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部門間に不協和音 それはトップのリーダーシップが「欠如」しているからだ!(大関暁夫)

   NHKの8月恒例、終戦がらみの特番「激闘ガダルカナル~悲劇の指揮官」を観て、思うところあり、前回に引き続き第二次大戦の敗戦から学ぶ話題を取り上げます。

   ガダルカナル戦は、日本の南太平洋における戦線が縮小に転じるきっかけを作った、重要な戦いでした。番組では新たに入手した戦時記録を元に、この戦いが敗戦に至った理由を解明し、無理な突撃を指揮して自滅したとされ、長年その責を問われてきた一木清直大佐はむしろ軍幹部方針の犠牲となった被害者であった、という流れで組み立てられていました。

  • トップが「リーダーシップ」を発揮しないと……
    トップが「リーダーシップ」を発揮しないと……
  • トップが「リーダーシップ」を発揮しないと……

一木隊全滅の真相はいかに

   ガダルカナル島は現ソロモン諸島に属する南太平洋の小島で、戦時に日本はここを南方戦略の重要拠点と位置付け、1941(昭和16)年から海軍がこの地に密かに空港を建設。南太平洋における制空権を手中に収め戦局を有利に進めようとしていました。

   一方で米軍は、ミッドウエイ海戦に大勝した昭和17年、日本がガダルカナルに空港を建設したとの情報を得て当地への上陸を企て、日本軍の無防備な状況を利して容易にこれを成し遂げました。

   空港を建設した海軍幹部は陸上戦を得意とする陸軍幹部に協力要請を求め、陸海軍共同作戦として空港の奪還に動くことを決めました。

   これを受けて陸軍は、総勢2000名の精鋭を集めた一木隊をガダルカナル島へ派遣します。しかし、米軍は日本軍の動きを事前に察知して1万3000人の大部隊を海路派遣し、日本軍の反撃に万全の迎撃用意を整えていました。

   一木隊は海路上陸を成功させ空港への歩みを進め、夜襲による空港奪還を企てますが、大隊の米軍に迎え撃たれ、劣勢のまま海軍航空隊の支援を待ちます。

   しかし海軍はこの時、近隣海上に米軍空母を発見。急遽、航空部隊を一木隊後方支援ではなく空母への攻撃を優先する指示を出してしまうのです。その意図は、ミッドウエイ海戦の復讐戦的攻撃による名誉挽回を優先するという身勝手なものでした。

   結果として、一木隊は海軍航空隊の支援を得られることなく全滅の憂き目に、という顛末がガダルカナル戦一木隊全滅の真相であった、と新たな資料は伝えているのです。

陸軍、海軍ともに身勝手だった

   資料はさらに、陸軍の怒りと陸海軍の連帯決裂状況も伝えています。陸軍の怒りは、海軍の要請を受けて一木隊を派遣していながら情報不足で相手勢力を見誤ったうえ、海軍の身勝手な方針で後方支援を得られずに一木隊を見殺しにされたことに端を発しています。記録によれば、大本営を舞台に激しく海軍に抗議する陸軍幹部にとこれに反駁する海軍幹部のやりとりは、以下のようなものでした。

陸軍幹部「海軍は、ガダルカナルで戦っている我々の兵士を見殺しにする気なのか」
海軍幹部「戦争に人情論を持ち込んでほしくない。戦略的に対局を見る立場からは、今は島の地上戦ではなく敵艦隊を叩くことが優先である」

   このやり取りを受けて陸軍幹部は、「今後一切、海軍には協力しない」という強い決別の言葉を残して席を立ったと資料にあります。

   この陸海軍の間に生じた決定的な亀裂は、この後、戦局が日本軍にとって一層厳しくなっていく中で敗戦に向かって大きく足を引っ張ることになったということが、新事実として明らかになったのでした。

   問題点はどこにあったのでしょうか――。結局、陸軍、海軍ともにそれぞれの指導者の元で、勝手な活動を続けていました。なぜならば当時の軍国主義の日本において、政治家はたとえ首相であろうとも、天皇直轄を意味する「皇軍」を名乗る軍部に対して指導的な立場には立てませんでした。

   一方で天皇の立場はといえば、名目上は国のトップに立っていたとは言え、現実には現場実情を知る由もなく、具体的な指示を下す立場にはなかったのです。すなわち陸軍、海軍両軍に対して統括的に指示を下す者はなく、それぞれの軍のトップ指揮下でそれぞれの思惑優先で動いていたということが、日本軍にとって大きな問題点のひとつであったのです。

「良きにはからえ」は日本軍と同じダメ経営者

   ダメな二代目、三代目経営者に見られる代表的なタイプのひとつに、創業者や先代が築き上げてきた実績にあぐらをかき「良きにはからえ」とあらゆる判断を現場任せにする、とういうものがあります。

   これは先の日本軍と同じトップのリーダーシップ不在状態であり、結果的に組織内のセクショナリズムが助長され部門間意思疎通不在に陥って、会社自体をおかしくしてしまう経営者です。ガダルカナル戦における日本軍の話は、このような部門間意思疎通不在が最終的には致命的な敗戦につながることを教えてくれています。

   二代目、三代目経営者に限らず、たとえば社内の「製造」と「営業」といった中核部門がうまく折り合わず、非協力的であったり、いがみ合ったりして少なからず企業業績の足を引っ張るようなケースは、企業の大小を問わずに多く見受けられる話でもあります。

   日本軍の失敗に学ぶならば、このようなケースでは真っ先にトップのリーダーシップの欠如を疑うべきでしょう。

   すなわち、もし自社内の部門間に不協和音が感じられるなら、それは経営者自身の責任であり、早期にリーダーシップを発揮しないと自社は「敗戦」に向かう危機に陥るかもしれない。そんな危機感を持って経営者が早期に対処するべき重い病いなのです。(大関暁夫)