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「日韓経済戦争」勃発! 意外にクールな韓国の反応 韓国の新聞報道を読み解く

   韓国人元徴用工問題への事実上の対抗措置として、日本政府が半導体などの原材料の輸出規制を強化したことから「日韓経済戦争勃発!」と思われた。

   ところが、かつて日中間が尖閣諸島問題でもめた時のような激しい「反日運動」のニュースは伝わってこない。いったいどういうわけか。韓国の新聞報道から読み解くと――。

  • 文在寅大統領(青瓦台の動画より)
    文在寅大統領(青瓦台の動画より)
  • 文在寅大統領(青瓦台の動画より)

日本の新聞ではあり得ない激しい他紙の社説批判

   韓国大手新聞の中で、もっとも激しく日本政府を攻撃しているのは左派系と言われる「ハンギョレ」(「一つの民族」の意)だ。おもしろいことに、日本の大手新聞では考えられないことだが、「ハンギョレ」は怒りの矛先を日本政府だけではなく、同業の大手紙にも向けている。

   2019年7月6日の社説「日本の報復が『韓国政府の責任』というとんでもない主張」では、具体的な新聞名をあげ、激しく糾弾した。

「呆れて開いた口がふさがらないほどだ。一部のマスコミが、安倍政権の経済報復を韓国政府のせいにしているからだ。安倍政権を助けることになる。強制徴用被害の賠償は、韓国政府の決定ではなく、韓国最高裁(大法院)の判決だ。経済と無関係な最高裁の判決を理由に経済報復を行うのは常識に反するもので、これが今回の事態の核心だ。
ところが、朝鮮日報は4日付の社説で、『今回の事態は強制徴用者賠償をめぐる外交的軋轢のために起こった政府発の爆弾だ』と主張した。これに先立ち、2日付の社説では『日本が韓国の技術弱点を狙って報復を加え、全世界が科学技術の開発に総力戦を繰り広げているが、私たちは(週52時間労働制のために)研究・開発者たちが働きたくても働けない呆れた国になった』と主張した。安倍政権の経済報復と週52時間労働制を結び付けて、韓国政府を攻撃する"想像力"はじつに驚くべきだ。
韓国経済は3日付の社説で『韓国をこのように甘く見る日本の非常識と無礼を、韓国が自ら招いた側面が大きい』としており、文化日報も2日付社説で『文政権が慰安婦合意と最高裁判所関連判決の遅延を積弊とみなし、処断を下したことも影響を及ぼしたと思われる』とし、『文大統領は、自分の過ちは自分で解決する覚悟で、安倍首相と交渉に乗り出さなければならない』と主張した。表向きでは日本を批判しているようだが、じつは韓国政府に責任を転嫁している。
一部マスコミはとんでもない主張をやめるべきだ。政府の対応に誤りがあったとしても、事態悪化の根源である安倍政権の政略を越えるものではない。いくら現政権が嫌でも、このように事態をごまかすのは、国と国民に被害を与えかねない」

   と、憤まんやるかたないようすだ。

「左翼」文在寅政権が韓国経済をダメにしたと保守紙が攻撃

   じつは、この「ハンギョレ」の怒りの様子でわかるように、韓国紙は決して「反日」で一枚岩ではない。今回の事態を招いた責任を、文在寅(ムン・ジエン)政権に問う論調が目立つのである。

   3大紙の「朝鮮日報」「中央日報」「東亜日報」は保守系といわれ、左寄りとみられる文在寅政権にはもともと批判的だ。特に労働界を重視し、財閥や大企業を敵視する政策が韓国経済の弱体化を招いているとみているから、なおさらだ。

   たとえば、朝鮮日報(8日)は社説「危機が迫るや積弊扱いしてきた大企業と対話する韓国政府」の中でこう指摘する。ちなみに「積弊」とは、文在寅政権が攻撃の対象にしてきた「前政権(朴槿恵大統領時代)の弊害」という意味である。

