J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

「会社をテレビに取材してもらうには?」放送作家が裏ワザ伝授!《後編》 「正義のヒーロー」を演出しよう!

   「わが社をテレビが取材してくれたら、どれだけPRになることか!」。会社の広報担当者なら一度は夢みるチャンスを現実のものにするセミナー。《後編》では、講師の放送作家、長谷川大雲さんが実戦的なノウハウの伝授に入った。

   それはテレビのツボをしっかり押さえること。「映像」を重視するメディアの特性、クレームを恐れるあまり「臆病」であるという弱点、そして悪役を退治する「ヒーロー」が大好物であること。この3点セットを攻略する秘策とは......。

  • 「常にひらめいてほしい」という長谷川大雲さん
    「常にひらめいてほしい」という長谷川大雲さん
  • 「常にひらめいてほしい」という長谷川大雲さん

番組ホームページの「番組応募フォーム」を活用しよう

   セミナーの後半、長谷川さんはある裏ワザを紹介した。それは、手堅くテレビに売り込む手法だ。広報パーソンのほとんどは、番組とコンタクトを取る方法は、リリースしかないと思い込んでいる。だが、番組ホームページにある「番組応募フォーム」などを活用するのも意外に効果があると明かした。番組への意見やネタを投稿するフォームだが、「あんなモノ真剣にチェックしているの?」と軽視している人が大半ではないか。

「私も以前、関わっていたテレビ朝日『ナニコレ珍百景』では、週一回、番組応募フォームから投稿されたネタをスタッフ総出でチェックする会議がありました。正直、リリースはまともにチェックしないのに、投稿ネタは積極的に吟味しています。これを活用しない手はありません」

   また、広報担当者の中には「わが社には新商品の発売予定もないし、そもそもリリースするネタがないしなあ」と悩む人も多いだろう。そんなセミナー参加者に長谷川さんはこう呼びかけた。

「新商品や新サービスだけがニュースだと思うのは間違っています。じつは、あなた方自身がニュースかもしれません。つまり、メディアが興味を持っているのはあなた方の会社の舞台裏なのです」

   「週休3日制導入」「お昼寝制度」「福利厚生で世界一周旅行」......。情報番組・バラエティーを問わず、テレビは昔からユニークな社内制度特集や会社訪問、社長の自宅訪問が大好きだ。そこに社会問題がからむとすぐに飛びつく。2017年11月、熊本市議会で赤ちゃん連れの女性議員の行動が賛否を呼んだ。その時、テレビ各局が探し回ったのが「子連れ出勤オッケー」の会社の情報だった。

「こういうニュースを目にしたら、すぐに社長に掛け合ってほしい。『社長、わが社のイメージアップの絶好のチャンスです。子連れ出勤を社内制度として今すぐ始めましょう』というように。とにかく広報パーソンは、即行動あるのみです」

「テレビには臆病で情報弱者という弱点がある」

   さらに長谷川さんは「番組制作者と同じ視点を持つことができれば、取材誘致の確率が飛躍的にアップする」と強調した。その視点とは何か?

「今やテレビはどこよりも臆病なメディアに成り下がってしまいました。朝の情報番組で、新聞の朝刊チェックのコーナーがありますね。同じメディアなのに、テレビがライバルの新聞記事を紹介するのはなぜか。新聞の取材力には劣り、ネットメディアの即時力にかなわなくなったという面もありますが、じつはクレームが怖いのです。ほかのメディアが取材した内容を紹介すれば、もしクレームが入っても、そのメディアのせいにできると...」

   この「臆病さ」に加え、テレビを攻略するうえで知っておきたいもう一つの弱点、テレビの急所を吐露した。

「テレビマンは忙しすぎるせいか、意外に情報弱者が多い。私たち放送作家やスタッフがネタ出しをする際も、これは○○という人気情報サイトに載った、『日経トレンディ』も取り上げた、といった風に『流行』と『権威』という印籠を突きつけると、『あっ、そう』とOKが出るケースがあります」

   つまり、テレビを狙うには、臆病なテレビを安心させる根拠をつくることと、流行に弱いテレビを納得させるトレンドを醸成させることが先決となる。そのためには、Web上を自社の情報で真っ黒に染めてあげること。つまり、どんな小さな情報でも「これはニュースにはならないだろう」と、自主規制をかけずに小まめにリリースを配信。もちろんホームページやブログ、SNSも積極的に活用。オウンドメディアの充実化をはかる必要がある。

   また、番組制作スタッフが情報収集のために定期的にチェックしているWebメディアに対し、積極的に自社の情報を提供し、記事を掲載してもらうこともテレビの近道になる。

テレビが商品を取り上げる4つのポイント

「こうして、Web上であなたの会社の情報にテレビスタッフが目を止めたとします。これはおもしろそうだなと。しかし、それだけではテレビは取り上げません。理由は簡単です。テレビは映像だから、常に『これはテレビ的か?』という視点でネタをチェックします。新聞やネットメディアとは違う具体的な4つのポイントが存在するのです」

   その4つのポイントとは、これだ。

(1)今、取り上げる理由は? つまり季節ものか、あるいはニュース価値があるか。
(2)問題の解決になるか? つまり視聴者にメリットがあるか。
(3)何より画が持つか? つまり映像的におもしろいか。
(4)ストーリー性があるか? つまり人間的なドラマがあるか。

