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【日韓経済戦争】「戦犯企業」不買条例はストップしたが......リストアップされた企業のトンデモ実名

   韓国では日本の輸出規制強化への報復として、各地の地方自治体が特定の日本企業を「戦犯企業」と決めつけ、公共機関がその製品を買わないことを条例で定める動きが進んでいたが、2019年9月17日、この動きにストップがかかった。

   全国市道議会議長協議会が、とりあえず「各地の条例案を保留する」と決めたのだ。すでに条例を可決したソウル市、釜山市、京畿道など5議会もこれに追随する動きを見せている。

   それにしても、どんな企業が「戦犯企業」にリストアップされているのか。韓国紙を読み解くと――。

  • 「戦犯企業」の購入制限条例を可決したソウル市議会(聯合ニュース2019年9月6日付)
    「戦犯企業」の購入制限条例を可決したソウル市議会(聯合ニュース2019年9月6日付)
  • 「戦犯企業」の購入制限条例を可決したソウル市議会(聯合ニュース2019年9月6日付)

戦後生まれの企業がなぜ「戦犯」になる?

   まず、条例ストップの動きから見ていくと、朝鮮日報(2019年9月18日付)「市・道議会議長ら『日本戦犯企業不買条例を中止しよう』」がこう伝える。

「全国市・道議会議長協議会は9月17日、ソウル市内で非公開の会合を開き、(戦犯企業)が発議されている、あるいは検討段階にある12議会で立法手続きを可能な限り保留することにした。既に可決されたソウル市・京畿道・釜山市・江原道・忠清北道の5市・道は『今後の条例案の処理過程で通商問題などの国益を最優先に考慮して対応する』という見解をまとめた」

   これで事実上、中止に決まった形だ。いったいどうして止めることにしたのか。

「中止することにしたのは、政府の積極的な説得が影響しているものと見られている。外交部・産業通商資源部・行政安全部など関連部署の関係者が地方議会議長団を自ら訪れて条例案の問題点を知らせ、積極的な説得作業に乗り出した」

   問題点は主に3つあった。「戦犯企業」の範囲が漠然としてあいまいなこと。それらの企業の製品は、実質的に現地法人である韓国企業が販売しており、韓国人まで被害が及ぶこと。そして、政府側が一番懸念したのは自治体が製品の購入を強制的に制限した場合、世界貿易機関(WTO)の規定に反する可能性があることだった。

   日本をWTOに提訴して戦っている最中の韓国政府にとって、後ろから鉄砲を撃たれるようなものだったのだ。

   ところで、「戦犯企業」とは何か――。たとえば、ソウル市が定めた「戦犯企業」(284社)の定義はこうだ。

(1)戦前に韓国国民を強制的に動員して被害を与えた企業。
(2)戦後、(1)の企業の資本によって設立されたか、(1)の企業の株式を保有している企業。
(3)これら(1)と(2)の企業を吸収・合併した企業。

   この「定義」だと、戦後に作られて、もちろん戦時中は何も「戦犯」めいたことをしたことがない企業までかなり多く含まれてしまう。具体的には韓国政府が作成した「戦犯企業リスト」があり、各自治体はそれを踏襲しているのだ。

ベビー用食品、お菓子、下着メーカーが戦犯?

   2012年8月、韓国首相室所属の「強制動員被害調査委員会」が、強制連行の事実がある日本企業1493社を調査した結果、「299社」が現存していると把握したという。調査には、動員された労働者の厚生年金台帳など日本政府、企業側の記録や、研究資料、該当企業ホームページなどが使われた。この「299社リスト」が各自治体の「戦犯企業」のベースになっているのだが、メディアやインターネットネットでは公表されていない。

   この「戦犯企業リスト」を入手し、
韓国政府作成『戦犯企業』273社実名リスト」(275社版もあり2019)
としてホームページ上に公開しているのが「歴史認識問題研究会」(西岡力会長)だ。

   それによると、同会事務局の長谷亮介氏らは、2018年7月に韓国釜山の「国立日帝強制動員歴史館」を訪れて調査した。展示の中に「299社」を調査した政府委員会が作成した「日帝強制動員現存企業」の実名が、ビデオで次々に映されるコーナーがあるからだ。そのビデオを分析し、重複する企業を整理すると、299社ではなく273社になった。それを「戦犯企業273社実名リスト」(2019年版は275社)にまとめた。

   同会では、「本リストに挙げられている企業の方々も、韓国側の請求は不当なものであるということを、事前に認識して頂けるのであれば幸甚である」として公開したとしている。

   このリストを見ると、三井、三菱、住友、古河など旧財閥系企業や、大林組、鹿島建設、熊谷組、大成建設、竹中工務店、間組、飛島建設などの建設会社、岡部鉄工所、神戸製鋼所、山陽特殊製鋼、日本製鋼所、JFEスチールなどの製鉄業、東芝、日立製作所、パナソニックなどの電機メーカー、大阪ガス、東京ガス、中国電力などのエネルギー企業、またJRグループといった重厚長大な企業名が並ぶ。

   しかし、「漏れ」があるのに気づく。たとえば中国電力はあるが、東京電力や関西電力などの名前はない。戦前の電力会社は「日本発送電」という一つの半官半民の巨大会社で、戦後にGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)によって、今の大手10社に解体されたのだ。

   自動車業界では日産、いすゞ、マツダの3社が入った。これらの前身は戦前の1930年代頃から自動車を製造していた。しかし、同じく30年代から造っていたトヨタが入っていない。何より三菱系企業はほとんど入っているのに三菱自動車が入っていないのが不可解だ。

   また、「戦犯企業」のイメージにそぐわない有名企業も散見される。味の素(食品)、グンゼ(下着)、森永製菓(食品)、和光堂(幼児用食品)などだ。各社の会社概要・沿革史などを見ると――。

   味の素の設立は戦後の1946年だ。ただし、終戦直前に前身の会社が九州などに化学工業の工場を持っていた。グンゼは創業が1886年(明治29年)で、海外各地に生糸の紡績工場を持っていた。ただし、「女工哀史」とは違って、女子工員を大切に扱い、工場内に女学校を作っていたとある。

   森永製菓は、1899年(明治32年)創業、兄弟会社の森永乳業とともにずっと食品、菓子専門だった。ただし、終戦前の1943年に系列4社が合併して「森永食糧工業」と名称変更。食糧増産に努めた可能性がある。

   和光堂は戦後の1953年に設立されている。かつては製薬会社の三共(現・第一三共)の子会社だったが、2007年にアサヒグループの傘下に入った。しかし、第一三共、アサヒビールともに戦犯リストに入っていないため、なぜ「戦犯企業」になったのか不明だ。

(福田和郎)