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小売り実店舗の逆襲! アマゾン、「フィジタル」に戸惑う?(気になるビジネス本)

   小売りばかりかエンターテインメントのサービスや、先端的なテクノロジーに至るまで、消費の世界の「覇権」を握った感があるアマゾン。本書「amazon『帝国』との共存」によれば、タイトルにあるとおり、そのプレゼンスは「帝国」に擬せられるほど強大化している。

   既存の小売り企業などは、その「帝国」の攻勢にたじたじとなって後退一方の印象なのだが、本書によれば、アマゾンが開拓したECのテクノロジーと、アマゾンが持たないアナログな実店舗を融合させるなど、したたかな新戦略でサバイバルの道を探っている。

「amazon『帝国』との共存」(ナタリー・バーグ、ミヤ・ナイツ著/成毛眞監修)フォレスト出版
  • アマゾン・ブックス、アマゾンゴーなどリアル化も怠ってはいない
    アマゾン・ブックス、アマゾンゴーなどリアル化も怠ってはいない
  • アマゾン・ブックス、アマゾンゴーなどリアル化も怠ってはいない

リアル化進めるアマゾン

   著者の2人は、欧米の小売業界でアマゾンをつぶさに観察し続けているアナリストら。原書は2019年1月に刊行された。アマゾンは日本でも大きな存在になっており、元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞さんが18年8月に『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(ダイヤモンド社)を上梓。その成毛さんが本書では監訳を務め、「監訳者まえがき」を寄せている。成毛さんの「まえがき」は、読書前のよいガイダンスだ。

   帝国化、巨艦化したアマゾンをめぐる最近の話題は、リアル書店のアマゾン・ブックスや、レジに人がいない無人コンビニ、アマゾンゴーなど実店舗オペレーションへの進出・拡大だ。これらと前後して米国では、高級スーパーチェーンの「ホールフーズ」を買収しており、アマゾンのオフライン展開の真意がさまざまに憶測された。

   一方で、これまでアマゾンの勢いに押しまくられてきたウォルマートなどリアル店舗の小売企業らは、オンラインで正面からアマゾンに対抗する路線からシフト。アマゾンとは逆に、オフラインの実店舗ネットワークとオンラインビジネスを融合させるビジネスに力を入れている。本書によれば「O2O(オー・ツー・オー)」と呼ばれるもので「オンライン・ツー・オフライン」という意味。EC事業で予想される大きな変化を象徴するキーワードだ。アマゾンのオフライン化は、この「O2O」の影響によるものらしい。

   ECが普及し始めたころから比べると、通信環境は格段に向上し、スマートフォンなど小型端末が広く普及。店舗で店員が小型端末を使い、商品などについて詳しく説明するサービスができるようになり、リアルなショッピングを楽しみたい消費者が回帰している。

   米国ではとくに店舗が広く商品を探し回らなければならない手間や、週末の買い物ではレジ待ちの長い列に並ばなくてはならなかったが、これらのことも、高速通信やモバイル機器が解消に貢献。各店ではWi-Hi、ブルートゥース、音声、動画、磁気センサー、AR(拡張現実)、3Dバーチャルなどあらゆるテクノロジーを駆使し、スマホやほかのモバイル機器で、商品を素早く見つけられるマッピングシステムを導入する小売施設も現れている。

受け取り、返品でリアルが有利に

   アマゾンがもてはやされるようになり、さまざまな小売企業がECに参入。小規模店のなかには、デジタル化にさいなまれ、来店客にスマホで購入可能か検索できないよう店内を通信のオフエリアにするケースもあったという。ところがいまでは、スマホがオフラインとオンラインの橋渡し役を演じる様変わり。消費者は店内で商品の詳細を知るツールとして活用、その際に最も使われているのがアマゾンのサイトだ。カスタマーレビューは購入可否を決める絶好のアドバイスになる。

   「O2O」の動きはそればかりでなない。アマゾンがサービスの充実を図り顧客を伸ばしてきて「フルフィルメント」の分野でもオンラインとオフラインの融合が進んでいる。というより、オフラインとの融合の方が消費者には好都合だった。現代の消費者は、オンラインで注文した商品の受け取りや返品を実店舗で行うことを好む傾向が強く、その受け皿の役割を果たしたものだ。そして「来店」があるから、店舗にとってもインセンティブが高まる。

   米チェーンのターゲットでは、オンライン注文の品をピックアップにきた客の3分の1がついでに買い物をし、米デパートチェーン、メーシーズでは25%分の追加購入実績があった。英家電量販店のアルゴスでは「クリック&コレクト」をいちはやく導入。当初は「奇抜」ビジネスモデルとされたというが、5年もしないうちに同国の小売必須モデルとなった。

   かつては10%を下回る返品率だが、取り扱い範囲が広がるにつれ拡大。いまでは30%程度となり、アパレルでは40%にもなるという。消費者にとっては返品となると、簡単な方法で行いたいもの。米ホームセンターのザ・ホーム・デポではオンライン注文の返品のうち85%が実店舗に持ち込まれるという。ピックアップの場合と同様、返品目的で訪れた客も買い物をする場合が多く、3分の2がついでに何かを購入する。ビジネスチャンスとみた小売業界では、このトレンドを「BORIS(Buy Online Return in Store=オンラインで購入、店舗で返品)」という言葉で表現。EC専業に対して有利な立場に立っている。

「O2O」がトレンド

   「帝国」アマゾンとしては、オフライン効果を無視できないようで、実店舗のオペレーション着手や、ホールフーズ買収のあとには、宅配便受け取り用の「アマゾンロッカー」をスタート。郵便局や配送業者の拠点以外に、受け取り・返品場所のオプションを設けた。

   アマゾンは17年の終わりに、米デパート大手、コールズと提携して同社の店舗で返品できるシステムを構築。また、アマゾンと同じEC専業業者が実店舗を持つ小売と提携関係を結び「O2O」に遅れをとらないよう対策をとっている。

   「クリック&コレクト」や、返品の店舗受付は、配送コストの節約にもつながり、また、実店舗があれば新規顧客をめぐってもコストは安価になるという。こうしたことなどから、「O2O」の動きのように、今後はますますオンラインとオフラインの区別があいまいになるのではないかという。そうした現象を象徴して「フィジタル」という新しいことばが登場している。「フィジカル(physical=物質の、自然の)と「デジタル(digital)」を合わせたものだ。成毛さんは「まえがき」で「今後のビジネスのキーワードになる予感をさせる」と述べている。

「amazon『帝国』との共存」
ナタリー・バーグ、ミヤ・ナイツ著
成毛眞監修
フォレスト出版
税別1800円