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「鬼っ子」リブラ、じつは「ホンモノ」! それゆえリアル社会には出回らない?(志摩力男)

   フェイスブックが仮想通貨「リブラ」を発表しました。

   フェイスブックの会員は27億人。間違いなく世界中で使われることになる仮想通貨になるはずですが、仮想通貨業界の反応は冷淡でした。

「技術的に見るべきところがない」
「中途半端な仕様」
「為替バスケットの管理は難しく、失敗する」

という意見が多く見られ、諸手を挙げて歓迎というムードはありませんでした。

  • フェイスブックの仮想通貨「リプラ」はどうなるのか!?(写真は、米フェイスブック本社前)
    フェイスブックの仮想通貨「リプラ」はどうなるのか!?(写真は、米フェイスブック本社前)
  • フェイスブックの仮想通貨「リプラ」はどうなるのか!?(写真は、米フェイスブック本社前)

仮想通貨業界は認知度が高まると困る?

   それはそうでしょう。「リブラ」の誕生で仮想通貨の認知度が高まり、業界全体にとってもよいということには、恐らくならないからです。いつまで経っても使い場所のない、本当にバーチャルな存在でしかない多くの仮想通貨と違い、「リブラ」は本物です。世界中で使うことのできる「通貨」になり得ます。

   また、「リブラ」は価値の安定した、いわゆるステーブル通貨です。リブラを購入した人の資金は、ドルやユーロと言った先進国通貨に分散して預金され、「リブラ」の価値を担保することになりますが、多くの仮想通貨にはそのような「本源的価値」を担保するものが何もありません。

   ただ単に、市場で値段がついているだけです。

   使う場所がなく、「本源的価値」もないとなれば、多くの「草コイン」は一気に色あせることになります。そうなれば、一部の人は当然、フェイスブックが(おそらく実質的に)管理することになる「リブラ」を使うことを嫌うでしょう。

   その意味では、ビットコインのような、人々の認知度が高い通貨は生き残る可能性が高いともいえます。

米国政府からの集中砲火

   仮想通貨業界も、ITバブル後のIT業界と同じ道をたどるのではないかと思います。現在、世界中には数え切れないほどの仮想通貨があります。ITバブルのときもそうでした。語尾に.com(ドットコム)という名前のついた会社が、まさに百花繚乱のごとくありました。しかし、バブル崩壊などを経て、今は「GAFA」と呼ばれる数社に集中しています。仮想通貨も、恐らくそうなるのではないでしょうか。

   ビットコインの性能が悪いからハードフォークしたはずですが、性能の悪いビットコインがますます使われるようになっています。本当に資金移動に使いたいとき、十分な「流動性」のある仮想通貨は、現状ではビットコインしかありません。取引量、時価総額が大きいからこそ選択されます。

   他の通貨では、少しの資金移動でも値が飛んでしまい、実質的に使えない状況になっています。

   さて、仮想通貨業界から歓迎されていない「リブラ」ですが、金融界や政界といった、いわゆる「既存勢力」からは、もっと大きな声で反対されています。

   米議会は「リブラ」開発責任者であるデビッド・マーカス氏を呼んで数時間も「公聴会」を行いました。これまでのフェイスブックに対する不信が背景にあるとは思いますが、議員の方々の反応には凄いものがあります。

   パウエルFRB議長は、当初は「利点もある」と一部評価していましたが、すぐに態度を翻し、今では「深刻な懸念」があるとしています。G7(先進国首脳会議)やG20(先進国+新興国)でも議論され、G7では「最高水準の規制が必要」と、議長総括まで公表されました。

   すなわち、

「最高の規制基準を満たすこと」
「利用者保護と保証を確実にするため、すべての管轄地域で適切な法的根拠を示す」
「サイバーレジリエンスを確保すべき」
「資産管理は市場の完全性を確保するため、安全で透明であるべき」

―― などです。

   これらの規制のすべてを満たすだけでも大変です。おそらく、すべてを満たすには数年、もしくはそれ以上かかるのではないでしょうか。

途上国経済を破壊しかねない「リブラ」

   では、「リブラ」の何が問題なのでしょう――。

   世界中では、銀行口座が持てない人たちが20億人弱いると言われています。「リブラ」を使うことで、こうした人たちも資金決済のシステムに入ることができるようになります。それは素晴らしいことだと思います。

   「リブラ」の宣伝を見ると、いかにもそのような雰囲気のビデオが流れます。

   しかし、開発途上国で「リブラ」を購入した人の資金は、ドルやユーロ、円といった先進国の通貨に分散預金されます。つまり、途上国から先進国への資金流出です。

   自国通貨より「リブラ」のほうが、信用度が高いと考える人も出てくるでしょう。より多くの資金が途上国の銀行システムをすり抜け、先進国に流れることになります。途上国の銀行システムは重大な危機にさらされ、途上国政府は徴税に困難をきたし、資金調達もままならなくなります。通貨は減価し、インフレが止まらなくなるでしょう。途上国の人々に利便性を与えるための「リブラ」が、結果的に途上国経済を破壊しかねないのです。

   日本も安心できません。アベノミクスはインフレ政策ですが(実現はできていませんが)、本当にインフレになると考える人が増えると、「リブラ」購入はかんたんなインフレヘッジになります。これは他の国も同様で、インフレ政策が取り難くなります。

   旅行の際に持ち出せる現金の金額が決まっているように、多かれ少なかれ、何らかの為替管理をすることで多くの国の経済が成り立っています。中国や韓国は、未だに発展途上国の様な厳格な為替管理を徹底しています。「リブラ」が誕生すると、簡単にこうした管理をすり抜けることができるので、規制したいと思う国は多いでしょう。

トランプ米大統領は面白くない

   一方、途上国から先進国に資金が流れることになりますが、多くは(5割ほど)は米ドルとなります。「リブラ」が広まれば広がるほど、ドルが上昇圧力を受けます。トランプ米大統領は面白くないでしょう。

   また、先進国通貨へ分散投資されるということは、先進国の金融システムを利用することになりますが、システムへのタダ乗りと批判されても仕方ないでしょう。ゆえに銀行免許が必要との批判に繋がります。

   マネーロンダリングなどのリスクもまだ完全に解決されたわけではありません。反社会的勢力の資金が「リブラ」システムを使い、警察力の及ばないところに送金され、現金化される。またそのプロセスを繰り返すことで、容易に資金洗浄されます。

   ハッキングされた資金も、「リブラ」のように広い範囲で使われる仮想通貨では、法定通貨化する手段も多くなります。

   途上国の金融システムを破壊し、先進国の金融政策を制約、ハッキングやマネーロンダリングのリスクが消えないのであれば、「リブラ」が世に出てくることは難しいのではないかと、個人的には思います。(志摩力男)