「韓国政府は遅ればせながら、30大企業グループを呼んで対策協議に腰を上げた。文在寅大統領が大統領府に企業関係者を呼ぶのは、大統領就任からこの2年余りの間でたった2回だったが、貿易報復問題が発生するや大あわてで3回目の機会を作ることになった。外交交渉で突破口を見いだそうという努力は見当たらず、何の罪もない企業ばかりを集めて対策を見いだそうというのだ。
これまで韓国政府が見せてきた一連の『反企業政策』と『大企業敵対路線』を考えると、急に始まった企業との対話が唐突でぎこちなく見える。現政権が大企業に好意的ではないことは明らかだ。大企業の法人税を引き上げ、経営権を脅かす法案を次々と打ち出し、産業安全を理由に工場稼働をストップさせる規制を強行した。また、国民年金を通じて企業経営に介入しようとし、企業捜査・調査・捜索が頻繁に行なわれている。
過激な労働組合が韓国全土の建設現場をまひさせ、過度の環境論理に押し切られて製鉄所の高炉が稼働を中止する状況になっているのに、政府は傍観してきた。政府は午後6時になると研究者や技術開発者を強制的に帰宅させる無理な週52時間労働制を押し通した。そうして企業のやる気をそぎ、産業競争力を損なう『自害政策』を連発し、大企業を『積弊』として追い込んできたのに、足元に火がつくや『会おう』と言い出したのだ」

「修学旅行」もヤリ玉、とんでも「反日教育」

安倍首相はどうする!
安倍首相はどうする!

   一方、「反日運動」が広がっているのも事実だ。ハンギョレ(5日)の「手数料払ってまで日本旅行を取り消し...日本不買運動拡散」は、こう報道している。

「ネットユーザーたちは、SNSに『ボイコット ジャパン、行きません。買いません』という文が書かれたイメージとともに、日本製品不買目録を作り共有して、日本旅行をキャンセルした証明写真をアップしている。自動車・電子・衣類・化粧品など業種別に製品を分けて不買目録を作った」
「ユニクロ・無印良品・ABCマートなどの衣類ブランドと、セブンイレブン・ファミリーマートなどコンビニ、アサヒ・キリン・ポカリスエットなどの食品をはじめ、ラッシュ・アンド・キャッシュ、サンワマネーなどの金融機関も含まれた。『#歴史を忘れた民族には未来がない』というハッシュ・タグを付けるネットユーザーもいる」
「日本旅行の取り消し証明写真もアップされている。あるネットユーザーは『大阪旅行を控えていたが、悩んだ末に航空券を取り消した。手数料が1人当り10万5000ウォン(約1万円)ずつかかったが、1か月コーヒーを飲まなければ済む』と書いた」

   こうした反日運動の高まりの中で、朝鮮日報(9日)は教育界にまで広がった動きを「時代錯誤で行き過ぎだ」としてこう紹介している。

「韓国・京畿道教育庁が最近、道内の小・中・高校およそ2300校の児童・生徒および教師を対象に『学校生活の中の日帝(日本帝国)残滓(ざんし)発掘調査』を行い、『修学旅行』といった日常用語を清算対象の『日帝残滓』に挙げたという。修学旅行は日本統治時代、朝鮮の生徒に日本を見学させた行事から始まったとして、修学旅行という言葉まで『親日』と決め付けたのだ。(教育庁トップの)李在禎(イ・ジェジョン)京畿道教育監は、東西南北が入っている学校名も『日帝残滓』とする立場だという。荒唐無稽な話だ」

韓国中の溜飲を下げた防弾少年団の日本公演

   こうした激しい日本製品不買運動、反日運動をいさめる論調も多くみられる。経済専門紙の韓国経済(10日)のコラム「『メイド・イン・ジャパン』なく暮らす」は、こう呼びかけた。

「日本製品不買運動が韓国全土に広がっている。不買リストが出回るかと思えば、日本旅行キャンセルも続出する。日本車への給油を拒否するガソリンスタンド、日本製品販売中断マートも登場した。日本製品を買ったり日本に旅行に行ったりすれば『売国奴』扱いを受ける状況だ。与党議員は『義兵を起こそう』と加勢した。アイドルグループの日本人メンバー退出要求まで佳境に入っている。
しかし年間1000万人が韓日両国を行き来する時代に不買運動が呼ぶ副作用も考えなくてはならない。その影響が韓国の輸入・流通・販売・旅行業界従事者と日本に住む同胞に返ってきかねないためだ。呂健二(ヨ・ゴンイ)民団中央団長が『韓日関係は私たち(在日同胞)には死活問題』と文在寅大統領に訴えるほどだ。
より現実的な問題は『メイド・イン・ジャパン』がなければ韓国がさらに苦しくなるという点だ。ビール、たばこ、衣類などの消費財は代替材もあるが、日本の核心部品素材なくしてスマートフォン、自動車、精密化学など韓国の産業は回らない。病院の超音波CTなどは日本製が大半で、放送も日本製装備がなければ撮影や送出は難しい。
さらに、自由、民主、憲法などの概念語と専門用語はほとんどが近代日本の造語からきた。うどん、とんかつ、ラーメン、居酒屋は韓国人の生活の中に溶け込んだ。日本のアニメ人気もそうだが、これを原作にした『オールドボーイ』のような韓流映画やドラマも作らなかったか。悲憤慷慨な不買運動を理解できないわけではないが、本当に切実なのは切歯腐心して日本に勝つ克日の実力を育てることではないか」

