J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

脱ガラパゴス! キャッシュレス化めぐる覇権争い、有力なのは...... (気になるビジネス本)

   2018年末ごろから、キャッシュレス決済の仕組みを売り込む数々のキャンペーンが盛んで、テレビCMもにぎやかだ。

   ゴールデンウイークを過ぎてからはやや控えめになったようだが、夏のボーナス時期に合わせてまたにぎやかになるらしい。日本は世界の中ではキャッシュレス後進国で、それによるムダもバカにできない金額になっている。政府は東京五輪開催などのタイミングを生かして、現金を使わないキャッシュレス決済の推進に力を入れており、それに後押しされて、従来のクレジットカードやIC型プリペイドカードのほか、新たに登場したスマートフォンを使った多様なサービスのあいだで顧客獲得争いが激化。金融系企業やIT各社を巻き込んでの「キャッシュレス覇権戦争」が展開中という。

「キャッシュレス覇権戦争」(岩田昭男著)NHK出版
  • 「QRコード決済」は「百花繚乱」の状態
    「QRコード決済」は「百花繚乱」の状態
  • 「QRコード決済」は「百花繚乱」の状態

ガラパゴス化していた日本

   そのものズバリのタイトルが付けられた「キャッシュレス覇権戦争」は、消費生活ジャーナリストの岩田昭男さんが、キャッシュレス決済の仕組みを試験的に導入した商店会などへも足を運ぶなど、その最前線をルポした。米国で始まったキャッシュレス社会の歴史、急速にキャッシュレス先進国に躍り出た中国の現状などにも触れ、利便性に潜む危険、進む監視社会化の問題にまで筆を伸ばしている。

   都市部ではとくに電車やバスなどの公共交通機関はICカード利用者が増え、大型商業施設や量販店などでは優待付きのクレジットカードの利用を推進しており、ひところよりはキャッシュレス決済が浸透した印象が強い。だが、世界標準からみると日本全体では「キャッシュレス決済の普及はまだまだ進んでおらず、いまだに現金決済の主流の先進国は日本くらい」という。

   引用されている2015年の統計によると、日本のキャッシュレス決済の比率は18.4%。これに対して、韓国89.1%、中国60.0%、米国45.0%などとなっており、これらと比べると確かに日本は低空飛行といえる。日本では偽札がほとんどないなど、強い「現金信仰」をくじく要因もなく、山奥ではない地方都市でもクレジットカードなど使える店が少ないことなどが理由とされる。

   しかし時代が変わり、スマホの機能多様化でキャッシュレス決済を容易にカバーできるようになったことを追い風に、普及を図る機運が広がった。

インバウンド拡大にATMの負担軽減、脱税防止にも効果

   増加が続く訪日外国人旅行者は2020年の東京五輪、2025年の大阪・関西万博でさらにボリュームアップが見込まれるが、政府は「20年までに外国人が訪れる主要な商業施設、宿泊施設及び観光スポットにおける100%のキャッシュレス化を強く促している」ところで、国全体のキャッシュレス決済の比率を25年に40%、将来的には80%にまで引き上げたいとしている。

   キャッシュレス化推進はインバウンド拡大ばかりが目的ではない。別の主要目的として「現金のハンドリングコストの削減」がある。本書で引用されている日本銀行のデータによると、わが国の貨幣(銀行券)の1年あたりの製造コストは約517億円にのぼるが、現金を使わなくなれば、このうちの少なからざる割合を減らすことができるだろう。わたしたちが現金を手にするために使うATMは全国に約20万台あり、ボストン・コンサルティング・グループの推計でそれらにかかる維持管理コストは年間2兆円。こちらの軽減効果も大きいだろうと想像できる。

   キャッシュレス化が進めば金の流れの捕捉が容易になり、税金のとりはぐれを防ぐ効果もあり、脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)の防止にもなるとみられている。

利便性の陰には......

   キャッシュレス決済には、クレジットカード、デビットカード、ICカードのほかスマホを使う方法などがある。スマホ決済のうちでも、主流化が有力視されているのは「QRコード決済」のようだ。本書では、アップルペイなどクレジットカードを登録して使う別のスマホタイプも含めて詳しい説明を加えている。「QRコード決済」は「百花繚乱」の状態で、主なサービスごとに紹介がされている。キャッシュレス決済の導入を個人的に考えている人にも、考えていない人にも、社会の中で今後普及していくことは間違いないようで、その動向を知っておくことは悪くはなさそうだ。

   本書の後半では、それがメーンとなるのだが、キャッシュレス社会のなかに身を置くにあたっては注意しなければならないことが少なからずある。好むと好まざるとにかかわらず「信用スコア」の対象となり、消費を通じて「監視」されるようになり、また、個人情報の漏洩リスクに向き合うことも考えなければならない。

   10月の消費税増税にあわせて国は「キャッシュレス・消費者還元」を実施する計画。キャッシュレス関連の事業者を巻き込んでのキャンペーンで、キャッシュレス決済推進の一環でもある。それまでにキャッシュレス化を知っておくためには格好の一冊。

『キャッシュレス覇権戦争』
岩田昭男著
NHK出版
税別780円