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【日韓経済戦争 番外編】「売国奴は許さない!」日本製不買運動が韓国紙不買に飛び火

   日韓経済戦争が泥沼化するなか、韓国国民の反日感情の高まりが韓国紙の「不買運動」にまで飛び火している。韓国最大の発行部数を誇る朝鮮日報の報道姿勢が「売国的だ」として、市民団体などの怒りを買っているのだ。

   この不買運動をライバル紙があおるかのように大きく取り上げるありさま。さながら内ゲバ状態を呈する韓国の新聞事情を読み解くと――。

  • 「大統領府報道官、朝鮮日報日本語版の見出しを真っ向批判」と報じるハンギョレ(2019年7月18日付)
    「大統領府報道官、朝鮮日報日本語版の見出しを真っ向批判」と報じるハンギョレ(2019年7月18日付)
  • 「大統領府報道官、朝鮮日報日本語版の見出しを真っ向批判」と報じるハンギョレ(2019年7月18日付)

ヤリ玉にあがったのは韓国最大紙の朝鮮日報

   不買運動を大きく取り上げているのは、もっとも激しく日本政府を批判しているハンギョレだ。2019年7月23日「『朝鮮日報』不買に飛び火した日本製品不買運動」はこう伝えている。

「日本の輸出規制措置への対抗として、韓国消費者の日本製品不買運動が広がる中、今度は朝鮮日報をめぐる不買の動きが起きている。朝鮮日報が『反韓感情を煽る方法で、日本語版記事の見出しをつけ、日本政府の主張を拡大・再生産する記事を書くなど、国益を損なっている』という理由からだ」
「7月19日、市民団体『言論消費者主権行動』(言消主)は『8月12日から、朝鮮日報の広告主に対する不買運動を開始する』と発表した。国民キャンペーンとして毎週、朝鮮日報に広告を多く掲載した企業3社を選び、SNSを通じて市民に知らせ、該当企業の製品を買わない方式で行われる」

   つまり、朝鮮日報自体の不買ではなく、広告主の製品を買わない運動によって、間接的に圧力をかけようというわけだ。その理由について、イ・テボン言消主事務処長は、ハンギョレの取材にこう説明している。

「新聞収益に大きな影響を及ぼすのが広告であるため、購読中止運動は大きな効果がないと判断し、広告主の企業に対する不買運動方式を選んだ」

   この団体の新聞に対する不買運動は今回が初めてではない。2008年には、牛海綿状脳症(BSE・狂牛病)に関連して歪曲した報道をしたとして、韓国の三大新聞である朝鮮日報、中央日報、東亜日報の広告不買運動を展開した。この時は、相手から業務妨害で裁判に持ち込まれ、裁判所は広告主に対する業務妨害は成立するが、新聞社に対する業務妨害は成立しないと判決した。

   イ事務処長は、ハンギョレの取材に対し、

「例を見ない誤った判決だ。その後、消費者運動が萎縮した。今回の不買運動が問題になるなら、再びきちんと裁判を受け、判例を変えたい」

と意気軒高だ。

日本語版では日本読者に「ウケる」見出しに変更

「いつでも対話の扉は開いている」と語る文在寅大統領(青瓦台動画より)
「いつでも対話の扉は開いている」と語る文在寅大統領(青瓦台動画より)

   ところで、朝鮮日報の報道のどこが「売国的」なのか。朝鮮日報はもともと保守系の新聞で、左寄りとみられている文在寅(ムン・ジエン)政権には批判的だ。たとえば、7月12日に日本の経済産業省の会議室で開かれた日韓実務者会議で、韓国側代表が「倉庫」のような会議室に案内され、韓国メディアの多くが「無礼な対応」と激高した際も、朝鮮日報は「冷静」だった。13日付の社説「日本の意図的な冷遇に韓国政府・国民は冷静に対応すべき」で、こう諭した。

「冷静かつ落ち着いて対処しなければならない。韓国社会の一部では日本製品の不買運動が始まっているが、これは何のプラスにもならない。日本は韓国政府と韓国国民がどのような態度を取るか計算している。その計算とは違った行動を起こさねばならない」

   しかし今回は、朝鮮日報側にも決定的な落ち度があるようだ。同じ記事なのに、韓国内向けと日本国内向け(日本語版オンライン)の見出しを変えており、日本語版では日本国民に「ウケる」よう刺激的な見出しを付けていたというのだ。ハンギョレはこう伝える。

「朝鮮日報は4日の韓国内向け『日本の韓国投資1年でマイナス40%、最近韓国企業との接触も避ける』という記事を、日本国内向けには『韓国はどの面(つら)下げて日本からの投資を期待するのか?』という見出しに変えた(編集部注:現在は見出しを削除)。また15日の社説では『国債補償、東学運動1世紀前に戻ったような大統領府』という題名を、『解決策を提示せず、国民の反日感情に火を付ける韓国の大統領府』と変更し、日本語版に掲載した」
「これに対し、ネットユーザーたちは『朝鮮日報はもう思い切って捨てよう』『日本の反韓感情を悪化させ、韓日関係を悪化させた責任が朝鮮日報にないとはいえない』などの反応を示した」

   じつは、こうした韓国紙の日韓両国向けの見出しの使い分けは、ほかの大手紙にもある。韓国紙日本語版が刺激的な見出しでアクセス数を稼ぐ問題は以前から指摘されており、今回の「日韓経済戦争」を機に韓国大統領府も堪忍袋の緒が切れた形だ。産経新聞(17日付)「文政権が韓国紙日本語版を『売国的』と批判 事実上言論統制」はこう伝えている。

「韓国大統領府のコ・ミンジョン報道官は17日の記者会見で、日本政府による輸出管理強化について報じた記事の見出しを挙げて、保守系大手紙の朝鮮日報と中央日報を名指しで批判した。特に日本語版サイトの記事で見出しを変えているケースがあると指摘し、『韓国企業が困難に直面する中、何が韓国と韓国民のためなのか答えるべきだ』と疑問を呈した」
「チョ・グク民情首席秘書官も16日、フェイスブックで両紙日本語版の見出しを挙げ、『日本で嫌韓感情の高まりを煽るこんな売国的タイトルを選んだ人間は誰か?』と批判した。別の高官は『国益の視点でみるよう望む』と強調。国難の中、メディアも日本への刺激的な記事の拡散を控えるべきだと半ば言論統制を敷いた形で、メディア側の反発は避けられない」

朝鮮日報の廃刊を求める国民請願数が急上昇

   いずれにしろ、朝鮮日報に対する批判は市民団体の不買運動を超えて広がっている。大統領府の国民請願掲示板には、朝鮮日報の廃刊と系列のTV朝鮮の開局許可取り消しを求める書き込みが寄せられており、7月24日夕現在で15万人以上が同請願に同意したという。

   ハンギョレはこう伝える。

「請願人は『朝鮮日報は、報道の自由を口実に、フェイクニュースで世論を歪曲しており、敵対視する政治勢力を攻撃するためなら検証されていないニュースまでもためらうことなく事実であるかのように報道している』と主張した」

   大統領府の「国民請願掲示板」は、ネット上に設けている国民の意見投稿欄だ。賛同者が30日以内に20万人を超えた場合、大統領府の首席秘書官が声明を発表して回答することになっている。この勢いだと20万人を突破することは確実だ。文字どおり「言論の自由」までからんでおり、どんな声明を出すにしろ、また新たな日韓問題の火種になるのは間違いない。

(福田和郎)