   文化や在日同胞にまで影響を及ぶことを恐れているのだ。

   こうした中、韓国中の溜飲を下げるニュースを中央日報(8日)が報じた。見出しは「日本の経済報復にもビクともしない防弾少年団......『大阪も紫に染めた』」。防弾少年団は日本でも絶大な人気のある韓国の男性ヒップホップグループだ。6日と7日の両日、大阪でツアーを開催、4万7000席のスタジアムを満員にしたのだ。

「韓日関係が冷え込んでいるが、日本ファンの防弾少年団への愛は沸き上がった。3日発売した10枚目の日本シングル『Lights/Boy With Luv』は100万枚の事前予約を記録、オリコンランキングは4日連続で1位を行進中だ。道頓堀には防弾少年団の広報トラックが走り回り、大型電光掲示板には防弾少年団のインタビューが随時流れていた。日本のテレビ局も朝番組から防弾少年団の便りを扱った。業界専門家は『日本の経済報復措置にも文化の流れは防ぎ難い』と口をそろえた。日本政府が反韓感情を刺激しても個人の好みまで関与することはできないという説明だ」

安倍首相を豊臣秀吉になぞらえる有力新聞

   今回の事態を改めて日本と韓国の歴史から見直そうという論調も目についた。中央日報(11日)のコラム「無知または無視:韓国の日本対応マニュアル」は、7世紀の「白村江の戦い」から16世紀の豊臣秀吉の「文禄・慶長の役」へと続く日本の朝鮮侵略の歴史を説き起こし、韓国政府の日本に対する甘すぎる「無策」ぶりをこう批判した。

「世宗大王(16世紀の李王朝の名君)はこんな遺言を残した。『倭(日本)と野人(女真族)への対応は簡単ではない。本当に心配だ。日々気を引き締めて問題がないようにしなければいけない』。朝鮮は日本(壬辰倭乱=秀吉の侵略)と女真族が建てた清国によって領土が蹂躙(じゅうりん)される屈辱を受け、結局は日本に国を奪われた。立派な指導者の見方はやはり違う」

   そして、壬辰倭乱の前には秀吉が攻めてくる兆候がいくつもあり、情報を上げるものがいたのに、当時の指導層はそれらを無視していたと指摘する。

「我々は日本をまともに研究していない。歴史の教科書では韓半島(朝鮮半島)から文物が伝授されたという点と、倭寇が虎視眈々と略奪を狙ったという点が強調される。『植民史観』清算の逆作用だ。教えないものの一つが『白江戦争』(白村江の戦い)だ。西暦663年に日本は少なくて2万7000人、多くて4万2000人を一挙に送ってきて、(敗れたとはいえ)最強大国の唐と一戦を交えるほどの国だった。古代日本は我々が頭の中に描いているような『遅れた島国』ではないことをこの戦争は語っている」

   そして、現在の事態は秀吉の侵略前夜の状況に似ているという。

「今回も3月に日本が韓国に深刻な挑発をしてくる噂が(金融界に)広まり、日本の元官僚が韓国政府側に日本内閣の強硬な雰囲気を知らせもした。それでも韓国政府は機敏に動かなかった。政府に耳も目もなかった証拠だ。昔も今も我々は日本を分かっていない。そして大きな声ばかり出している」

   つまり、日本を「遅れた島国」と蔑視するか、「略奪・侵略を狙う国」と嫌悪するかという短絡的な見方ではなく、正しく危険性を評価・研究すべきだというのである。

(福田和郎)