せない。こんな状態で、今年10月に予定している消費税増税はできるのだろうか。永濱さんは、

「私は消費税を上げないほうがいいと思います。というより、あげられる経済状態ではありません。タイミングが悪いです。2020年東京五輪の特需は、前回の1964年大会でもそうでしたが、開催の1年前、つまり今年7~9月期にピークを終え、それ以降は成長率が下がり続けると考えられます。来年は米国経済が減速に入る時期と重なる可能性があります。また、消費増税では軽減税率などが導入される結果、たいして財政再建にならないばかりか、景気腰折れの引きがねを引く結果になりかねません」

と語っている。(福田和郎)