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IR=カジノじゃない! 広さは全体のわずか3% シンガポールではギャンブル依存症減らす効果

   統合型リゾート施設(IR)をめぐって政府は2019年9月4日、整備に関する基本方針案を発表して数項目にわたる立地区域の選定基準を示した。その場所はIR整備法で最大3か所とされ、すでにいくつかの県や市が名乗りをあげている。

   建設地は2020年中にも決まり、早ければ25年にも開業予定という。着々と構想は進んでいるようだが、IRの目玉の一つはカジノで、いまだ導入に反対する声もあるなど、どこかすっきりしないような感じでわかりにくい。そう感じている人にはとくに、本書「IRはニッポンを救う! カジノ? それとも超大型リゾート?」は、格好の解説書。

「IRはニッポンを救う! カジノ? それとも超大型リゾート?」(渋谷和宏著)マガジンハウス
  • 米ワシントンDC郊外に2016年開業したIR、ナショナルハーバーのHP。米国の首都を変身させたといわれる
    米ワシントンDC郊外に2016年開業したIR、ナショナルハーバーのHP。米国の首都を変身させたといわれる
  • 米ワシントンDC郊外に2016年開業したIR、ナショナルハーバーのHP。米国の首都を変身させたといわれる

政府が基本方針案発表、場所は来年決定

   著者の「シブチン先生」こと渋谷和宏さんは、日経BP社で数々のビジネス誌を手がけたのちに経済ジャーナリストとして独立。作家として創作活動も行っており、テレビのコメンテーターとしても知られる。

   本書では、シブチン先生が引率して、IRについて何もしらないJ平(じゅんぺい)やK子といった人たちがリサーチする格好で展開。予備知識などなくて理解しながら読み進められる。

   この9月4日に発表されたの基本方針案は、2018年7月に成立したIR実施法(正式名称「特定複合観光施設区域整備法」)を受けてのもの。「この法律によって国がIRについての基本方針を定め、IRを誘致したい自治体から申請を募ることになったんだ」とシブチン先生。この法律ができるきっかけは、10年にIR誘致を目指す超党派の議員連盟が発足したこと。そこから、カジノを解禁するなどの法律制定の動きが広がった。

   その法律の一つが16年12月に成立したIR推進法(「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」)。シブチン先生は、この法律が「日本で『IR=カジノ』という見方が広がったきっかけ」とみる。「IR推進法の成立によってカジノ解禁の道筋が示されたので、一部のメディアがIR推進法をカジノ推進法と呼んだ。ここから『IR=カジノ』という見方が広がっていったのではないでしょうか」

「IR=カジノ」のイメージなぜ?

   さて、IR推進法をきっかけに前面に押し出される格好になったカジノだが、これが有害視されるのは、ギャンブル依存症のイメージがつきまとうからだ。さらにはそこから広がって、IRの多くがカジノで占められるかのように思われ、なかには大規模な秘密の賭博場を連想する人もいるという。

   IR実施法では、その施行令によって、カジノの営業区域の延べ床面積はIR全体の3%以下に制限。もちろん、IRの一施設という位置付けだ。このようにIRの一部にしか過ぎないカジノなのだが、収益面では重要な存在。日本のIRは、シンガポールの例を参考にしているが、同国のIRの一つ「マリーナ・ベイ・サンズ」では、全体の売上高のうちカジノが占める比率は78%。面積で3%に満たないカジノが売り上げでは8割近くをもたらしているのだ。

   シブチン先生はこうもいう。主要先進7か国(G7)のうちカジノが導入されていないのは日本だけだが、「全国津々浦々にあるパチンコ店は他の国ありません」。さらに枠を広げて世界に目を転じれば、国連に加盟する193か国・地域のなかでカジノが合法化されているのは145か国・地域。18年時点で世界には計約5000か所のカジノ施設があり、その市場規模は約1800億ドル(約19兆8000億円)と推計されている。

ギャンブル依存症割合、日本は高め

   せっかく造る国際標準のIRなのだから、小さなスペースで効率よく稼げるカジノをやらない手はないというわけだが、ギャンブル依存症をめぐる懸念はどうか――。

   WHO(世界保健機関)や米精神医学会によれば、ギャンブル依存症は明確に精神疾患であり、治療が必要な病気の一つ。「気になるのは『ギャンブル依存症という病気にかかっている人は、日本にはどの程度いるのか』『世界ではどうか』ということ」とシブチン先生。本書では、アルコール依存症の治療などで知られる国立病院機構久里浜医療センターが2017年9月にまとめた調査から推計した「ギャンブル依存症が疑われる日本人の割合」を紹介。その数字は3.6%で、高くても2.4%ほどのカジノが解禁されている国・地域より「高い水準にあると言わざる得ない」のが実情。だが、シブチン先生が医療関係者ら専門家に聞いたところでは、国内の繁華街ならどこにもあるパチンコ・パチスロ店の依存症のリスクを高めているのではないかという。しかし、その因果関係がはっきりしているわけではない。政府は9月4日に発表した基本方針案で、ギャンブル依存症対策の確実な実施を明記している。

   日本が手本にしているシンガポールのIRは、世界最高水準とされるカジノ入場規制を実施。依存症が疑われる人の入場は禁止されるかあるいは回数が制限されている。合わせて3年ごとに、厳格な米精神医学会の診断基準に照らして、ギャンブル依存症が疑われる人の割合を調査しているが、それによると、カジノ開業前の05年には4.1%だった依存症が疑われる人の割合は、開業後の11年には2.6%に低下。17年には0.9%まで下がった。

   「シンガポールでは10年のカジノ開業以前から、競馬やスポーツの勝ち負けを予想するスポーツ賭博が人気。開業前の4.1%という数字は、これら合法ギャンブルの影響が考えられるが、その後の数字を見ていくと、カジノがギャンブル依存症を悪化させたり、スリップ(止めていた人が回帰すること)させたりしてしまう事態は避けられたと言えそう」とシブチン先生。

   本書は、どちらかというと、IRを大きなビジネスチャンスと捉えているのだが、やはり「IR=カジノ」の見方にひっぱられたか、ギャンブル系のリスク対策について紙幅が増えてしまったようだ。

「IRはニッポンを救う! カジノ? それとも超大型リゾート?」
渋谷和宏著
マガジンハウス
税別1300円