   広報担当者から「出たい番組」として人気の高いテレビ東京のワールドビジネスサテライト。その中に新商品を紹介する「トレたま」というコーナーがある。このコーナーもすべてこの4つのポイントで構成されているという。長谷川さんが実例をあげたのは、最近紹介された、傘とキャリーバックが一体になった「快進キャリーバック」というアイデア商品だ。

   「大きな荷物を持っている時の突然の雨。この時期、旅先での雨、気が重くなりますね」というナレーションでVTRが始まる。実際に雨を降らせる映像が流れる。時期は梅雨。つまり、そこには(1)の「今、取り上げる理由」がある。

   続いてナレーション解説で、その商品が、傘とキャリーバッグが一体型になったグッズであることが判明。梅雨の時期に不便さを解決できるから、(2)の視聴者のメリットもクリアした。さらにVTRが続く。「疲れた時は(キャリーバッグに)座ることもできます」。映像では開発者のオジサンが、ヨッコラショと座って見せた。(3)の「映像的におもしろい」もこれでクリアした。

   そしてVTR後半、開発者のオジサンが「70歳になり、キャリーバッグを持ち歩くのがつらい」と、自分の実体験から高齢者に優しいグッズを開発したという秘話が明かされる。(4)のストーリー性も十分あったわけだ。

テレビは「ヒーローもの」の単純な図式が大好き

   というわけで、広報パーソンはこの4つのポイントを常に意識して自社の商材をアピールする必要がある。その際、もう1つ気をつけるポイントを長谷川さんは明かした。

「それは、ヒーロー感の演出です。『社会問題』や『困った』『不便』というヒール(悪役)の襲来を撃退するために、自社の商材が登場するというストーリーにしてあげると、より効果的です」

   はて。ハリウッド映画「アベンジャーズ」のようにするのだろうか? 数年前、ある大手カード会社が新サービスを始めた。予約の取りづらい有名飲食店について、「この店でキャンセルが出たら優先的に連絡してほしい」という会員の希望と、「突然のキャンセルにいつも困っている」という加盟飲食店の悩みを結びつけるサービスだ。急に生じたキャンセル席をカードが買い取り、会員にすぐ公開して購入希望者を募る仕組みだ。

   このキャンペーンの発表会見をプロデュースした長谷川さんは、当時まだまだ知られていなかった「飲食店のドタキャン」の深刻さを知ってもらうために、実際にドタキャン被害にあった店を取材先として番組サイドに紹介するなど、社会問題としてアピール。この新サービスを「ドタキャン退治のヒーロー」にする演出を心がけた。

「小池百合子さんが『都議会のドン』を悪役にして都知事選で圧勝したのと同じ方法ですね。最近だと『NHKをぶっ壊す!』でお馴染みの『NHKから国民を守る党』代表の立花孝志さんもそう。いわゆるVS構造のシングルイシューです。メディアが求めているのはこうした新しいヒーロー像の登場で、特にテレビはわかりやすい構図が大好きなのです」

   セミナー後半。出版社に勤めているという参加者から「ファッション業界を徹底的に批判する本を出すのですが、どうアピールしたらよいでしょうか」という質問が出ると、長谷川さんはこう答えた。

「テレビは臆病だからストレートな批判モノに加担することはまずありません。しかし、単純な批判ではなく、その批判の対象を悪役に仕立て、がっぷり四つに戦うヒーローものにすると取り上げられやすくなります。『NHKから国民を守る党』の例でいうと、単純にNHKを批判するのではなく、NHKを見てもいない人びとを救う、撃退してくれるヒーローという構図を、長年YouTubeを使って形成してきました。ようやくその空気が醸成されてきたからこそ今回、大きく票を伸ばしたのではないでしょうか」

いきなり「テレビに出る」を狙わず、まずは地固めを!

   ここまで話を聞くと、長谷川さんは、テレビに取り上げてもらうためには「何でもアリ」の知略縦横の人物のように見えるが、最後には意外に正攻法を語ったのだった。

「テレビに出ることがすべてではありません。目標を間違えないでください。広報の方と話してよく感じるのが、『テレビに出る』ことはあくまでもPR手段の一つにすぎないのに、いつの間にか目標になっていること。最近は、SNSやYouTubeでの影響力が増し、テレビで取り上げられるより効果があるケースも多い。

いきなりテレビを狙うのではなく、まずは地固めです。マメなリリース配信はもちろん、自社のオウンドメディアを充実させてWeb上にコツコツとアーカイブを構築することが大切。そして何より心がけてほしいのが企画の創出です。ワクワク、ドキドキするものを提供できる会社がこれからは生き残ると私は思います。広報パーソンとして、何かニュースを見聞きするたびに常にひらめいてほしい。アイデアのスイッチが自動的に入る広報に、是非なってください」

そう呼びかけたのだった。

(福田和郎)


◆プロフィール
長谷川大雲(はせがわ・だいうん)
1969年生まれ。鹿児島県出身。様々な職を経て27歳で放送作家に。以降200本以上の番組構成に携わる。主なレギュラー番組は――。
テレビ朝日:「ナニコレ珍百景」「Sma STATION!!」(スマステ)「いきなり黄金伝説」「アレはスゴイはず」「アレはスゴかった」
TBS:「奇跡ゲッター ブットバース」「サタネプベストテン」「ブラマヨ衝撃ファイル!世界のコワ~イ女たち」
フジテレビ:「奇跡体験アンビリーバボー」「(株)世界衝撃映像社」「IQサプリ」
日本テレビ:「週刊ストーリーランド」
また、2016年からは、株式会社カーツメディアコミュニケーションのブレーンとして、多くの企業のPRコンサルティングを務めている。