J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

【日韓経済戦争 番外編】泥沼化の日韓なのに宮部みゆき、池井戸潤、東野圭吾、村上春樹らの人気作品は健在?

   日韓経済戦争の泥沼化で、韓国国内で日本品の不買運動がヒートアップしているなか、意外なことに日本人作家の小説のブームが続いている。

   日本政府による輸出規制強化が始まった2019年7月に入っても、ベストセラーランキングでは日本勢が上位を占めているのだ。いったい、どういうわけか。ブームは続くのか。韓国メディアを読み解くと――。

  • 韓国でベストセラーの薬丸岳「誓約」
    韓国でベストセラーの薬丸岳「誓約」
  • 韓国でベストセラーの薬丸岳「誓約」

不買運動の最中でもベストセラー上位に日本小説

   聯合ニュース(7月23日付)「韓日関係悪化にも日本小説の人気に陰りなし」はこう伝えている。

「日本製品の不買運動が勢いを増すなか、日本の小説の人気は衰えていないもようだ。大手書店の教保文庫が23日に公表した資料によると、韓日のあつれきが本格化した7月に入ってから出版された小説375冊のうち、78冊(20.8%)は日本の小説だった。前月の17.9%より割合が高まった」

「今月の小説分野のベストセラーランキング(21日現在)でも日本勢は人気を保っており、薬丸岳『誓約』韓国語版が3位、東野圭吾『殺人現場は雲の上』が7位、池井戸潤の半沢直樹シリーズ『オレたちバブル入行組』が9位で、10位内に3冊が入った。20位内には12冊の外国小説が入ったが、このうち6冊が日本の小説だった」

というのだ。

東野圭吾「殺人現場は雲の上」
東野圭吾「殺人現場は雲の上」

   そもそも、韓国で日本の小説のブームが始まったのは、2000年代の初めごろといわれる。朝鮮日報(2006年1月3日付)「韓国の若者の間で日本の小説が大ブーム」によると、「小説の分野では日流ブームが巻き起こっている。その先頭には江國香織、吉本ばなな、村上春樹といった作家がいる」という。

   まず、江國香織と辻仁成のコラボ作品「冷静と情熱のあいだ」が2000年に韓国で発売され、約80万部が売れた。江國香織の小説を販売する出版社編集者は「男女が互いに違う視点で恋愛を描き、独立した2冊の本で出版したのが独自の好奇心を刺激するのに一役買った」と説明する。

池井戸潤「オレたちバブル入行組」
池井戸潤「オレたちバブル入行組」

   吉本ばななの「キッチン」も1999年の発売以来、現在までに約25万部が売れており、担当編集者は「吉本氏は地道にファン層を拡大し、次回作を出版するのに大きな負担になることはない」と語り、特に人気が高い作品は「不倫と南米」「ハチ公の最後の恋人」「ハードボイルド/ハードラック」だという。

   江國香織や吉本ばななより先に、韓国に上陸したのが村上春樹だ。1980年代末に出版された「ノルウェイの森」はコンスタントに毎年3万部が売れ、現在までに50万部を突破。村上小説を手がける出版社責任者は「切ない愛をしながらも孤独を感じる現代の若者の喪失感がよく反映され、長年支持されている」と語る。

「江國香織の小説を読むと、自分がヒロインになった気に」

   韓国の若者が日本の小説に惹かれる理由について、朝鮮日報はこう説明する。

「日本小説が特に10~30代の間で高い人気を誇っている理由は何であろうか? 最近の若者たちの悩みや関心事をテーマにして読者が主人公に感情移入しやすいからだ。出版コラムニストのハン・ミファ氏は『韓国で人気の日本小説のほとんどは恋愛がテーマ。特に若い女性が、これは自分の話と思って本を読む楽しさに魅了されている』と語った。大学生のヤン・ミナさんは『江國香織の小説を読む時は自分がヒロインになったような気がする』と言う」

「次に挙げられるのは重苦しい社会的な話題よりも個人の日常を素材にしていて、気軽に読むことが出来る点。大学生のチェ・ジファンさんは『一度読み始めると時間を忘れてしまう。難しいテーマよりも本を読んで少しでも頭がクールダウンできるのがよい』と語った」

   ここ数年、日本の小説を原作にした韓国テレビドラマも増えている。「ソロモンの偽証」(宮部みゆき)、「今週、妻が浮気します」(ネット掲示板から生まれた匿名リアル進行小説)、「鉄の骨」(池井戸潤)、「象の背中」(秋元康)、「人間の証明」(森村誠一)、「白い巨塔」(山崎豊子)、「4TEEN」(石田衣良)、「椿山課長の七日間」(浅田次郎)......などだ。

   しかし、日本の小説の人気は続いているとはいえ、出版業界では反日感情の急激な高まりが販売に悪影響を及ぼす可能性を懸念する向きもあり、日本小説の出版計画を先送りする動きも出てきた。

「日本人の小説を出すなんて、正気なのか?」

   朝鮮日報(7月22日付)「凍り付いた韓日関係に自制する出版界......日本の書籍が相次ぎ出版延期」はこう伝えている。

「日本の大衆小説を専門に出版するブックスピアのキム・ホンミン代表は、フェイスブックで『推理小説の女王』と呼ばれる宮部みゆきの本の広告を出している。しかし、一週間前から広告に『チョッパリ(日本人の蔑称)の小説を出すなんて、正気なのか?』というコメントが付き始めた。キム代表は『出版されて10年たつ本にもそのようなコメントが付いているのを見て急に怖くなり、ひとまず新刊の出版を延期することにした』と話した」
「日本の本の不買運動が始まったわけではないが、出版各社が自ら動きを控えている雰囲気だ。大手書店教保文庫の関係者は『日本の本の販売量が減少したわけではないが、インターネットの世論が尋常ではないため、鋭意注視している』と話した」
「出版社マウム散策は、表紙作業まで終えていた日本の評論家・津野海太郎の『読書と日本人』の出版を無期限に延期した。チョン・ウンスク代表は『ほかにも日本の本3冊の出版作業をストップした』と明らかにした。チョン代表は、最近、日本の映画監督の本を出版したときも、書店関係者からタイトルに『旅館』という単語が入っているため陳列するのが困難だと言われた、と語る」

   「旅館」は、日本の植民地だった時代に日本から入ってきた言葉で、「日帝(日本帝国)の残滓(ざんし)」の一つとして、現在、韓国各地で糾弾されているのだ。

   同紙は最後に、こう結んでいる。

「図書マーケティング企業も火の粉が降りかかるのではないかと注意している。キムヨン社は8月末に予定していた小説家・松家仁之の訪韓イベントの中止を検討している。『本と社会研究所』のペク・ウォングン代表は『民間交流は平常心を持って冷静に行われないと、政界でも心配するだろう』として『政治的な問題が文化全般に過剰に拡大するようで心配だ』と話した」

(福田和郎)